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過去の記憶

「おじいちゃん、ワンちゃんが怪我してる!」  僕は、神社のお(さい)(せん)箱のところで見つけた、血まみれの犬を抱き上げた。 「これは、」  おじいちゃんが眉を寄せる。 「律、この子を抱っこしたら、おじいちゃんとお手々を繋いで、お目々をつむるんだ」 「なんで?」 「いいから」  そうして目をつむるとジェットコースターに乗ってるみたいな感覚がした。  次に目を開けると、そこは天さんのおうちだった。 「ワンちゃん、早く元気にならないかな?」  幼い僕は、包帯をグルグル巻きにされ、布団の上で寝かされている白い子犬を見つめた。  子犬の耳が動くと琥珀色の目が開く。 「ワンちゃん!」  すると子犬はどこからともなく出した葉を頭に乗せ、煙とともに裸の男の子に変身したのだ。  幼い僕は男の子にキスをされ、布団に転がされた。  男の子に服をすべて脱がされている間もキスをされ、動物が交尾するみたいに腰をお尻へ押しつけられながら頬や肩、指を噛まれる。 「やだ、やめて……痛いよう!」 「おまえはオレの番になるしか道は残されてねえんだよ。わかったら、とっととうなじを噛ませろ!」  おじいちゃんたちがやってくる。  男の子は「じいちゃん、ばあちゃん、邪魔すんな!」と怒るが、ゲンコツを食らって気絶した。  ピーピー泣いている僕は、おじいちゃんに抱っこされ、あやされたのだ。  男の子と幼い僕は仲直りをして、座敷童子ちゃんたちと一緒に、だるまさんがころんだを庭でやっていた。 「天と律くんが魂の番か……」 「亡くなった弟とあなたと同じね」と婦人が口元に手をあてる。  庭にいる僕らを眺めながら、おじいちゃんが唇を開いた。 「天くんは、まだ子どもです。あの人はオメガであるぼくを(かば)って亡くなりました。律には同じ思いをさせたくありません」 「じゃあ、いいんだな」 「はい、来るときまで律の記憶を封印してください」と、おじいちゃんが断言した。 「天は大泣きするでしょうね」  縁側でお茶を飲み干した、おじいちゃんが席を立つ。 「律、そろそろ、お夕飯の時間だ。おうちへ帰るぞ」 「はーい」 「やだ!」  子どもの天さんが地団駄を踏む。  すると、おじいちゃんはをつき、天さんの涙をハンカチで(ぬぐ)った。 「きみには、まだまだ勉強や修行が山ほどある。そうだろ?」 「でも……」 「天くんが強くて立派な大人になったら、律をきみの番として、もう一度送り届けると、きみの家族に伝えておくよ」 「ほんとか?」 「ああ、本当だ。だから大きくなった律をこの世界に迎えたら、家族として一生涯大切にして、幸せにするって約束してくれる?」 「ああ、男と男の約束だ」  すると、おじいちゃんは優しい笑みを浮かべた。 「律、さよならする前に指切りしよう」 「うん、いいよー」 「おっきくなったらオレは、おまえをこの世界に呼んで、幸せな番にするからな」  幼い僕と天さんは指切りをした後、神社のお社の前で笑顔で手を振って別れたのだ。

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