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4.物々交換は愛の証
ジェイスは、ラスヴァンと一緒に朝食をすませると、向かいにある小さな緑色の花屋のシャッターを開けた。
店内に入り、花の水を替えたり、茎を切ったり、茎を叩きつけて水分をよく吸うように工夫した後、掃除もこなしていく。気づけば、あっという間に時間が過ぎていた。
仕事がひと段落した頃、まだ開店前の静かな店内で、ジェイスは大きな窓に目を向けた。
――と、そこに。
窓のすぐ外で、ラスヴァンが直立不動でこちらを見ていた。
「っ……!!」
ジェイスはビクッと肩をすくめる。
呆れたようにため息をつき、指で「自分の店に戻って仕事しなさい」と合図を送るも――
ラスヴァンはどこ吹く風。なぜかジェイスの店の前をホウキで掃きはじめた。
「そっちじゃない! 自分の店の前を掃除して!」
慌てて注意すると、ラスヴァンはなぜか掃除をやめて、店先の一人がけの木のベンチに腰を下ろす。
ジェイスはたまらず店のドアを開けて叫んだ。
「そこはお客さんが座る用だって言ってるだろっ!!」
と、そのタイミングで花屋に客が現れた。
ラスヴァンは渋々立ち上がり、ようやく自分の店へと戻っていった。
最近、王都からの旅人が多い。なんでも「古の勇者が隠した宝」を探すのが一部で流行っているらしい。どこかで聞いたような話だ。
そのおかげで、小さな町リーヴェルにも人が増え、町も少しずつ賑やかになっていた。とはいえ、旅人が皆いい人とは限らない。
「お兄さん、いい身体してるねぇ」
派手でチャラついた宝石をじゃらじゃら身に着けた旅人が、花を選びながらアレンジ用の花束を作っていたジェイスに声をかけてきた。
「え、そうですか?///」
最近筋トレを頑張っていたジェイスは、素直に笑顔を見せてしまう。だが次の瞬間──
「ほんっとにいい筋肉。可愛い顔とマッチした、程よい肉付きだよね」
そう言って旅人は、ジェイスの腕を撫でるように触れ、さらに手は腰のあたりまで回り込んでくる。
ゾワッ。
ジェイスの背筋に鳥肌が走る。と、その時だった。
――バンッ!!!
花屋のドアが凄い勢いで開いた。
「……っ!!」
現れたのは、鬼の形相のラスヴァン。
褐色の腕が旅人のシャツの襟首を掴んだかと思うと、まるで投げ飛ばすように店の外へ放り出す。
「っひゃあぁああーー!?」
旅人は叫び声を上げながら、向かいのラスヴァンの店の前まで吹っ飛んでいき、そのまま首根っこを掴まれ店の中に引きずられていく。
「ちょっ、ま──」
ジェイスは慌てて止めにいこうとするが、
「ジェイスちゃん、こんにちは〜。いつものお花、お願いできるかしら?」
ちょうど常連の客が来てしまった。
対応せざるを得ず、ラスヴァンの店の様子を見に行けない。しかもあの店は中が薄暗く、こちらからでは様子がまったく見えなかった。
ジェイスは内心穏やかではなかった。客のことも気になるが、それ以上にラスヴァンに暴力を振るわせたくなかった。
──そして、客の応対が終わると同時に、急いでラスヴァンの店に向かおうとしたその時。
ギィ……
ラスヴァンの店のドアが開いた。
出てきた旅人は、上下下着姿。
宝石や派手な装備はどこへやら、代わりに変な壺、大きな狸の置物、解体された木箱の破片を両手に抱え、さらにロープでいくつかの品を体に括り付けている。
「ど、どうも……」
見るからに気まずそうに、冷や汗をかきながら、店のドアの中の人物に何度も頭を下げた後、そのまま逃げるように去っていった。
その姿を見て、ジェイスは思い出す。
彼が持っていた物は、以前からラスヴァンの店でなかなか売れなかった物ばかりだった。
ジェイスは花屋のドアに『雑貨屋にいます。ご用の方はそちらまでお願いします』と書かれた札をぶら下げ、エプロン姿のまま雑貨屋へと走った。
ギイ──
ドアを開けると、いつもの薄暗い店内が、どこか明るく感じられた。
カウンターの上には、煌びやかな装備品や洋服、宝石などがずらりと並べられ、そのひとつをラスヴァンが光にかざしてじっと観察している。
「ラスヴァン!」
ジェイスの声に、ラスヴァンは顔を上げ、穏やかな表情で微笑んだ。
「ジェイス……今、会いに行こうと思ってた」
そう言って、ほきゅうっとジェイスを抱きしめ、髪にキスを落とす。
「そうじゃなくて! さっきの……変な客、どうしたの?」
「どうって……ブツブツ交換」
「物々交換!?」
ジェイスの驚きに、ラスヴァンはあっさりと答える。
「あいつの前で、拳鳴らしてたら急に『あなたの恋人とは知らなかったんです! 申し訳ありません!』って土下座してきて、宝石とか装備とか渡してきた。でも、ジェイスに『知らない人からタダでものをもらっちゃダメ!』って言われてるから、こっちも店の商品を出した。それで……交換、で商売成立ってことで」
と、どこまでも真顔で語るラスヴァン。
ジェイスは一瞬あきれたような表情をしたが、少し心配そうに問いかけた。
「……手は出してない?」
ラスヴァンは、ふっと微笑むと、ジェイスのおでこにキスを落として答えた。
「ああ」
──だがしかし。
心配性な恋人には、
さっき変な客に『尻に蹴りを思いっきり入れてやった』ことは内緒である。
ラスヴァンいわく、“手は出してない”のだから。
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