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第125話
*昨日からずっとこのサイトに繋がらず、更新が危ぶまれましたが何とか間に合いました。こういう事態が二度目なので問い合わせをしようと思っています。こうなるとサイトのどこにもつながらなくなってしまいますので、お知らせすることができず申し訳ございません。
天知カナイ名義でthreadsやっておりますので、よかったらそちらで確認していただけると嬉しいです。
現カラッセ族族長からの要請で開催される、臨時族長会議の日。
事前の情報開示により、その議題が現・カラッセ族次代候補ハリスの候補資格剝奪の承認、およびその地位をも利用した各種犯罪の正式な訴追、さらには新しいカラッセ族次代候補の承認、ということが全族長に知らされていた。
一部の族長の中には、薄々ハリスの悪行に感づいている者もいたので、それほどの驚きもなく受け止められているようだった。
族長会議院の環蕾 の間には、開始十分前には既に全族長が揃っていた。また、資格剥奪、および新たな候補承認のための証人たちもその姿を見せていた。
今期、族長会議の議長を務めるセリ族のパラタはまだ族長に就任してから六年目の、新人ともいえる人物だ。自分が議長の年には面倒なことは起こってほしくないものだ、と願っていたのもむなしく、次代候補の資格剥奪、訴追と随分厄介なことになってきている。
パラタはため息をつきながら、謀略派と呼ばれる族長たちの顔を盗み見た。
十二部族国の族長は、個人の資質にもよるが。それぞれ部族ごとに特徴があると言われている。
謀略派、と呼ばれる、多少強引であっても国益にかなうならやってしまえ、という政策思想を持つ、ヒデル族、スダル族、タオ族、ウェンダ族、ゴワン族。
平和派、と呼ばれる、多少の不利益があっても国内にいざこざが起きない方が将来的に国益にかなう、という政策思想を持つ、トスタ族、カラッセ族、ロス族、ディスレ族、カンダル族。
中立派、と呼ばれる、そのいずれにも属さず、言葉を選ばずに言えば日和見的な政策思想を持つ、セリ族、エンド族。
これらの族長たちが、色々と話し合いながら国家の運営の舵取りをしているのだった。
今回、俎上に上がっているのは平和派のカラッセ族次代、ハリスである。パラタもハリスのよくない噂は聞いていたので、事前の情報を得たときに然もありなんとは思ったのだが、これに対して謀略派がどのように出るのかさっぱり読めなかったのだ。
「日和見主義」セリ族の最たるものが自分だと思っているパラタは、とにかく円滑にこの会議が済めばいいなとしか思っていなかった。
開始時刻が迫り、それぞれの席に人々がついていく。
パラタは痛むこめかみを抑えながら、ハア、とついても仕方のないため息をもう一つついた。
パラタの懸念は当たらなかった。
会議は、順調かつ滑らかに進んだ。自分のあずかり知らぬところで何やら相談でもあったのだろうか、と思うほどだった。
いや、それよりも告発されたハリスの罪状があまりにも酷かったからかもしれない。
人身売買に麻薬の取引、個人での暗殺など、数え上げられた罪科にパラタは息が止まりそうになったほどだ。
子どもを強制性交幻覚剤 漬けにされて殺されたという、カラッセ族のシンリキシャは涙こそ流さなかったが、その淡々とした語り口調の中に深い悲しみと憤怒がこもっているのがよくわかった。
鎖に繋がれおのれの罪科を延々と聞かされているハリスは、怖れるわけでもなく怒るわけでもなく、何とも無表情に虚空を見つめていた。語る誰とも目を合わさず、口もきかなかった。
ハリスの推薦人であった者たちがそれを辞退する、という宣言をしたときも、その視線は動かなかった。代わってザイダの推薦人たちが次々に署名、宣誓をしたときも動きはなかった。
パラタは、そんなハリスの顔が不気味だった。
これは私には理解しえない種類の人なのだ、と感じた。笑うでもなく怒るでもなく、自らの境遇に憤るでもなく。
このシンリキシャは何を考えているのだろうか、それが全くパラカには読めなかった。
「採決を」
と促され、パラタはハッとして、新たなカラッセ族次代候補の承認採決を行い、滞りなく議決された。
そしてそのまま、ハリスの罪科についての裁決が行われた。
高い身分、公的な身分でありながらこれだけの悪事に手を染めたことは、これまでに類を見ないことだ、と平和派のディスレ族の族長は鋭く糾弾した。
普段、ディスレ族長が発言すれば必ず反対意見を述べる謀略派のゴワン族長も、何も言わない。
「では、どのような処罰を与えましょうか」
パラタが問いかけると、今度は平和派のカンダル族長が静かに発言した。
「終身刑が妥当でしょう」
さすがに死刑にまではできないだろう、と暗にほのめかしたのは謀略派のヒデル族長だ。それを受けて、中立派のエンド族長が発言した。
