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* * *
「もう、怖くないですか?」
番となったジェレミーが腕のなかから見上げて訊いてくる。
カシウスはむぅとくちびるを尖らせた。
「怖がってなどいないと言っただろう。ちょっと……ほんの少し怖気づいていただけで……」
カシウスの返答にジェレミーがぶふっと吹き出す。
番となってもこういうところは変わらないようだ。
むしろ変わってほしくないと思う。このままのジェレミーが好きなのだから。
オメガであることなど気にせずに、というのは難しいかもしれないが、この先も彼は彼らしく、自由に、その才をおおいに発揮して生きてほしいと心から願う。
激しく求め合ったあとの睦言はどこまでも甘かった。一度、おそろしく控えめに扉がノックされたけれど、ふたりして軽く無視することにした。ヴィドールには心の中で謝った。
このあとも残務処理は山積みである。ジェレミーだって忙しい身だろう。
だけどもう少しだけ――
「でも本当にいいのか? たしか商人には『時は金なり』という言葉があると聞いたが――」
自分だけの都合でずっとこうしているわけにもいかないとそう訊ねたら、ジェレミーはクセのある前髪を揺らし、「よくご存知で!」と瞳を輝かせる。
かわいかった。
とてもかわいいと思った。
「そうです。商人にとって時というのは商機をつかむためになにより大事なこと――ですが、こうやってあなたと一緒にいるこの時は、ぼくにとって金貨と同じくらい――いいえ、金貨より貴く大切なものなんですよ」
愛しい番が微笑む。
カシウスはジェレミーを思いきり抱きしめながら、ひょっとして自分はこの先国王としてもすこぶる心強い味方を得たのではないかと内心考えていた。
「ところで殿下、先ごろからお願いしていた絹糸の取引について家臣や城下の大商人の方々から承諾は得られました? できればもう始めてしまいたいのですが」
「えっいま? それいま言う?」
「独占ですよ、独占。ウチがやりますから。誰にも渡しませんからね」
「が、がめつい……」
end.
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