1 / 4
第1話
いつからかは定かでないが、気付いた時にはもう全て手遅れ。
俺真田彩愛(さなだ あやめ)は2つ年上の敦賀啓史(つるが あきふみ)に恋をしていた。
幼い頃は年が近い事もあって毎日遊んでいたが、2つという差は近い様で微妙に遠い。
彼が中学に進学した頃には遠い私立に行く様になったからか、一緒に居る時間が減った。
寂し過ぎて日に日に俺は口数の少ない大人しい性格になってしまった。
彼に逢いたくて逢いたくて毎日枕を濡らしていたら、小6の夏休み
「そんなに寂しいならウチ来る?」
誘われたので
「うん!!」
速攻で進路を決めた。
彼が行っている私立は偏差値が高い。
だが毎日読書と勉強ばかりしていたからか、そこ迄慌てなくても大丈夫そうだ。
家族に進路を話した後過去問と参考書を買い、その日から必死に受験勉強を始めた。
その甲斐あってか、難なく俺は彼が通う中学に合格した。
大喜びしたのも束の間、彼が生徒会長で物凄く人気がある事を知った。
なかなか近付けないし、男子校だからかは知らないが恋愛感情で彼を慕う親衛隊というの迄あって折角同じ学校になれたのに俺は彼の傍に行けなかった。
が、幸運なのか不運なのか俺は生徒会補助に選ばれた。
生徒会は2・3年で運営しているのだが、この学校の生徒会は仕事量が半端なく多い為突然なっても対応出来ない。
その為次期生徒会入りの人間は1年のうちから補助として仕事を見学し手伝い学ぶ。
因みに3年生は途中から受験勉強の方を優先するから余計補助が必要になる。
正直生徒会は面倒だが、お陰で彼と話せる様になった。
が、幼馴染みとはいえ相手は人気者の生徒会長。
周りの目を気にして俺は彼を人前ではアキちゃんではなく啓史さんと呼ぶ様にした。
最初は違和感を訴えていた彼だが、その呼び方も悪くないなと頭を撫でてくれた。
寧ろなんか萌えるとか言われた気もするが意味が分からず首を傾げた。
勉強と生徒会の補助と慣れない学校生活はかなり気力体力を消耗したが、彼の傍に居れるお陰で俺は毎日幸せを満喫していた。
嬉しそうに顔を見て声を掛けられたら幸せそうに駆け寄る俺はアキちゃん好き好きオーラを惜しみなく放出していたらしく、いつの間にか俺は生徒会長の愛犬と呼ばれる様になっていた。
確かに犬だったら毎日全力で尻尾千切れんばかりに振っている自覚がある。
でも幸せだから仕方ない。
本来ならば親衛隊は自分の崇拝する方に邪魔者が近付くと排除するのだが、余りにも俺が幸せそうに傍に居るので毒気を抜かれたらしい。
多分生徒会補助と幼馴染みと愛犬という肩書きも強かったのだろう。
かなり過激派だと言われている彼の親衛隊は俺には何も手を出さなかった。
「好きです。付き合ってくれませんか?」
補助になって名が知れた頃から、俺は何故か沢山の人達に毎日告白される様になった。
綺麗・可愛い・美しいと褒められるが、この学校の顔面偏差値は学力と同様に高い。
実際俺に近付いたり告白してくる人達は全員美形だし、身だしなみに気を配っている人ばかりなので誰一人ダサい人間が居ない。
なので何故平凡代表な自分がモテるのか理解出来ない。
おそらく生徒会関係者に近付くと何か特典でもあるのだろう。
そう考え毎日告白を断っていたら
「なんで誰とも付き合わないんだ?」
彼に聞かれた。
なんでって、逆に問いたい。
何故男に告白されて付き合うんだ。
意味が分からない。
それに俺はアキちゃん以外興味がない。
傍に居たいのも顔が見たいのも声が聞きたいのも触れて欲しいのも全てアキちゃんだけだ。
