2 / 5
第2話
第2話|バレてないと思ってたのは
界と付き合い始めてから、
翔吾の生活は、少しだけ静かになった。
連絡の頻度は多くない。
毎日でもない。
でも、途切れない。
〈今日は原稿、締切?〉
〈大学、何限まで?〉
踏み込みすぎない質問。
相手の領域を侵さない距離感。
それが、界のやり方だった。
――慣れてる。
恋愛に、というより、
「人に好かれること」に。
界は、いつも綺麗だった。
会うたびに、違う服。
でも、どれも“やりすぎない”。
女としての完成度が高すぎる。
だから翔吾は、余計に確信していた。
この人は、
女であることを「演じている」。
ある夜、界の部屋に泊まった。
ワンルーム。
無駄がなくて、生活感が薄い。
服はクローゼットにきちんと収まっている。
メイクを落とした界は、
少しだけ輪郭が変わった。
それでも、綺麗だった。
「……じっと見すぎ」
そう言って、界は笑う。
冗談めかしているけれど、
目の奥に、わずかな警戒が走る。
「ごめん」
翔吾は視線を逸らした。
触れない。
踏み込まない。
それが、今の最適解だと分かっていた。
ベッドに並んで横になる。
界は背中を向ける。
無意識じゃない距離。
翔吾は、界の呼吸を数えた。
深くなったところで、ようやく眠る。
――やっぱり。
男だ。
骨格。
呼吸の入り方。
背中の張り。
どれも、間違えようがない。
それでも、
翔吾の気持ちは変わらなかった。
女だから好きになったわけじゃない。
嘘をついてでも、
誰かに選ばれたがっている、その弱さ。
それが、たまらなかった。
朝、界は先に起きていた。
キッチンでコーヒーを淹れる音。
ヒールのない足音。
すでに“女”のスイッチが入っている。
「起きた?」
振り返る界の顔は、もう完璧だった。
メイクも、声も、距離感も。
翔吾は思う。
この人、
バレる瞬間を、ずっと怖がってる。
だからこそ、
自分から正体を明かすことはない。
なら――
バラすのは、俺の役目だ。
でも、今じゃない。
界が「女」でいられなくなる瞬間は、
ちゃんと選ばせてやりたい。
選ぶ側だと思っていた人が、
実は選ばれていたと気づく、その瞬間。
そのときまで、
翔吾は何も言わない。
ただ、
界の嘘を、
すべて知ったまま、隣にいる。
それが、
一番残酷で、
一番優しいと知っているから。
翔吾は、カップを受け取りながら微笑んだ。
「コーヒー、美味しいですね」
界は安心したように笑う。
――まだ、大丈夫。
そう思っている顔。
その表情を、
翔吾は静かに、覚えておいた。
次で終わらせるために。
ともだちにシェアしよう!

