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第1話
第1話|マッチした相手が、綺麗すぎた
最初に思ったのは、
――完成度、高すぎない?
だった。
マッチングアプリの画面に表示されたプロフィール写真は、余白がなかった。
肌の質感、髪の流れ、視線の角度。
「盛れてる」じゃない。「整ってる」。
作られた美しさじゃなく、計算された自然さ。
名前は「界」。
年齢は二十五。
職業は出版社勤務。
──女の人、だよな。
そう確認するみたいに、翔吾はもう一度写真を見た。
違和感はない。胸もある。服のラインも柔らかい。
なのに、どこか引っかかる。
完成度が高すぎて、逆に引っかかる。
〈はじめまして。翔吾です〉
送ったのは、ただの挨拶だった。
深い意味はない。
それなのに、返事はすぐ来た。
〈はじめまして。界です。よろしくね〉
文章が短い。
でも距離が近い。
妙に“慣れている”。
やり取りは、驚くほどスムーズだった。
質問と返答のテンポが合う。
笑うポイントが似ている。
沈黙が、不安にならない。
一週間後、会うことになった。
待ち合わせのカフェで、翔吾は先に席に着いていた。
入口を何気なく見る。
そして――一瞬で分かった。
あ、あの人だ。
界は、写真よりも綺麗だった。
背は思ったより高く、姿勢がいい。
スカートの揺れ方が自然で、ヒールの音も軽い。
完璧だ、と翔吾は思った。
あまりに。
「翔吾くん?」
声をかけられて、顔を上げる。
声は少し低め。でも、違和感はない。
通る声。編集者っぽい声だな、なんて思ってしまう。
「はい。界さん?」
笑うと、目尻が柔らかく下がる。
愛想のいい笑顔。
初対面で人を安心させる顔。
会話は、噛み合いすぎるほど噛み合った。
仕事の話。大学の話。
どこで盛り上げて、どこで引くかの感覚が同じ。
界は、自分の話をしすぎない。
でも聞き役に回りすぎない。
絶妙な距離。
――上手だ。
翔吾は、カップを持つ界の指を見た。
長くて、骨ばっている。
ネイルは薄い色で、短め。
「いかにも」じゃない。
その瞬間、胸の奥で何かが静かに噛み合った。
ああ、なるほど。
界は、気づいていない。
自分が、もう“見られている”ことに。
二回目、三回目と会ううちに、
違和感は確信に変わった。
仕草。
距離感。
視線の置き方。
女として完璧だからこそ、
“男の癖”が消えきっていない。
でも翔吾は、何も言わなかった。
言う理由がなかったからだ。
界は嘘をついている。
でも、その嘘は誰かを傷つけるためじゃない。
むしろ、自分を守るための嘘だ。
それが、翔吾にははっきり見えた。
告白は、界のほうからだった。
「……付き合ってみない?」
少しだけ、様子をうかがう目。
拒絶を想定している顔。
翔吾は迷わなかった。
「いいですよ」
即答だった。
その瞬間、界は安堵したように笑った。
“選ばれた”という顔。
その顔を見て、
翔吾は確信する。
――この人、バレてないと思ってる。
それが少し、可笑しかった。
そして少し、愛おしかった。
嘘を脱ぐタイミングは、
自分が決めればいい。
今はまだ、
このままでいい。
界が“女でいられる時間”を、
終わらせる必要はない。
翔吾は、静かに笑った。
まだ、捕まえる段階じゃない。
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