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第2話 待っていた2年間

 ようやく妹の楓が耳鼻科専門医の資格を取り、 今月4月から正式に専門医として診療ができるようになった。 家族中、大喜びだ。 特に淳一は、楓の専門医取得を待つために 結婚を2年も延期していたから、喜びもひとしおだろう。 理由は単純で、こっちも兄妹、向こうも兄妹。 挙式を別々にすると何かと大変だから、 「同時にやろう」という父の判断だった。 楓も苗字が変わると医師免許の変更手続きが面倒だし、 専門医の勉強で結婚生活どころではなかった。 だから2年間、みんなで待った。 そのおかげで、父に借りていた マンション購入時の4億のうち、残り2億を全額返済できた。 これで堂々と自分名義になったので、 胸を張って弟の淳一に毎月30万で貸すことができる。 この30万は貴重な積立金になる。 将来、実家の補修費に充てるつもりだ。 俺は自分の都合で立花家の養子になったけれど、 佐久間家の長男であることには変わりない。 だから将来を考えて、実家の庭に小さい家を建てた。 いつかは賃貸にして、その収入を 万が一のときの母の生活費にしてもらおうと思っている。 このことは家を建てる前に父にだけ伝えた。 父はニヤッと笑って、 「ありがたいなあ〜」 とだけ言ってくれた。 これで長男としての役割は、かなり整った気がした。 ここまでできたのは、ひとえにミツワの前会長が 俺を颯太の後継者に決めたうえで、 颯太専任の特別医療顧問として年収5000万を約束してくれたからだ。 病院の院長としての年収が4000万だから、 合わせて9000万になる。 多分、たった一人の颯太を支えるために、 俺が立花家の養子になるだろうと予想していたのだろう。 あれだけの企業家だ、そこまで読んでいたはずだ。 だから佐久間家の長男としての役割を果たせるように、 高給を用意してくれたのだと思う。 おかげで実家には、安心できる将来の道筋ができた。 あとは颯太の健康を守りながら、仲良く暮らしていくだけだ。 「ねえ先生、今日は実家に行くんでしょう?」 「うん、そうだよ。引っ越しの日を詰めないといけないしね。 ちょっと手土産でも買って行こうか?」 「うん、なにが良いの?」 「じゃあ、百貨店に寄って決めよう」 颯太がふと思い出したように言った。 「あ、あとね。会社に忘れ物があるから、用事が終わったら寄ってほしいの」 颯太が忘れ物?珍しい。 「何忘れたの?」 「書きかけの曲のファイル。あれを今夜続きを書きたいの」 「うん、わかった」 すぐSPに予定を連絡した。 「あ、そうだ。ねえねえ、ミツワのお隣の浅田タワーなんだけどさ、 大きなホールができるって案内が来ていたよね?」 「うん、見たよ。大ホールが2000人、 あとは中ホールと小ホールにイベントスペースまであるらしいね」 「そうなんだよ。 だから俺もそこでコンサートをやらせてもらえないかな〜って、思ってるんだよね」 「それはいいね。でも、案外ホールの予定はもう埋まってるんじゃないの?」 「あ!考えなかった。どうしよう?」 「う〜ん、それは広報に連絡を取ってもらうしかないね」 「そうだね。じゃあ出掛けよう」 颯太と手を繋いで、SPの待つ車に向かった。 黒塗りの高級車が2台、マンションの車寄せに停まっている。 いつも思うんだけど、2台って必要か? その疑問を口にすると、 即座に警備会社に論破されるので言わないことにしている。

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