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第9話
さっきの暗い顔は、そういうことやったんやな。アホやなぁ…コイツは。お前の気持ち知ってんのに、そんなことを泊まって言うほど、俺はデリカシーのない男とちゃうぞ。
「あんな…俺は彼女もおらんし、結婚の予定もあらへんわ。今日、来たんは、今やってる仕事でな、お前がスタンドにおる写真を偶然見つけてしもたんや」
俺は、今朝の並木とのくだりを、由夏の件は抜きで話しをした。
「びっくりしたわ、おらんはずのお前が写ってんねんから…まぁ、正直、嬉しかったで。けど、何で行かれへん言うといて、ホンマは来てて、それやのに、行ってへんって言う理由は一体なんやねん。それがどうしても気になってしもてな…それにお前に謝りたかったし…で、来たわけや」
唯斗は、ご飯粒を拾い終わると、目は伏せたままでボソッと言った。
「誰にも邪魔されたくなかったんだよ…」
⁇…邪魔って…誰が邪魔やねん。俺の試合やで。
「健吾の最後のプレーって聞いたら、絶対に行くに決まってる…俺さ、その頃から健吾のことが…その、好き…になってたっていうか、気がつけば、いつも健吾のこと考えてた」
そうなんや…唯斗の気持ちは、告白されるまでわからんかった。唯斗がゲイやって知ってたけど、まさか、俺なんかを、恋愛の好き、になるわけがないって、自信があったからな。だから、あの時の唯斗からの告白は、焦った。
「さっきも言うたけど、俺のこと好きになってくれて、ありがとう。けど、何で、何が邪魔やねん?」
唯斗は、どう言うか考えてるみたいや、で、唐揚げをパクついた。俺もレバニラを食べた。しばらく無言の食事タイム。
「……だってさ、怪我で引退した健吾の気持ちを想うと、試合の後に掛ける言葉なんて思いつかない…それと、グランドでプレーする健吾の全てを俺の胸の中に大切にしまっておきたかった。俺の想いだけで、しまっておきたかったんだ」
「お前の想いだけ…で?」
どういう意味や。
「そう。健吾は絶対、俺、カッコよかったやろ?とか、試合のどこがよかった?とか訊いてくるに決まってるし…もし、健吾が観てほしいと思ってたシーンと違ったところを観てたら、お前、そこと違う、って言うだろ?」
確かに…言うやろな。
「俺はね、俺の目で観て、俺が感じたままの健吾の姿を、誰にも邪魔されずにここにしまっておきたかったんだよ」
唯斗はそう言うて、自分の胸を押さえた。
コイツ…そういうことか。
「要するに、俺が邪魔やったんか…」
「ごめん…何か嫌な言い方になってしまって」
俺は、ビールを飲んだ。
「お前の心の中におる俺と、今、お前の目の前におる俺は、お前にとって一緒の俺か?」
俺も嫌な言い方してもうた。
グランドで熱い汗かきながらプレーしてカッコよう見えた俺と、いつも余計なこと言うて、『チンコ』でお前を傷付けて、放ったらかしにしてた俺は、同一人物やぞ。
唯斗の理想の男と、現実の俺。乖離やこれは。
唯斗は、静かに頷いた。
「俺には一緒の健吾だよ…っていうか、俺は、ここにいる大崎健吾が好きなんだよ」
お前…また、そんなことを堂々と言いやがって。どないしたらええねん。
「おっ…おお、ありがとう」
乖離ちゃうかった。俺は、乾杯、みたいに缶ビールを軽く上げた。
はぁ〜カッコ悪…もっと気の利いたことできんのか、俺は。
「俺ね、正直言うと、すごく迷ったよ。健吾に自分の気持ちを伝えるかどうかをさ…もし、言ったら健吾は引くだろうなってわかってたし」
まぁな…でもチンコは予想してへんかったやろ。
「健吾が東京に来てくれる度、俺、嬉しくってドキドキしてた…でさ、あの試合を観た時に気付いたんだ。あれから健吾は彼女つくらないのかなって…」
由夏の次ってことか。
「スタンドで、大崎君〜頑張ってぇ、とか、カッコいい〜、とか、黄色い声が色んなとこで聞こえてて、健吾って女の子にモテるんだってわかってさ」
「いやそれは、最後の試合やから、皆んなで応援してくれてたんや。その時だけのことやで」
唯斗は、首を横に振っとおるし。
「ううん…健吾はモテるんだよ。だからね、彼女ができる可能性は大いにあるわけだし、で、そのうちに惚気話しとか聞かされるかもしれない…そんなこと考えると、いつか彼女の話しを聞くよりも先に、俺の気持ちを健吾に知ってほしいと思ったんだ…でも、そうするともう会えなくなるのはわかってたよ。気持ちを伝えなかったら、それまでと変わらず楽しく過ごせてたと思う。あの時、淡路島に行こう、って言ってくれただろ?嬉しかった。絶対一緒に行きたいって思った。でも、もしそれまでに健吾の好みの女の人が現れたら?彼女ができたら?…そんなこと考えてたら俺は気持ちを抑えられなかったんだ…ごめん、自己中だね」
俺は、唯斗の半分妄想話しを黙って聞いた。俺は由夏と別れてから彼女が欲しいなんて思ったことなかった。唯斗と会うて遊んで、俺はそれでよかった。
唯斗…自己中なんて言うなよ。
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