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深夜のかくれんぼ*

「いたか?」 「いえ、見あたらないッス」 「こっちもです」 「そう遠くへは行ってないはずだ。裸同然の男が助けを求めても不審者としてサツに突き出されからな。所持金もゼロで袋のネズミさ」  鳥肌の立った両腕をさする。  あらかじめ財布や服を駅前のロッカーに入れておけばよかったと心の中で舌打ちをする。 「さすが兄貴。やつの動きが手に取るようにわかるんッスね」 「けど研修初日に逃げ出すなんざ、とんでもねえガキです。足の指でも詰めてやろうか」  悲鳴を上げそうになり、口と鼻を手で覆った。  心臓が早鐘を打ち、真冬でもないのに全身が震える。 「家畜と変わらねえ下級オメガなんスよ」 「ここで甘やかすと将来つけあがりますって」  舎弟の男たちが不満気に文句を口にするが、ヤクザの幹部である男はケラケラ笑った。 「まあ、そうカッカすんな。あの綺(き)麗(れい)な顔が恐怖で歪(ゆが)めば、勃(ぼっ)起(き)もんだ。嗜虐(しぎゃく)趣味の変態アルファが大枚をはたいて大(おお)儲(もう)けできるぜ」  卑(ひ)猥(わい)な言葉と恐ろしい内容に頭がクラクラする。  親の作った億単位の金を返済できるあてがなく、覚悟を決めて風俗店での初研修に臨んだら、スケスケのベビードールとペニスがはみ出しかねない女性用の紐(ひも)パンを着させられた。  童貞処女である僕のセックス指南役であるマネージャーは父親と同じくらいの年で恰(かっ)幅(ぷく)がよく胡(う)散(さん)臭い笑みを顔に貼(は)りつけた男だ。  噛(か)まれた乳首を洗濯バサミで挟まれた状態でフェラチオをされ、ペニスに尿道プジーを突っ込まれて痛みに悶(もだ)えていたら、洗っていない男性器を舐(な)めるよう指示された。  卒倒した僕は、マネージャーの金玉に頭突きを食らわせ、伸びている彼の横で泣きながら棒を抜き、逃げ出した。  家族に捨てられ、逃走資金もなければ、友だちもいないひとりぼっち。一時的には逃げられても、すぐに捕まって店へ逆戻りだと、わかっていた。  木に打ちつけられた藁(わら)人形に刺さっている五寸釘(くぎ)を抜き、目を向ける。  この釘で首を刺せば、おじいちゃんのいるあの世へ行けるかな? 「親分、木の影に隠れてますぜ!」  とっさに石の階段を素足のまま駆け上る。  ――神様なんて、この世にいない。だから困っているときに助けてくれるヒーローや魂の番(つがい)であるアルファと出会えなかった。  生まれたときから今日まで、ろくな人生じゃなかった。せめて、大好きなおじいちゃんと子どもの頃(ころ)からお参りしてきた、この神社で死にたい。  赤い鳥居をくぐり抜け、参道を駆ける。いつも手を合わせているお社(やしろ)へ後一歩のところでヤクザの兄貴分に手首を掴(つか)まれた。 「離して!」  振り回した釘は、すぐに取り上げられ、地面へ投げ捨てられてしまう。  手をねじり上げられ、痛みを堪えていたら、「なんだ、これは!?」と男が狼(ろう)狽(ばい)する。  気がつくと僕らの周りに無数の青い火が飛び交っていた。  鳥居が一本二本とアメーバが分裂するみたいに増え、階段を上っていた下っ端ふたりの姿が、あっという間に見えなくなる。  コーンと甲高い声が境内のほうからすると、白い狐(きつね)がどこからともなく姿を現し、地面に座った。 「化け物め!」  男が胸元から取り出した拳(けん)銃(じゅう)を向けると、お社の扉が勢いよく開き、巨大掃除機のように僕とヤクザの男を吸い込んだ。

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