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日本での常識しか知らない俺には、異世界の普通がわからない 第92話 | 天知カナイの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
日本での常識しか知らない俺...
第92話
作者:
天知カナイ
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第92話
裏請負会
(
ダスーロ
)
副頭、ヨキナは焦っていた。 ハリスからの圧力に負けてあと七日のうちには決着をつけると言ったのに、七日は瞬く間に過ぎてしまった。その間に差し向けた
裏請負
(
ダスル
)
もことごとく失敗している。そもそもグーラに断られた時点で、ヨキナには手持ちに優れた暗殺者はいなかった。暗殺に長けた
裏請負
(
ダスル
)
は、その多くが主頭であるロザイの直属の配下なのだ。彼らはロザイに心酔している者が多く、ロザイの許可がなければヨキナからの仕事は受けようとしない。 だが、ヨキナは最近ロザイから受けた呼び出しを一度無視してしまっていた。ロザイはその後特に何も言ってこないが、自分がロザイからよく思われていないことはヨキナもよく知っている。 そして約束の七日が過ぎた今日、すぐさまハリスからの速信鳥紙が飛んできた。高価なこの速信鳥紙を惜しまず使えるほど、ハリスの財力は大きい。 開けたくはなかったが、開封しないでいるとどんどん速信鳥紙がカタカタ震えてくるので、ヨキナは仕方なく開封した。 『ヨキナ』 震えがくるようなハリスの低い声が部屋の中に響く。ヨキナは身動き一つせず、じっとその言葉を聞いた。 『七日を過ぎたというのに何の連絡も寄こさないということは、始末がつけられていないということだな。‥お前の心づもりはよくわかった。しかしまあ、お前との付き合いもそこそこ長いから私からも猶予をやろう。この速信鳥紙が届いた日を合わせて三日。つまりお前が最初に言っていた期限の十日目までに、あのキリキシャの始末をつけられたら今回のことは不問に付してやる。だが依頼料はそっくり返してもらうからそのつもりでいるように。‥三日たっても連絡がなければその時はこちらで、新しい副頭を用意することになる』 ぱさり、と速信鳥紙が机の上に落ちた。今聞こえてきた言葉がそのまま紙の上に字として残されている。 「くそっ!」 ヨキナは腹立たしげに立ち上がり机の上にあったグラスをひっつかむと、力任せに壁に向かって叩きつけた。ガシャーン!という激しい音がする。 ヨキナははあはあと荒く息を吐きながら、力なく椅子にへたり込んだ。 おしまいだ。 秘蔵のひとり子をも殺され、腕利きには逃げられ、頼めるような
裏請負
(
ダスル
)
ももはやいない。それでなくとも随分とヨキナは身銭を切っている。これ以上腕利きの暗殺者を雇う余裕も、またその当てもなかった。 しかし、このままではあのハリスのことだ。ヨキナが必死でつかみ取ったこの|裏請負会《ダスーロ》副頭の地位を簡単に奪い去ってしまうだろう。 副頭であることは、ヨキナの最後の拠り所であり手放すことのできない地位だった。 「‥‥どうあっても、‥殺してやる‥!」 ヨキナはぎりりと奥歯を噛みしめ、すぐさま建物の下にある
裏請負会
(
ダスーロ
)
のロビーへと降りていった。 ヨキナが取れる作戦は、残り一つしかなかった。 アニスはまだ戻ってこない。今日は遅いかもしれねえからな、と言っていたヤーレの言葉が当たったようだ。誰もあまり詳しいことをジュセルには話してくれないが、アニスの様子から見て気分のいいところへ行くのではなさそうだった。 ジュセルは、それが自分のためなのではないかと思ってやきもきしているのだが、ヤーレもアニスもその辺りの事情を離してくれない。「ジュセルは知らない方がいい場合もあるから」の一点張りだ。以前ケイレンにも少し尋ねたことがあるが、同じような答えしか返してくれなかった。 仕方がないので、自分ができることに取りかかる。今日はナジェルもいるのでいつもよりも多めに量を準備した。バンカ(=トマト)ソースで煮込んだハンバーグに芋のサラダ、コモという穀物を、キノコや燻製肉などと共に炊き上げた炊き込みご飯風のもの、分厚い葉野菜と葱、そしてカッソから取った出汁で煮込んだスープには細かく切った干し魚も大判振る舞いで入れた。お陰で深みのあるいいスープになった、 加えてパルトの実を三つ分焼いたものに、少し泡立てた
