14 / 14

第14話

 俺は再度無理やり回復魔法で体調を整えてもらい、カイルにこそこそと頼みを伝える。  戸惑った表情を見せるが、俺はお前達の味方だと伝えると頷いた。  魔王は別室にて控えて貰い、セディとカイルが慌ただしく俺に鎧を着せていく。  「重くはありませんか?アレク様。」  「大丈夫だ。」  「でも、良いんですかねぇ。勇者様なのに。」  「大丈夫だろ。今神罰が落ちないのなら、問題ない。」  そうかなぁ。と複雑な表情をしたカイルが、俺の篭手のベルトを締めていく。キツくないかと言われ、少し腕を動かすが問題ない。  「これくらいで良い。」  全身を魔王とは別の黒い鎧で包み込む。差し色で金色入っているのは、誰の趣味なのか。それに、見つけてくるセディとカイルも凄い。  これで良いかと見せられた鎧と剣は、すぐに鑑定をかけた。呪いも状態異常も無いのを確認している。  俺は、先程クレースに言った。  勇者には、勇者を。  それに、見てみたい。  俺の後釜に現れた、女勇者を。  ここは居心地が良いのだ。壊されたらたまったもんではない。それに、クレースを殺されてたまるか。  「兜を。」  「アレク様。」  顔を覆い隠す兜を持つセディが、俺を呼ぶ。  兜を持ったまま、セディは腰を曲げた。その隣で、慌ててカイルも頭を下げる。  「何だ?どうした、突然。」  「ご武運を。」  「……安心しろ。俺は神のお気に入りらしいから。」  俺の言葉に二人はぽかんとしていたが、俺は気にせず兜を被った。視界は透視魔法をかけ広げる。  「行ってくる。クレースには……まぁ、安心して見てろと伝えてくれ。」  部屋を出ようとする俺の後ろで、二人はまた頭を下げた気がした。 ***  女勇者が辿り着く前に、俺は玉座の間に到着した。  軽く剣を振り、重さ稼動に問題ない事を再度確認して鞘に納めた。  「キサマが魔王か!!」  勢い良く扉が開く。5人程の人間。真ん中で剣を構え、そう叫んだのが勇者だろう。確かに女だ。少女と言って良い年頃だろう。  杖を構えるのが二人。片方は教会の服を着ているので、回復役だろう。  それから、盾を持つのが一人。中々良い編成だ。遠距離の魔法使いに、盾役が一人。回復に攻撃を中心とする勇者。そんな感じだろう。  「生憎だが、私は魔王ではない。」  「なに!?魔王を出せ!!逃げたのか!?」  剣を構えながら問うてくる女勇者。中々生意気そうだ。  「はっ。魔王様が逃げるはずもないだろう。そもそも、貴様らは先の神託を聞かなかったのか?」  「あんなものは嘘だ!!魔王は敵!!魔物も敵!!それだけだ!!」  おいおい。天罰下ってもおかしくないぞ。  魔物は仕方ないにしろ、神託を嘘と宣うのはどうかと思う。  『そうですわ!!言っておやりなさいませ!!』  頭がぐらりと一瞬揺れ、女神の声が聞こえたが無視した。  『邪魔してごめんね。ちょっと調べるから、時間を稼いでくれるかな。』  男神の声もした。そう言われたら、仕方ない。  「頭の悪いガキ共が。」  挑発して、戦闘にもつれ込むとしようか。  「なんだと!?」  「神託は、神からのお言葉。それを知らぬ訳もなかろう。そこにいるのは、偽物の聖職者か?魔王軍とも言えども、神託はくだされている。」  俺は指先を杖を持つ回復役に向ける。ビクリと肩を震わせる聖職者らしき女。  「わ、わたしは!聖職者です!!聖なる矢よ我が敵を滅する雨となれ!!」  聖攻撃が降ってきた。聖なる矢。だが、俺には効かない。魔力が足らなすぎる。  右手で剣を握り、金色に輝く矢を振り払う。星屑の様になり、散っていく。  「そ、そんなっ!!」  女勇者が歯ぎしりをしている。盾役が慌てて聖職者の女を後ろに隠し、がつんと言う音と共に盾を構えた。  期待には、答えてやっても良いか。  俺は無詠唱で、盾を砕く。思ったより脆かった。見た感じの年齢層的に、まだ若いと言って良い。もしかしたら、魔王領近くの国からそのまま送り出された感じだろう。  盾役の顔が青ざめたのが見える。  「ゲイル!くっそぉ……ボクが相手になるぞ!!」  勇ましいというか、幼いというか。正義感に溢れた女勇者だ。また、脳が一瞬揺さぶられる。  『やっちゃっていいよ。その子達の国は、もう無いから。』  男神の声が聞こえた。  国が無いとはどういう事か。尋ねれば脳内に声が響いた。  『妻を侮辱されたからちょちょいってね。』  何とも言えない答えに、俺は女勇者達に同情した。まぁ、どうせ偽物の神だとか言われたんだろ、この女勇者の話からすると。  『その通りだよ。あ、僕が行けばはやいかな。』  そう言ったと思ったら、神々しい光と共に顕現された。  とてつもない威圧と共に。  「控えろ!