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第93話
身体の奥底に響き渡るような振動音が鳴り響き、そして止んだとき。
高能力者 達の動きは早かった。
まず全員がすぐさま椅子を蹴って立ち上がり、スルジャが素早くジュセルの横に来てその身体を覆い隠し、ヤーレはさっと窓の傍に行って外の様子を眺め、そしてナジェルはいつの間にか取り出した二本揃いの短刀を両手に構えて扉から外へ駆けだしていた。
「スルジャ、ジュセルを頼む!あそこに行け!」
ヤーレはそう叫ぶと窓を押し開けてそのまま自分も外へ飛び出していく。言われたスルジャは軽々とジュセルを抱えあげると、そのまま厨房の方に向かって駆け出した。
「え、スルジャ、どこに」
「後で!」
切羽詰まった声のすぐ後に二度目の爆発音が轟いた。再び屋敷が揺れる。ジュセルは口を閉じて運ばれるがままに従った。今は訳がわからずとも、言われるがままにする方がいいと判断したからだ。
スルジャは厨房の奥にある食糧庫まで来るとジュセルを一度床に下ろし、食糧庫の横の壁にある煉瓦を掌全体でぐっと押した。
すると、食糧庫自体がズズズという重い音とともに前にせり出してくる。そんな機能があったとは露ほども知らなかったジュセルはあんぐりと口を開けた。
前にせり出してきた食糧庫を、スルジャがぐっと横に押しやると、奥に結構な広さの空間があるのが見えた。
「入って!」
グイと身体を押され、隠し空間の中に押し込まれる。スルジャもすぐさま一緒に中に入って何やら操作をすれば、またズズズという重い音がして扉が閉まっていく。完全に暗くなる前に、スルジャが部屋の中にあった照用石ランプに明かりを点けた。いつの間にか、右手に少し小ぶりな戦斧 を持っている。
スルジャが今まで見たことのない厳しい顔をしているのを見て、ジュセルは声を出せなかった。
その頃、二手に分かれて屋敷の外に展開したナジェルとヤーレは、おおよその相手の数を見極めていた。
どうも、随分な大人数で滅多やたらに攻め込んできたらしい。爆発物を持ったまま、まだ屋敷周辺をうろうろしている裏請負 と思しき者たちがいたので、ナジェルは近くまで走り寄ってキリキを使い吹き飛ばした。いきなり強いちからで吹き飛ばされた裏請負 達は、地面や壁などにその身体を叩きつけられ、気を失っている。
「‥ちゃちな攻撃をしてくれる」
ナジェルはそう呟いて舌打ちをした。今吹き飛ばして失神させた裏請負 は三人。神経を研ぎ澄ましあたりの空気の揺れを探ってみる。まだ十人以上のヒトが屋敷の周りをうろついているようだった。数が多くてなかなか絞り込めない。
ヒトがいるらしきところにアタリをつけて駆け寄っていけば、大剣をふるっているヤーレと出くわした。
「ヤーレ!」
声をかけると、ちょうどへっぴり腰で斬りかかってきた裏請負 を、重い大剣の峰でぶっ叩いているところだった。
「おう、ナジェル!なりふり構わず大人数で来たようだな!‥だが一人一人は、」
ヤーレの言葉が切れたところに、また三人ほどの裏請負 達がそれぞれの獲物を手にがむしゃらに襲い掛かってきた。
しかし、襲ってきた裏請負 達の腕は、まるで素人同然のものだった。ヤーレの大剣、ナジェルの揃え短刀が閃き、あっという間に血祭りにあげる。
呻き声をあげて倒れていく裏請負 達を見て、ナジェルが首を傾げた。
「‥‥随分と腕の未熟な者たちばかりだね‥?何か、作戦でもあるのかな?こちらに高能力者 がいることも、敵さんは知ってるんだろう?」
殴り倒したものを足蹴にしたヤーレも返事を返す。
「そのはずだが‥俺らが思っているよりヨキナは追い詰められているのかもしれねえな」
