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第28話

最初に沸いたのは、罪悪感ではなかった。 後悔でも、恐怖でもなく、感じたのは確信。 悠がいない部屋は、時計の音がやけに大きく聞こえる。時間は、きちんと進んでいる。それだけで、少し安心する。 絢聖は、ソファに腰を下ろし、背中を預ける。スマートフォンを手に取り、画面を点ける。 着信履歴は、そのまま残っている。 ——秋頼。 消さない。消さなくていい。そう、思ってしまう。 見られた。気づかれた。でも、何も言われなかった。それが、答え。 悠は、勘がいい。淡白なだけで、鈍くはない。だから、再び、何かが動き出したことを感じている。 問い詰めない、責めない、現実に戻る。その選択をさせた。 胸の奥で、小さく何かが鳴る。成功だ。そう、思ってしまった。 でも、罪の意識が、後から追いかけてくる。 ひどい、最低。悠は、何も悪くない。それも、分かっている。でも、潤った感覚が先にきた。それは、一瞬だけれど、甘い。 揺らせた。ちゃんと、揺れた。 僕は、まだ影響を与えられる。独りじゃない。 その事実が、体の奥を満たす。 秋頼は、戻ってきた。消えきれなかった。二人とも、僕から離れられない。その認識が、自然に浮かぶ。 ——これは、偶然じゃない。必然。 そう、思ってしまう。思ってしまった時点で、引き返せない。 夜が、深まる。灯りを落とす。部屋が闇に包まれる。 暗闇は、揺れを肯定する。それを、よく知っている。 悠が帰ってくる音がしない。遅い理由は、分かっている。 距離を取っている。その距離が、淋しさよりも満足を連れてくる。ちゃんと、効いている。 そう、感じてしまう。 ——悠は、現実に留まる。 ——秋頼は、揺れに戻ってくる。 役割は、再びはっきりしだす。ソファに深く沈み込みながら、思う。 ——これは、壊しているんじゃない。 ——成立させている。 選ばれる立場から、選ぶ立場に変わる甘さに依存している自覚はある。それでも、求めてしまう。 成功してしまった夜は、繰り返す、次を呼ぶ。そんな…期待。 秋頼の新たな決意も知らずに、絢聖の心は満たされていった。

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