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第14話 そうだよね、おにいちゃん。

 カマのかけ返し、と甘酒をすすってひと呼吸おいた。儚い夢が破れた感をにじませて、睫毛を伏せ、口ごもりがちに答える。 「サークル経由の情報なんだけどね、野々宮さん、インスタが炎上して会社でも針の(むしろ)っぽいみたい……痴漢疑惑で」 「マジか。爽やか系のくせして人は見かけによらない、の典型だな」  星輝はフランクフルトの串をへし折った。ガッツポーズする寸前で、ごまかしたように。  やっぱり裏で糸を引いたのはセイちゃんだ。たぶん、が確信に変わるにつれて甘酒がコクを増していく。  ネット民を煽動する、というやり方で野々宮に濡れ衣を着せおおせる、ずる賢さにときめいてしまう。バッシングに発展するのは既定路線の現在(いま)、敢えて火種をばらまいてみせた、その動機は?   決まっている、奈月に対する至純の愛にあふれて過激な行動に走った。  そもそも奈月が野々宮に〝恋心をつのらせている〟ことじたい、使命感を刺激するための演技。  シナリオ通りに事が運んだ。好き好きビームを発射して獲物を落としたあとは、いつもと同じく星輝に丸投げ。もぐら叩きみたいでキリがないと、うんざりしないで、きちんと始末をつけてくれる。  スピーカーから流れる雅楽の調べと喧噪が入り混じって、いっそう騒がしい。星輝が、パイプ椅子を蹴倒す勢いで立ちあがった。 「人混みマジ、ウゼぇ。帰るぞ」 「えー、初売りも覗いていこうよ」    奈月は大吉のおみくじを破り捨てた。  良縁──そんな安っぽい言葉では、僕とセイちゃんの絆の特異さを言い表すのは無理だ。神さまの気まぐれで肉体がふたつに分けられたぶん、魂が元通りひとつの(うつわ)に収まりたいと望んでいるように、片時も離れていたくない。  大好きな兄が、弟の僕を狂おしいほどに束縛してくれる贅沢。下手なドラッグより中毒性が強くて、貪ってしまうのは当然のこと。共依存と非難したければ、どうぞご自由に。  幸せの形は人類の数だけあるのだから。  色違いのダウンジャケットの、ポケットに手を入れた。つまみ出される前に、恋人つなぎに指をからませる。そして照れ隠し丸出しの仏頂面に、にっこりと笑いかけた。  想像するだけで(はらわた)が煮えくり返るほどだから、もしも星輝に恋人ができたときは、狂言自殺を図ってでも仲を引き裂いてみせる。  裏切る真似をしてくれたときは赦さないからね、ねっ、セイちゃん。     ──了──  

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