今迄そうだったし、これから先もそれは変わらない。ずっと同じだ。
恋愛も友情も何も要らない。
欲しいのはアキちゃんだけ。
俺の興味はアキちゃんにしか向かないし、それ以外は正直どうでもいいし不要だ。
当たり前の様に素直に口にすると
「ほんっと彩愛は俺の事好き過ぎだな」
彼は嬉しそうに笑ってくしゃくしゃ俺の頭を撫でた。
そんな俺だから、必然的に性的欲求不満の解消相手も彼になってしまった。
性に対してタンパクで興味の無かった俺は夢精はあるが自慰等一切した事がなかった。
調べたり人に聞けば簡単に分かるがどうでも良かった為、知識がなかった。
断っても断ってもしつこく絡んでくる同級生の五木に突然空き教室に連れ込まれ迫られた。
意味が分からず戸惑っているうちに近付いてきた五木の顔。
近いな、そう思いながらもどう対処していいのか分からない。
唇が俺の唇に触れそうになった瞬間
「彩愛っ」
焦ったアキちゃんの声が聞こえ、彼の腕の中に抱き締められた。
「大丈夫か?」
心配されて分かった事なのだが、どうやら俺は五木にキスされそうになっていたらしい。
顔を近付けられたのはそういう意味だったのか。
てっきり何か付いていて取ろうとしてくれてるのだとばかり思ってた。
取り敢えず
「ありがとう?」
首を傾げながらお礼を言うと
「あ~もうお前危ないわ、スッゲェ心配」
彼は俺を抱き締める力を強くした。
その日を境に彼は俺の傍に常に居る様になった。
で、気が付くといつの間にか俺は彼とキスする様になっていた。
なんかどうでも良い奴に奪われる位なら俺が奪うとか言ってたけど、どういう意味なのだろう。
最初は触れ合うだけの軽いキスが日が経つにつれ深くなり、何故か俺は彼に全てを委ねる関係になっていた。
若さって不思議。
前は性に対して何も知らなかったのに今では毎日彼と身体を重ねている。
ハッキリ言って全然嫌じゃないし、寧ろ嬉しい。
毎日可愛い可愛いって甘やかしてくれるし、勉強も教えてくれるし、傍に居てくれる。
俺が彼に全力で惚れるのは当然だった。
今迄は大好きで尊敬出来る憧れの幼馴染みだったのだが、今では心底大切な愛してやまない人になっていた。
だから彼も俺と同じだと勘違いしていた。
それが分かったのはいつも一緒だった彼が卒業して1ヶ月後。
彼女が出来たと嬉しそうに教えられて目の前が真っ暗になった。
彼にとって俺は可愛い愛犬で唯の幼馴染み。
キスもそれ以上も甘やかしの延長線上。
確かに彼は可愛いとは言ったが、好きとは言っていない。
彼女が出来てから彼は俺の身体に触れなくなった。
これからは彼女にしかしないらしい。
毎日されていたキスと触れ合い。
タンパクだったが、毎日されていたらそれも変わる。
寂しくて哀しくて、そして何より身体が疼いて苦しくて涙が溢れた。
だが、彼以外に触られたくない。
俺は毎日彼を思い出しながら一人虚しく処理をする様になった。
彼を失った俺は抜け殻になった。
生徒会役員なので成績は常に上位でなければならない。
それを理由に勉強しかしなくなった。
時折顔を見せに来る度に心が跳ね上がったが、いつも彼は彼女を連れてくる。
彼の隣で其処に居るのが当たり前の様に笑う彼女が羨ましかった。
彼女に触れる度、笑いかける度、心が軋んだ。
嫌だ、触らないで。笑いかけないで、見ないで。
傍に居て欲しい。キスして触れて抱き締めて欲しい。
言えない言葉が蓄積されていく。
好き。アキちゃんが好き。
必死にポーカーフェイスを貫きながら心で泣いた。
ともだちにシェアしよう!