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最終話
「でもさ、健吾と知り合う前の俺だったら、好きな人に好きだなんて言えなかったよ…健吾と一緒に過ごしていくうちにね、真っ直ぐ素直に気持ちを言えるようになった」
唯斗は、恥ずかしそうに俺をチラッと見て、また唐揚げを食べた。
「俺は、何でもお構いなしに言うからな…それで言い合いになることもあるし、誰かを傷つけることもある」
「でも、健吾は自分が間違ったと思ったら、その時は謝ってくれる…今日も、まさか、ごめん、なんて言われると思ってなかった。本当、途中から今日こそ、Xデーなんだって、生きた心地しなかったよ」
「何やねん、Xデーって」
俺は、笑った。
「健吾の結婚話しの日」
「アホ…そんなん想像もつかへんわ」
「だって…」
唯斗は口を尖らせて上目遣いで俺を見てる。こんないちいち可愛い仕草する奴が何で俺のこと好きやねん。それに、俺自信、唯斗のことどう思ってんねやろ…俺を好きやって真正面から言うてくれた唯斗を。唯斗は唯斗や、ってばっかり言うてられへんよな。チンコは兎も角としても、俺は、唯斗の気持ちに応えてやることができるんやろか…。
「今日は、俺の方がよく喋ってる」
唯斗が薄っすら笑う。
「えっ…ああ、ごめん」
唯斗は、優しいを顔して、ゆっくりと言った。
「あのね、健吾。あの時も言ったけど、俺、健吾のこと困らすつもりはないからね。だから…今日が最後でいいよ…俺は…我慢するから…本当だよ」
唯斗はそう言って、いつの間にか空になってた俺のビールの缶を振った。
「次は違う種類のにしようか…取ってくるね」
冷蔵庫のビールを取りに行こうと、唯斗は立ち上がった。その時、俺も立ち上がった。冷蔵庫を開けようとした唯斗を、俺は後ろから抱きしめた。いつもやってるヘッドロックとちゃう。
今まで放ったらかしにしといて、何を今更やけど、俺は抱きしめずにはおられへんかった。
唯斗は、驚いて、肩をビクッとさせた。
「健吾…どうしたんだよ。いつものヘッドロックじゃないけど…酔ってるわけないよね」
唯斗は、俺の腕をポンポンと叩いたけど、俺は、腕の力を緩めんと抱きしめ続けた。
「唯斗…最後なんて言うなや…なぁ」
一体どの口が言うとんねんって話しやけど。
改めて感じた。唯斗の身長は俺の顎くらいやし、胸も薄いし、細いっていうか、コイツはホンマに華奢やった。
唯斗にとっては不確かに思える俺の言葉を聞いて、唯斗は何て言うか……好きやからお前と離れたない、ってはっきりと言えへん俺が情けなかった。
唯斗は俺の腕の中で体の向きを変えて、向き合うようにした。それから俺の胸にほっぺたを押し付けた。俺は、華奢な唯斗を文字通り包み込むように抱きしめた。
それから唯斗は俺の胸板に満足したんか、次は俺の肩に手やって、最大に背伸びして顔を近づけた。で、素早い動きで俺の唇に、チュッ、てキスしよった。
…お前、そんな不意打ち食らわすなよ。
唇を離した唯斗を、俺はじっと見た。
唯斗は俯いて、俺の胸におでこを引っ付けた。何か言われる思って俺の視線を避けてるようや。
最後のつもりで俺にキスしたんか?
「…唯斗」
唯斗は聞こえん振りしとおる。
「唯斗…なぁ、こっち向けや」
唯斗はおずおずと顔を上げて、俺を見た。怯えた仔猫が挑んでくるような目して。
お前なぁ…何でそんな顔すんねん…。
ホンマに最後にするんか?それか、今のキスは俺を誘ってんのか?どうしたいんや?お前は…最後なんか?誘ってんのか?