まだ遠くの方でヒトが蠢いている気配がしている。気は抜けない。
「‥まあ、あの部屋なら外から開けるのは困難だろうし、スルジャもいるから心配ないだろう」
「そうだね‥あまりに若いのばっかりいるから手加減したくなってくるよ」
ヤーレはぶんと大剣を一振りして苦笑した。
「あいつらも、まさか一級請負人 が待ち構えているとは思ってなかっただろうからな。‥よほど攻撃的なやつ以外は、戦力を削ぐだけでも構わねえぜ。とりあえず動けねえようにしておけば、な!」
と言いながら、後方よりこっそり近づこうとしていた裏請負 の方に向き直って横ざまに大剣を振りぬいた。ドッ!と鈍い音がしてヒトの身体が吹っ飛ばされる。
それをちらりと見やってから、ナジェルはふうと息を吐いて肩をすくめた。
「それはそれで面倒だなあ」
そしてまたドオン!という爆発音が響いた。ヤーレは苛々を隠さず頭を掻きむしって音のした方へ駆け出していった。ナジェルはそれを確認してから、反対方向に向かって神経を研ぎ澄ます。まだ少し離れたところに‥三人ほども隠れているようだ。
防護機工が仕事をしているから、裏請負 たちは屋敷の敷地内には入ってこれない。その程度の腕のものしかいないようだ。外側から仕掛けられる爆発物では、屋敷内の建物を損壊させることはできないはずである。
だが、爆発物によって防護機工そのものが損壊してしまったら、その限りではなくなってくる。あまり腕のよくない裏請負 達が徒党を組んで襲ってきたということは、おそらくそれを狙って様々な場所から爆発物を仕掛けてみているのだろう、と考えられた。
(爆発物を持っているやつを押さえれば、とりあえずこれは収められるな)
ナジェルはそう考えて直接攻撃はヤーレに任せることにし、自分は火器の気配を辿ることに集中した。
隠し部屋の中は、照用石ランプのお陰か思ったよりも明るく、隠れているという事実をあまりジュセルに感じさせなかった。最初の爆発音から十分ほどは緊張を隠さなかったスルジャだったが、今は少しその緊張を解いているのもわかった。
「‥こんな部屋があるなんて、知らなかった」
ぽつりとそう呟いたジュセルに、スルジャがにこっと微笑んでみせた。
「これだけの屋敷だから、きっと避難室があると思ったんだよ。アニスもそう思ってたみたいだけど見つけられなかったって言ってたかな。‥あたしは一時期、大きな屋敷の設計図を解析する仕事をしていたから、見当をつけられたんだ。‥‥まあ。黒剣がこれを把握してないのは問題だけどね‥」
なるほど、と話を聞きながら、今まで自分が暮らしてきた庶民の世界とは随分と違うところに来ちゃったんだなあ、としみじみ思った。
「‥‥何度か、爆発音は聞こえてくるけど‥屋敷内に侵入されてる気配は感じないなあ‥」
不審そうにそう呟くスルジャだが、ジュセルはどう答えればいいのかわからないので黙っていた。
「とにかくここに入ったら一時間は動かない約束してるから。退屈かもしんないけど、我慢してね」
「俺のせいなんだから、我慢とかいうのは変だよ。‥ありがとね、スルジャ」
そう言ってぺこりと頭を下げるジュセルに、スルジャは感極まったような唸り声を出した。
「~~~~~っ、もうジュセルかわいい!こんな時じゃなかったら今すぐ抱きしめたいとこだけど‥」
そう低い声で呟きながら、ぎゅっと戦斧 を握りしめた。
「油断はできないからね‥ジュセル、できるだけ奥の壁際に寄ってて。万が一、誰かがここに入ってきたらあたしがここで食い止めるから」
「‥わかった」
ジュセルは小さくそう言って頷くと、言われたとおりに奥の壁の方に行って身を縮めた。
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