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第14話
俺は再度無理やり回復魔法で体調を整えてもらい、カイルにこそこそと頼みを伝える。
戸惑った表情を見せるが、俺はお前達の味方だと伝えると頷いた。
魔王は別室にて控えて貰い、セディとカイルが慌ただしく俺に鎧を着せていく。
「重くはありませんか?アレク様。」
「大丈夫だ。」
「でも、良いんですかねぇ。勇者様なのに。」
「大丈夫だろ。今神罰が落ちないのなら、問題ない。」
そうかなぁ。と複雑な表情をしたカイルが、俺の篭手のベルトを締めていく。キツくないかと言われ、少し腕を動かすが問題ない。
「これくらいで良い。」
全身を魔王とは別の黒い鎧で包み込む。差し色で金色入っているのは、誰の趣味なのか。それに、見つけてくるセディとカイルも凄い。
これで良いかと見せられた鎧と剣は、すぐに鑑定をかけた。呪いも状態異常も無いのを確認している。
俺は、先程クレースに言った。
勇者には、勇者を。
それに、見てみたい。
俺の後釜に現れた、女勇者を。
ここは居心地が良いのだ。壊されたらたまったもんではない。それに、クレースを殺されてたまるか。
「兜を。」
「アレク様。」
顔を覆い隠す兜を持つセディが、俺を呼ぶ。
兜を持ったまま、セディは腰を曲げた。その隣で、慌ててカイルも頭を下げる。
「何だ?どうした、突然。」
「ご武運を。」
「……安心しろ。俺は神のお気に入りらしいから。」
俺の言葉に二人はぽかんとしていたが、俺は気にせず兜を被った。視界は透視魔法をかけ広げる。
「行ってくる。クレースには……まぁ、安心して見てろと伝えてくれ。」
部屋を出ようとする俺の後ろで、二人はまた頭を下げた気がした。
***
女勇者が辿り着く前に、俺は玉座の間に到着した。
軽く剣を振り、重さ稼動に問題ない事を再度確認して鞘に納めた。
「キサマが魔王か!!」
勢い良く扉が開く。5人程の人間。真ん中で剣を構え、そう叫んだのが勇者だろう。確かに女だ。少女と言って良い年頃だろう。
杖を構えるのが二人。片方は教会の服を着ているので、回復役だろう。
それから、盾を持つのが一人。中々良い編成だ。遠距離の魔法使いに、盾役が一人。回復に攻撃を中心とする勇者。そんな感じだろう。
「生憎だが、私は魔王ではない。」
「なに!?魔王を出せ!!逃げたのか!?」
剣を構えながら問うてくる女勇者。中々生意気そうだ。
「はっ。魔王様が逃げるはずもないだろう。そもそも、貴様らは先の神託を聞かなかったのか?」
「あんなものは嘘だ!!魔王は敵!!魔物も敵!!それだけだ!!」
おいおい。天罰下ってもおかしくないぞ。
魔物は仕方ないにしろ、神託を嘘と宣うのはどうかと思う。
『そうですわ!!言っておやりなさいませ!!』
頭がぐらりと一瞬揺れ、女神の声が聞こえたが無視した。
『邪魔してごめんね。ちょっと調べるから、時間を稼いでくれるかな。』
男神の声もした。そう言われたら、仕方ない。
「頭の悪いガキ共が。」
挑発して、戦闘にもつれ込むとしようか。
「なんだと!?」
「神託は、神からのお言葉。それを知らぬ訳もなかろう。そこにいるのは、偽物の聖職者か?魔王軍とも言えども、神託はくだされている。」
俺は指先を杖を持つ回復役に向ける。ビクリと肩を震わせる聖職者らしき女。
「わ、わたしは!聖職者です!!聖なる矢よ我が敵を滅する雨となれ!!」
聖攻撃が降ってきた。聖なる矢。だが、俺には効かない。魔力が足らなすぎる。
右手で剣を握り、金色に輝く矢を振り払う。星屑の様になり、散っていく。
「そ、そんなっ!!」
女勇者が歯ぎしりをしている。盾役が慌てて聖職者の女を後ろに隠し、がつんと言う音と共に盾を構えた。
期待には、答えてやっても良いか。
俺は無詠唱で、盾を砕く。思ったより脆かった。見た感じの年齢層的に、まだ若いと言って良い。もしかしたら、魔王領近くの国からそのまま送り出された感じだろう。
盾役の顔が青ざめたのが見える。
「ゲイル!くっそぉ……ボクが相手になるぞ!!」
勇ましいというか、幼いというか。正義感に溢れた女勇者だ。また、脳が一瞬揺さぶられる。
『やっちゃっていいよ。その子達の国は、もう無いから。』
男神の声が聞こえた。
国が無いとはどういう事か。尋ねれば脳内に声が響いた。
『妻を侮辱されたからちょちょいってね。』
何とも言えない答えに、俺は女勇者達に同情した。まぁ、どうせ偽物の神だとか言われたんだろ、この女勇者の話からすると。
『その通りだよ。あ、僕が行けばはやいかな。』
そう言ったと思ったら、神々しい光と共に顕現された。
とてつもない威圧と共に。