お前達の神、月と安寧の神であるカイヤナイト神だ!!」  俺がそう言う前に、盾役と魔法使いの女が倒れてしまった。神の威圧に耐えられなかったのだろう。  辛うじて女勇者が剣を構えたまま踏ん張ってはいるが、唇を噛んだのか口から血が漏れている。  自分は聖職者であると言った女は、跪いて頭を垂れている。だが、肩が震えているのがよく分かる。  『アビゲイル。そかたの国は、滅んだ。』  単刀直入がすぎる。  女勇者が間の抜けた顔で、青の神を見る。  『我が妻、クリソプレーズを侮辱し、我々を偽の神だと宣い神託を無視した。それがどういう事か分かるだろう。』  聖職者が顔を上げた。信じられない。そんな表情をしている。  「嘘だ!!」  急な死の知らせに、女勇者ーーーアビゲイルは叫んだ。聖職者は立ち上がり、こちらに駆け寄る。再び跪き、青の神を見上げる。  「我が安寧の神よ。恐れながら、事実だと言う証明をして頂きたい。」  まぁ、そうなるな。  神とはいえ、急に言われても信じられはしないだろう。ましてや神だ。会った事が無い相手であり、会う事も叶うはずのなかった相手だ。  恐らく、聖職者が信じたのは女勇者の名前を当てた事だろう。彼女はここに現れてから、一度も名乗っていない。  『よかろう、我が信徒であるセレーナよ。』  名前が当たっていたのだろう。セレーナと呼ばれた聖職者の顔が、絶望の色に染まる。  『己ら自身で、見てくるがよい。』  青の神が右手を左から右へ払う。女勇者一行が消え、君も行くか?と問われたので頷いた。  転移魔法独特の視界の揺れが一瞬。目を開けると、空中に立っていた。  『ご覧、あれが彼女達の王様が住んでいたお城だよ。』  節くれだつ指先を、青の神は地上へ向けた。  そこには瓦礫の山と、白い城壁が僅かながら残っていた。  その城だったものの前に女勇者一行は転移していた。  泣き叫ぶ声が、ここまで聞こえる。  『これはオマケ。』  そう言った青の神は、指先を振る。幻影の様な物が、女勇者一行を囲む。幻影が写し出しているのは、過去の記憶。  女勇者が王に謁見している。  魔法使いが誰かに別れを伝えている。  聖職者が誰かに見送られ手を振っている。  盾役が年老いた女性と別れを惜しんでいる。  神というのは、人々を救うものだと思っていたが感情がある。立場がある。こうなった事について、俺は何も口を出せなかった。  『君は、僕達の事を人として見ているのかい?』  「……人間の定義を、人としての形をとり、感情を持ち思考し、表情や言葉にして表現出来る生き物とするならば、神だろうと人と思っています。」  『ふむ……形態は関係あるのかな?』  「あると考えます。でなければ、迫害なんぞ起きません。それと、人として形を作ったのは貴方ではないでしょう。」  『その通りだ。僕達よりもっと上の神が人間という種を作った。それにしても、君は面白い事を考えるね。さすが、我が妻のお気に入りだ。あ、勿論僕も気に入っているよ。』  にこりと微笑む青の神は、女勇者達から興味を失った様だ。その女勇者達は、隣に浮かぶ神を神と認め赦しを叫んでいた。  『神っていうのは、難しいね。』  「お察しします。」  『君も、心当たりがあるのかな?』  「勇者として旅をして、魔王領に居着いて分かりました。」  襲い来る獣。空気中に存在する魔力を溜め込み、凶暴化した魔物達。魔物達を狩るゴブリンやオーク。  ゴブリンやオークを外敵と見なし、巣を潰していくエルフや人間。  人間を劣等種と見なし、上下を決めたい亜人達。  世界には、色々な思想があるが本能は変わらないと知った。  「意思疎通が出来るなら、した方が良い。出来ないのならば、相手の本能は弱肉強食ただそれだけです。ならば、俺はやりますよ。」  命を脅かされる可能性が高いならば、俺はやる。  弱肉強食は、食うか食われるか。殺るか、殺られるか。ならば俺は、殺る方を選ぶ。  クレースに食われるのは、皮肉だな。と横道に逸れそうになった。  『うんうん。強い意志だね。確かに、弱肉強食の世界だ。知識が無ければ、死を待つのみ。それが何故、彼らは分からないのだろうね。』  それはきっと、自分が認識する世界が小さかったからだろう。女勇者も、その連れ達も。閉じた世界から、急に魔王討伐を依頼された。  この女勇者達は、ただの生贄だったのだろう。  魔王の正体を、知りたいが為の。  『そろそろ赦してあげようね。』  青の神が微笑み、再び手を左から右に払う。  幻影は消え、崩れた建物が消え去り元に戻っていく。まるで、時間が戻るかのように。  女勇者達は、俺達を見上げ涙を流している。  その顔は、畏怖を含んでいた。  『帰ろうか。』  俺は、黙って頷いた。

ともだちにシェアしよう!