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深夜のかくれんぼ*
「いたか?」
「いえ、見あたらないッス」
「こっちもです、兄貴」
「そう遠くへは行ってないはずだ。裸同然の男が助けを求めても不審者として突き出されるからな。パクられてムショ行きでも一年でシャバさ。
露出狂のオメガがどんな扱いを受けるか、ガキでも想像できる。罰金じゃ、ますます借金がかさむものの、やつには頼れる家族なんざいねえ。所持金もゼロで袋のネズミさ」
鳥肌の立った両腕をさすり、目をつむった。
あらかじめ財布や服を駅前のロッカーに入れておけばよかったと内心、舌打ちをする。
「さすが兄貴。やつの動きが手に取るようにわかるんッスね」
「けど研修初日に逃げ出すなんざ、とんでもねえガキです。足の指でも詰めてやろうか」
悲鳴を上げそうになり、口元と鼻を両手で覆った。
心臓が早鐘を打ち、真冬でもないのに全身が震える。
「相手はゲイ風俗へ入ったばかりのオメガで未貫通の初物。上玉だぞ」
「ですけど家畜と変わらねえ下級オメガッスよ」
「ここで叩 き込まねえと将来つけあがります」
舎弟の男たちは不満気に文句を口にするが、ヤクザの幹部である男はカラカラと笑った。
「おまえらも、あのオメガに毒されてるな。まあ、俺 も、もっと若けりゃ、タバコの火を白い肌に押しつけたがな」
恐ろしい発言に息を呑 む。
「あのお綺 麗 な顔が恐怖で歪 むところを想像しただけで、勃 起 もんだぜ。嗜 虐 趣味の変態アルファが大枚をはたくだろう」
卑 猥 な言葉と恐ろしい内容に頭がクラクラする。
親の借金を返すため、好きでもない男の前で裸になり、男性器を愛 撫 し、しゃぶるなんて冗談じゃない。
億単位の金を返済できるあてもなく、覚悟を決めて違法風俗店での初研修に臨んだら、スケスケのベビードールとペニスがはみ出すサイズの紐 パンを着させられた。
童貞処女である僕のセックス指南役になったマネージャーは、父親と同じくらいの年だ。恰 幅 がよく、タバコと香水の強烈な臭いを身に纏 い、胡 散 臭い笑みを顔に貼 りつけていた。
乳首を噛 まれ、洗濯バサミを挟まれて動揺していたら、背筋が凍りつきそうなフェラチオをされた。
ゆるく勃 ったペニスに尿道プジーという棒を突っ込まれ、痛みに悶 えていたら、洗っていないマネージャーの男性器を舐 めるよう指示されたのだ。
卒倒した僕は、マネージャーの金玉に頭突きを食らわせた。伸びている彼の横で、ひいひい泣きながら棒を抜き、稲荷神社へ逃げた。
家族に捨てられ、逃走資金もなければ、友だちもいない。天涯孤独な身だ。
一時は逃げられても、すぐに捕まって店へ逆戻りだ。きっと、ひどいお仕置きも受ける。
「風俗で働けないなら臓器を売れ」と言われたけど、死ぬまで痛いことを延々と続けるのは嫌だ。かといって身体も売りたくない。
木に打ちつけられた藁 人形に刺さっている五寸釘 を引き抜き、目を向ける。
この釘で首を刺せば、あの世へ行けるかな? おじいちゃんが迎えに来てくれたら嬉しいけど。
「親分、見つけましたぜ!」
とっさに石の階段を素足のまま駆け上る。
「追え。言うことを聞かなかったら誘発剤を使って犯せ。そのままシャブ漬けのセックス依存症にしちまえ」と兄貴分の悪魔のような声がする。
――神様なんて、この世にいない。
救いの手を差し伸べてくれる人も、困っているときに助けてくれるヒーローや魂の番 であるアルファにも出会えなかった人生だ。
生まれたときから今日まで、ろくな目に遭ってこなかったけど、死に場所くらい自分で決めたい。
大好きなおじいちゃんと、子どもの頃 からお参りしてきた、この神社で命をたつ。
赤い鳥居をくぐり抜け、境内に後一歩のところでヤクザの兄貴分に手首を掴 まれる。
「離して!」
釘を振り回したが、すぐに取り上げられ、地面へ投げ捨てられてしまった。
「朝まで、たっぷり躾 てやるよ」
「いや、いやです……!」
手をねじり上げられ、痛みを堪えていたら、「なんだ!?」と男が狼 狽 する。
気がつくと僕らの周りに無数の青い火が飛び交っていた。
鳥居が一本二本とアメーバが分裂するみたいに増え、階段を上っていた下っ端ふたりの姿が、あっという間に見えなくなる。
コーンと甲高い声が境内のほうからすると、白い狐 が、どこからともなく姿を現し、地面に座った。
「この化け物め!」
男が胸元から取り出した拳 銃 を向ける。
境内の扉が勢いよく開き、巨大掃除機のように周囲のものをどんどん吸い込んだ。
僕とヤクザの男の身体もふわりと浮かび、強制的に境内の中へ飲み込まれたのだ。
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