「控えろ!お前達の神、月と安寧の神であるカイヤナイト神だ!!」
俺がそう言う前に、盾役と魔法使いの女が倒れてしまった。神の威圧に耐えられなかったのだろう。
辛うじて女勇者が剣を構えたまま踏ん張ってはいるが、唇を噛んだのか口から血が漏れている。
自分は聖職者であると言った女は、跪いて頭を垂れている。だが、肩が震えているのがよく分かる。
『アビゲイル。そかたの国は、滅んだ。』
単刀直入がすぎる。
女勇者が間の抜けた顔で、青の神を見る。
『我が妻、クリソプレーズを侮辱し、我々を偽の神だと宣い神託を無視した。それがどういう事か分かるだろう。』
聖職者が顔を上げた。信じられない。そんな表情をしている。
「嘘だ!!」
急な死の知らせに、女勇者ーーーアビゲイルは叫んだ。聖職者は立ち上がり、こちらに駆け寄る。再び跪き、青の神を見上げる。
「我が安寧の神よ。恐れながら、事実だと言う証明をして頂きたい。」
まぁ、そうなるな。
神とはいえ、急に言われても信じられはしないだろう。ましてや神だ。会った事が無い相手であり、会う事も叶うはずのなかった相手だ。
恐らく、聖職者が信じたのは女勇者の名前を当てた事だろう。彼女はここに現れてから、一度も名乗っていない。
『よかろう、我が信徒であるセレーナよ。』
名前が当たっていたのだろう。セレーナと呼ばれた聖職者の顔が、絶望の色に染まる。
『己ら自身で、見てくるがよい。』
青の神が右手を左から右へ払う。女勇者一行が消え、君も行くか?と問われたので頷いた。
転移魔法独特の視界の揺れが一瞬。目を開けると、空中に立っていた。
『ご覧、あれが彼女達の王様が住んでいたお城だよ。』
節くれだつ指先を、青の神は地上へ向けた。
そこには瓦礫の山と、白い城壁が僅かながら残っていた。
その城だったものの前に女勇者一行は転移していた。
泣き叫ぶ声が、ここまで聞こえる。
『これはオマケ。』
そう言った青の神は、指先を振る。幻影の様な物が、女勇者一行を囲む。幻影が写し出しているのは、過去の記憶。
女勇者が王に謁見している。
魔法使いが誰かに別れを伝えている。
聖職者が誰かに見送られ手を振っている。
盾役が年老いた女性と別れを惜しんでいる。
神というのは、人々を救うものだと思っていたが感情がある。立場がある。こうなった事について、俺は何も口を出せなかった。
『君は、僕達の事を人として見ているのかい?』
「……人間の定義を、人としての形をとり、感情を持ち思考し、表情や言葉にして表現出来る生き物とするならば、神だろうと人と思っています。」
『ふむ……形態は関係あるのかな?』
「あると考えます。でなければ、迫害なんぞ起きません。それと、人として形を作ったのは貴方ではないでしょう。」
『その通りだ。僕達よりもっと上の神が人間という種を作った。それにしても、君は面白い事を考えるね。さすが、我が妻のお気に入りだ。あ、勿論僕も気に入っているよ。』
にこりと微笑む青の神は、女勇者達から興味を失った様だ。その女勇者達は、隣に浮かぶ神を神と認め赦しを叫んでいた。
『神っていうのは、難しいね。』
「お察しします。」
『君も、心当たりがあるのかな?』
「勇者として旅をして、魔王領に居着いて分かりました。」
襲い来る獣。空気中に存在する魔力を溜め込み、凶暴化した魔物達。魔物達を狩るゴブリンやオーク。
ゴブリンやオークを外敵と見なし、巣を潰していくエルフや人間。
人間を劣等種と見なし、上下を決めたい亜人達。
世界には、色々な思想があるが本能は変わらないと知った。
「意思疎通が出来るなら、した方が良い。出来ないのならば、相手の本能は弱肉強食ただそれだけです。ならば、俺はやりますよ。」
命を脅かされる可能性が高いならば、俺はやる。
弱肉強食は、食うか食われるか。殺るか、殺られるか。ならば俺は、殺る方を選ぶ。
クレースに食われるのは、皮肉だな。と横道に逸れそうになった。
『うんうん。強い意志だね。確かに、弱肉強食の世界だ。知識が無ければ、死を待つのみ。それが何故、彼らは分からないのだろうね。』
それはきっと、自分が認識する世界が小さかったからだろう。女勇者も、その連れ達も。閉じた世界から、急に魔王討伐を依頼された。
この女勇者達は、ただの生贄だったのだろう。
魔王の正体を、知りたいが為の。
『そろそろ赦してあげようね。』
青の神が微笑み、再び手を左から右に払う。
幻影は消え、崩れた建物が消え去り元に戻っていく。まるで、時間が戻るかのように。
女勇者達は、俺達を見上げ涙を流している。
その顔は、畏怖を含んでいた。
『帰ろうか。』
俺は、黙って頷いた。
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