「シンリキが随分あるようです。新たにもう少し能力を抑制する腕輪を装着させて、ルバロ高山地帯での強制労働にするのはいかがですか」
エンド族長にしては苛烈な意見に、思わず一同は沈黙した。それに答えたのはハリスの親 でもある、現カラッセ族長だった。
「妥当かと思われます。議長、それで採決を取ってください」
実の親 の言葉に、人々は息をのんだ。パラタも一度ごくりと喉を鳴らしてから唇を湿らせて、発言した。
「‥では、被告ハリスへの処断として、ルバロ高山地帯での終身強制労働を科す。反対のものは挙手を」
誰一人として、手は挙がらなかった。
パラタは手元の鐘を、りん、と鳴らした。
「では、前カラッセ族次代候補、ハリスはルバロ高山地帯での終身強制労働に服すこと。その前に抑制腕輪の付け替えをすること。それを踏まえ、ルバロへの移送は四日後とする」
そう宣言すれば、賛成の意を示すために全員が起立した。
それでも、椅子に座ったままのハリスの表情は、何も動かなかった。
ハリスの身柄はルバロ高山地帯に送られるまでは、これまでと同じく大国議会警察監獄に収監されることとなった。族長会議員の建物を出て、大国議会の長い廊下を歩いているとき、何やらの荷物を抱え小走りに走ってきた小柄なマリキシャが、何かにけつまずいてよろめいた。
そのまま、警察官や鎖で繋がれていたハリスの方へつんのめっていき、荷物をばらまいて大きく倒れた。
「ああ!も、申し訳ございません!」
マリキシャはぶるぶる震えながら、ぺこぺこと頭を下げ、大慌てで散らばった荷物をかき集めた。どうやら洗濯を請け負っている隊商会の者らしかった。
「‥気をつけろよ」
「はい、はい、申し訳、ございません!」
目に涙をためながら必死に頭を下げるマリキシャに、警察官たちは不審な目を向けつつもすぐにその場を離れた。
そして、一人の警察官が言った。
「‥今のものに、何かもらったりしてるかもしれん。こいつの身体を検めろ」
言われて別の警察官二人が、ハリスの身体をあちこち検めた。しかし、不審なものは見当たらなかった。
「‥ふむ。まあいいだろう。さあ行くぞ」
そう言われて鎖をぐいっと引っ張られる。ハリスは黙ってそれに従った。
だが、何を言われても動かなかったハリスの唇の端が、ほんの少し、上がっていた。
全ての懸案事項が解決し、承認も終えてザイダは正式にカラッセ族次代候補となった。本来、一度候補から外された者は二度と候補にはなれないのだが、ザイダの場合は自ら申し出ての辞退であったため、返り咲くことが許されたのだ。
今日という日が無事に済んで、ザイダは心からほっとしていた。もっとほかの族長などから反発が来るかと思っていたが、それが全くなかったのがやや気持ち悪かった。ハリスからの旨味をもらっていた族長も、きっといるはずなのだ。
色々考えだすとまた気持ちが重くなるような気がして、ザイダは頭をぶんぶんと振って嫌な考えを振り払った。‥せめて今、この時くらいは素直に喜んでおこう。とにかくハリスは捕まったのだし、これ以上|強制性交幻覚剤《パルーリア》に苦しむヒトが増えることもそうあるまい。
族都イェライシェンにおける強制性交幻覚剤 の流通の三分の二以上が、ハリスによって占められていたことは、調べを進めるうえでわかったことだった。無論、症状緩和剤 との抱き合わせ商売である。その、非人道的なやり方には心底忌まわしく感じたものだった。
さくさくと大国議会の建物の中庭を突っ切っていく。短い草に覆われたこの庭を歩く感触が、ザイダは好きだった。中庭を終わり、外へと続くr廊下に出たとき、人影が見えた。
「よぉ」
そこには、似合わぬ花束を持ったヤーレが壁に寄りかかって立っていた。ザイダの方を見てにやりと笑う。
ザイダがどこを通って帰るのか、なぜこのレイリキシャはわかっていたのだろう。ザイダは不思議に思いながら近づいた。
「‥なぜ、俺がここに来ると知っていたんだ?」
「いやぁ、お前は中庭を突っ切るような気がしてな。特に、ハリスを弾劾した後なら」
その言葉を聞いて、一瞬ザイダは言葉を失った。
理解、されている、と思ったのだ。自分のことを。
何も言わず棒立ちになっているザイダに、ヤーレは薄青色の花束をぐいっとさしつけた。
「まあお疲れ。これからも色々あるだろうけどな。今日はゆっくり休め」
よくよく花束を見てみれば、その香りに安眠作用があると言われる薬花だった。のろのろとした手つきで花束を受け取る。
「‥すまん‥あちがとう」
礼を言うザイダの頭を、ヤーレは手を伸ばしてくしゃりとかき回した。
「とりあえず、今日はゆっくり寝ろよ。顔色悪いぞ。なんかまた気になることがあったら言って来い。お前を引きずり込んだ責任はとるからな」
ヤーレはそう言って、軽くザイダの頭をぽんとたたくと、くるりと背を向けてそのまま歩き去っていった。
ザイダの手元に残された栗花からは、淡く安らげる香りが漂っていた。
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