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第2話
大学卒業後直ぐに彼は彼女と結婚し、子供が出来た。
名前は秀隆(ひでたか)。
幼少期の彼ソックリで懐かしさを感じた。
彼は彼女と秀隆を溺愛していて、毎日幸せそうにしていた。
俺は相変わらず彼しか愛せず、告白されても断わり続け独り身を貫いている。
お陰で彼から相手にされなくなってからずっと自己処理しかしていない。
前も後ろも自分で弄る虚しさ。
それは半端なくて、発散するのは本当に欲求不満に陥った時のみにしている。
大学卒業の日、彼から卒業祝いをやると言われた。
何が欲しい?
初めて聞かれたプレゼント。
いつも彼は俺が喜びそうなのを自分でセレクトして俺に与えてくれる。
実際彼から貰えるのは俺が好きなのばかりで、彼のセレクトに失敗はない。
まぁ彼から貰えるのだったら髪の毛や消しゴムの消しカスでさえ宝物になるのだけれど。
それを言ったらドン引きされるから言わない。
何でも良いよ。言ってみな?
言われて口から出たのは素直過ぎる言葉。
「アキちゃんが良い。アキちゃんが欲しい」
言ってしまった瞬間失敗したと確信した。
慌てて
「今のなし。何でも良いから。今迄通りアキちゃんが選んで?」
言い直したら
「良いよ。おいで?」
彼は腕を広げてくれた。
久しぶりに感じる彼の体温。
抱き着いて
「好き」
彼が中学卒業以来言ってなかった言葉を口にした。
その日俺は彼に抱かれた。
自己処理していたとはいえ、指のみしか挿れてなかった後孔は彼を受け入れる時激しい痛みをもたらした。
互いに初めての時同様に苦痛と汗を流したが、ゆっくり慣らしながら優しく触れてくれたお陰でいつの間にか気持ち良さの方が上回った。
だが一度触れたらもうダメだった。
今迄我慢出来ていたのが不思議な位、俺は彼が欲しくて堪らなくなった。
顔を見るだけで声を聞くだけで熱くなる身体。
触れて欲しくて愛して欲しくて傍に居たくて。
でもそれは俺だけで、彼は家族しか愛していない。
俺にとって彼は唯一無二の存在だが、彼にとってそれは家族なのだ。
俺は彼の特別にはなれない。
分かっていても好きな気持ちは変えられなかった。
抱いてくれたのは一度だけ。
彼からしたらアレは唯の大学卒業祝い。
物凄く優しくしてくれたし、沢山甘やかしてくれた。
数え切れない位されたキス。
何度も胎内に放ってくれた熱くて甘い液体。
幸せ過ぎて、このまま死んでも良いとさえ思えた。
好き。アキちゃんが好き。
何度告げたか分からない。
だけど彼はやはり可愛いと言ってくれたのに好きとは言ってくれなかった。
中学迄と何も変わらない。
彼にとって俺は唯の幼馴染みでしかないのだ。
分かっていた事だが、改めて実感させられて深い哀しみに襲われた。
卒業後俺は彼の会社の近くの花屋に就職した。
彼が綺麗なお花が好きだからだ。
毎日退社後何かしらの花を買っていく。
それは愛する奥さんへの贈り物なのだが、それでも彼に逢える事が嬉しくて俺は毎日その時間を楽しみにしていた。
26歳の誕生日。
珍しく彼は家族より俺を優先してくれた。
俺がプレゼントはデートが良いって言ったからだ。
駅前の広場に待ち合わせの1時間前に来て、入念に身だしなみをチェックする。
俺より10cm以上高い身長と細身だけどきちんと鍛えられた身体と綺麗で格好良い顔をした彼はハッキリいって目立つ。
そんな横に平凡な自分が並ぶのだから、ある程度小綺麗にしていなければ彼に恥をかかせる。
何処も変な所ないよな?
髪跳ねてないよね?
ドキドキハラハラしていたら
「ねぇ君一人?」
見知らぬ男性に声を掛けられた。
なんだ?
「いえ、待ち合わせです」
意味が分からず返答したら
「君みたいに可愛い子待たすなんて」
何故かその人は彼を非難した。
俺が勝手に早めに来ただけで彼は何も悪くない。
「そんな奴ほっといてさ、俺と遊ばない?」
一気に距離を近付けられ、不快に感じた。
「結構です」
そう断ったのに
「近くに美味しいカフェあるんだ。奢るから行こうよ」
肩を抱かれた。
気持ち悪い。
振り払おうとしたら
「君誰?何勝手に触れてんの?」
パシンッ、俺より先に誰かがソイツの手を払った。
「少し早めに来て良かった」
アキちゃんに助けられ、俺達は其処から離れた。
その後は映画を見て、本や洋服を一緒に選んだ。
その間彼はずっと俺の手を握ってくれていた。
恥ずかしかったが、幸せで心が満たされた。
ホテルのレストランでランチを食べた後、何故か部屋に移動した。
「アキちゃん?」
部屋に入るなり抱き締められた身体。
彼の腕が震えている。
どうしたのだろう。
心配で名前を呼ぶと
「今日は怖い想いをさせて悪かった」
彼はそう口にした。
自分が遅れたせいで俺が知らない奴に絡まれたのが許せなかったらしい。
それでずっと手を握って周囲を牽制していたのか。
俺が勝手に早めに来て待っていて絡まれたのだから彼は全く悪くない。
それでも彼は責任を感じたみたいだ。
彼にとって俺は何なのだろう。
恋人ではないのだから俺が他人に触られても構わない筈だ。
だがそれは嫌だと言う。
俺に触れていいのは自分だけだと。
まぁ俺も彼以外には触られたくないのだけれど。
「多分、好き…なんだと思う」
どうやら彼も自分で自分の気持ちが分からないらしい。
本人が分からないのなら俺はもっと分からない。
だけど今は少しでも向けられた好意が嬉しい。
「好きだよ彩愛」
ふわり微笑まれて
「嬉しい」
俺は初めて心の底から幸せを感じた。
彼に愛されて幸せな気持ちのまま花屋に向かった。
昨日休んだ分今日は沢山働こう。
心身満たされた俺は笑顔で接客した。
まさかそれが開始1時間で凍り付くとは知らずに。
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