マジでホンマに…なぁ…唯斗……
俺にもっとキスして欲しいって言えよ!
ほんの数秒の見つめ合い、ではなくて睨み合い…の後。
俺は、唯斗の後頭部と顎を掴んだ。それで唇を重ねた。唯斗の下唇は柔らかいグミみたいにプニプニや。その感触が気持ちようて思わず何度も食んでしもた。唇を合わせた次は何するか…まぁ、その先の俺は無我夢中って感じや。
小さく開けた唯斗の口の中に、俺は舌を捩じ込んだ。唯斗の舌と絡ませた。吸い付いて絡ませて、また吸い付いて、今日を最後でいいと思ったお前の気持ち…そんなもん吸い込んだるっ。
唯斗も俺の気持ちを感じ取ったんか、それに応えよる。俺の首筋に触れてた唯斗の指先にもだんだん力が入ってきてる。
ラグビー以外でも、俺はこんなにも情動的になれる奴やったんや…ホンマ驚きやで。
たぶん、俺史上、最深、最長のキスや。男相手にやってもうたわ。
唇が離れたら、お互いに目なんか合わせられへん。俺は唯斗を自分の胸に押し付けた。で何でか、マウント取るみたいに俺の口から出た言葉が
「どうや…」
俺のキスは凄いやろ、って言いたかったんか?
こんな凄いキスしたってんから最後なんて言うなよ、って言いたかったんか?俺は…。
「アホ…」
ただ『アホ』って言うた唯斗が、なんや知らんけど可愛いと思ってしもた。
「これが、今の俺の精一杯や」
「うん…ありがとう…来てくれて、ありがとう」
…ったく、ありがとう、の言い方が関西弁やないか。惚れてまうやろって、誰か言うとったな…
「淡路島、行こな」
小さく頷きよる。
あ〜あ、俺はコイツとどないしたいねん。わからん…けど。けど、ってなんやねん…って自分に突っ込み入れたなる。
正直…今日、会うてようわかったわ。俺、唯斗とこのまま終わりたないわ。これからも、しょっちゅう東京に会いに行く。コイツとおったらオモロイし、気遣わんでええし、素のままの俺でいられる。なんでやろな…。
もし…今、唯斗が、俺のこと好きって言ったら、『チンコ』とか余計なこと言わんと、俺もお前が好きやで、って言うやろな。
「ねぇ、俺のチンコ見たくなった?」
はぁ……⁈
…ったく、お前は、イタズラ小僧みたいな顔して何言うねん。人がせっかく、ラブリーな気持ちになってんのに。
「はぁ?お前の豆鉄砲なんか見たないわ」
「豆鉄砲?…言ってくれるね。じゃあ、健吾のは、何だよ」
「そら、俺のは、マグナムや」
「へっ…見栄っ張り」
「やかましいわ」
俺は、唯斗を抱きしめている腕にめっちゃ力を入れたった。ラブリーからエロリーにしよった仕返しじゃ!
「もう、苦しいって。馬鹿力」
「お前、俺に抱きしめられて、うっとりしとったやないか」
「だからもっと優しくできないの?これじゃプロレスだよ」
俺の背中叩きまくって、必死にジタバタしとおる。
「お前如きが俺の力に敵うと思うなよ」
いや、もう俺から離れようと思うなよ…唯斗。
「思うわけないだろ。もう、降参ってば」
しゃあないな…俺は少し力を緩めた。
唯斗は、また俺の胸に顔を押し付けて、頬ずりしとおる。
「これくらいがいいんだよ。やればできるじゃん」
「黙れ、豆鉄砲」
「もう…っ!」
唯斗は笑いながら俺の背中に軽く爪を立てた。
けなして、冗談言うて、揶揄 うて…
これからも、俺らは、続いていくんや。
それに、抱きしめてるこの感じは…悪ないな。
東京ナイト
おわり
…この先の二人のお話は、また短編で描いていこうと思っています。
お付き合いいただければ、とても嬉しいです。
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