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5.毛にまつわるエトセトラー小話2話
■1話目ー愛しい毛先
「う〜ん、伸びたなぁ……」
昼間の暇な時間、洗面台の鏡を見ながら、ジェイスは髪をいじっていた。
「ん? 何してるんだ?」
ラスヴァンがジェイスの後ろから覗き込む。
少し笑って、そのままジェイスのさらさらの髪を優しくなでた。
ジェイスの背筋がビクリと跳ねる。
【過去——】
昔、ラスヴァンがジェイスの髪を、サバイバルナイフで不器用に整えようとしたことがあった。
「……あの……鏡、見せてください?」
「やめとけ」
「えっ!?……なんで!?」
自分の頭を触ると、柔らかくシャリシャリした感触。
「あれっ!? 涼しいけど…毛がなくなって…!?」
「動くな。まだ整ってねぇ」
ラスヴァンはサバイバルナイフを、ジェイスの後頭部で構え直す。
「いやもう、整うとかじゃない気が!!!」
その後、町を歩けば——
「……生まれたてのひよこ? いや、まさか……ジェイス君……?」
と神父は目を丸くし、
「おまえ……どこの修行僧だよ……」
と、ミハイルが真顔で聞いてきた。
「……髪って、そぐもんだと思ってた。削る感じで……」
と言い訳をするラスヴァンに、
「ナイフは“刈る”じゃない! “そぐ”でもない!それナタ!!」
とジェイスは叫んだ。
「だが、ふわふわの坊主ジェイスは、金色の産毛みたいで、陽に当たるとちょっと光ってとても魅力的だ。俺はどこまでも好きだ」
ラスヴァンはそう言って悪びれることもなく、
丸っこい頭をぽん、と愛しそうに撫でた。
ジェイスはしばらくいじけて、ほっかむりをして過ごすことになった。
お互いの考えのすれ違いを確かめ合う、ほろ苦くも妙な経験になった。
【そして今——】
ジェイスの髪はふわふわ坊主から成長し、
「ぽやっと可愛いショート」に戻っていた。
ラスヴァンはジェイスの後ろ髪をじっと見つめる。
ジェイスの心臓はドキドキと跳ねるように高鳴っていた。
「……髪、伸びたな」
「……えっ?」
「切るか?」
(ッッ!!)
ラスヴァンの優しさに、嫌とは言いにくいジェイスの言葉が喉で詰まる。
ラスヴァンが踵を返し、物置の棚へ向かう。
「ちょっと待ってろ。道具取ってくる」
──ガチャッ(武器棚が開く音)
──シュルッ(サバイバルナイフが取り出される音)
「ジェイス、座れ。すぐ終わる」
「座れるかーーーーーー!!!!!!」
バタァァン!!
家のドアが吹き飛ぶ勢いで開き、ジェイスが飛び出してくる。
「うわあああああ!!」
外へ飛び出したジェイスは、恐怖から逃げるように全力疾走。
「待て! ジェイス、なぜ逃げる!?」
「こないでええええええ!!」
ちろっと後ろを見れば、
サバイバルナイフを手に真顔で追ってくるラスヴァンの姿。
「ジェイス、待て。暴れると危ないだろ」
「ひいいいいいーーー!!!」
ホラー映画『13日の金曜日』帰りだった神父は、
(……ナイフか……斧もありですよね……)
物騒なことを考えながら、キャラメルポップコーンを口に放り込んで見守る。
石階段でランチのおにぎりを食べていたミハイルが、事情を察して叫ぶ。
「もうはさみ買ってやれや!!!!」
この追いかけっこは、ジェイスがつまづいて転ぶまで続いた。
―――
その後。
木陰に隠れて震えているジェイスに、ようやく追いついたラスヴァンが言った。
「ジェイスの気持ちは理解した……悪かった。今度は……ちゃんとハサミを用意する」
「ほんと!? ちゃんとハサミ? ナイフ使わない???」
「……うん。……でも、坊主になっても、似合ってたぞ」
「よけいなこと言わないで!!」
マジギレしたジェイスに、ラスヴァンはひざまずいてナイフを地面に置いた。
■2話目ー好みの髪型
ある日――
ラスヴァンの髪がけっこう伸びていた。
それに気づいたジェイスは、ぽやんとした顔のまま、
ラスヴァンの前髪や耳元へと視線を向けてしまう。
(…な、なんだろ…ラスヴァン、なんか雰囲気が違うかも……)
ずっと短髪のラスヴァンに見慣れていたからかもしれない。サイドに分けて耳から後ろに流す髪が、毛先で少し遊んでいて、その姿にジェイスはつい見惚れてしまう。
(ちょっと…ラスヴァン…かっこよさが増してる///)
―――
そんなジェイスの変化に、ラスヴァンも気づいていた。
「……なに見てんだ?」
「へっ!? べ、べつにっ!///」
「顔、赤いぞ?」
ラスヴァンの髪がさらりと落ちて、セクシーさがいつもより増して見える。
「うわあぁ///」
「……? どうした?」
ラスヴァンが髪をかき上げ、ジェイスの頬に手を伸ばそうとした瞬間——
「ひいぃい!///(謎の悲鳴)」
まるで、ラスヴァンとは別のセクシーな男に触れられるような錯覚に、ジェイスは妙な興奮を覚えてしまっていた。
―――
その夜。
風呂場で、チョキチョキチョキ……という音が響く。
「……ちっ、こんなもん、伸びてたって仕方ねぇ……」
(数分後)
「……ラスヴァン、風呂から上がっ──えええええええええ!!!」
「……これでいいんだろ。もうひいひい言わなくてすむだろ」
ラスヴァンは、いつもの短髪に戻っていた。
どうやら、ジェイスが長い髪を嫌がっていると勘違いしていたらしい。
「ちがう!違うの!照れてただけなのにぃ!かっこよかったのにぃ!」
「……か、かっこよかったのか?」
「うん、セクシーでラスヴァン、めちゃくちゃカッコよかったのにぃ!うわああん!!」
お気に入りがなくなったショックで、ジェイスは泣いた。
ラスヴァンは、なんとも言えない気持ちで、そっと膝をついた。
END
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