乳酪
(
バター
)
とジュセルお手製のジャムもつけて並べた。 以前購入した、市場にあった一番大きい鍋を三つ分使って作り上げた料理を見て、ちょっと作りすぎたかな‥と思ったジュセルだったが、ナジェルをはじめとしてスルジャもヤーレも「え、飲んでる?」という勢いでどんどん平らげていく。その勢いを見て、慌ててアニスの分を別に取り分けたほどだ。 「‥‥みんな、普段はどこで飯食ってんの?自分で作ってんの?」 あまりの豪快な食べっぷりに半ば呆れながらジュセルは訊いてみた。ごくり、と大きなハンバーグの欠片を飲み込んで最初に応えてくれたのはナジェルだった。 「俺は自分では作らないな。食堂に行ったり屋台で買ったりだよ。量が多いから結果的に屋台のもの全部買い占めちゃったこともあるなあ」 ジュセルが「は?」と口を開けた間抜けな顔をしていると、横からスルジャも口を挟んできた。 「あ〜わかる!小さい屋台とかだと売ってる量少ないもんね!あたしもそういうことあるよ!」 「‥
高能力者
(
コウリキシャ
)
あるあるなんだ‥」 茫然としながらそう呟くジュセルに、スープを平らげてもう一度器にお替わりを注いでいるヤーレも加わって付け足した。 「俺も自分では作らねえな。外で食うか、買ってくるかだ。たまに会う
体友
(
タヒト
)
(=セフレ)‥ん”ん”っ、あー、知り合いとかが作ってくれる場合もあるが‥」 ナジェルにじっと見つめられたヤーレが口ごもりながらそう言うので、ジュセルはくすっと笑った。 「ナジェル、俺も一応成人してるから大丈夫だよ。大人の付き合いで
体友
(
タヒト
)
を持ってるヒトがいることもわかってるし」 「‥そう?まあでもあんまり褒められたことではないよね」 そう言い切ったナジェルの横で、ヤーレとスルジャが小さくなっている。その隙にナジェルが残っていた煮込みハンバーグを全部自分の器にさらっていった。スルジャとヤーレが「ああ!」と大声をあげる。 「ズルい!」 「俺も食うぞ!」 二人の抗議をものともせず、ナジェルは大きな口でぱくりとハンバーグを食べてにこりと笑った。 「早い者勝ちだよ?」 ジュセルはしみじみと、アニスの分を別に取り分けておいてよかった‥と思った。 大食いの
高能力者
(
コウリキシャ
)
達は、結局ジュセルが取り分けておいたアニスの分を除き、きれいさっぱり食事を平らげてしまった。
高能力者
(
コウリキシャ
)
は稼ぎがいいのが常ではあるが、結局こんなに食べるのならその分もの入りだよな、とジュセルはしみじみ思った。三人とも単純にジュセルが普段食べる量の三倍近く食べてしまうのだ。今日、ジュセルが作った量は、ジュセルの家なら家族四人で三日は食べられるほどのものだった。 しかし、最後にハンバーグをナジェルに総取りされてしまったヤーレとスルジャはまだ不満そうだ。 「ヤーレさん、スルジャ、まだおやつがあるからそんなに拗ねないでよ」 ジュセルのその声を聞いて、スルジャはわかりやすくぱあっと顔を明るくした。特に顔色を変えないヤーレも口元が少し緩んでいる。全ての器を綺麗に空にしたナジェルが言った。 「ジュセル、俺も食べるからね」 はははとひきつった笑いを浮かべながらジュセルは一度厨房に引っ込み、あらかじめ焼いておいたパウンドケーキを三台取り出した。この厨房にある窯が大きいので、一度にたくさん焼けるのはありがたい。とはいえ、ジュセルはこんなに日々たくさんのものを作るとは思っていなかったのだが‥。 (最初はケイレンと二人きりだったのに、このところお客さんがいることの方が普通になってきちゃったもんな) これを三人に出すのだが、まさか一人に一台出すわけにもいかない。難なく食べてしまいそうではあるが、きっとアニスも疲れて帰ってきたら甘いものが欲しくなるだろうし。 ジュセルは少し考えてパウンドケーキをそれぞれ四切れに切り分け、一人分として三切れを皿にのせた。お湯を沸かし、上物の焙煎茶を淹れる。ワゴンに茶器とお茶を満たしたポット、大きく切り分けられたパウンドケーキをのせた皿を積んで、食事室へと運ぶ。 「できたよ~」 と一言声をかけて扉をあけたとき。 近くで、恐ろしいほどの爆発音が響き、屋敷が揺れた。
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