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第2話
「はっ、ハルくん……お願い、もう許して……」
少し前にネット通販で買ったLEDキャンドルはいい仕事をしてくれる。後ろ手に手錠を掛けられ、床の上で膝立ちになった筑紫さんの、情けない下半身の影がクローゼットに浮かび上がった。パンツ一丁の、あられもない姿。
「ハルくん? 馴れ馴れしく呼ぶんじゃねーよ」
「……っ、あ、ごめんなさいぃっ……!!」
剥き出しの太腿に打ち付けたバラ鞭が、バシンと大きく音を立てる。バランスを崩した筑紫さんの背中を、俺は靴のまま強く蹴りつけた。室内で履くために用意した革靴の、少し尖ったソールの縁が裸の皮膚に赤い跡を作る。
「はぁっ、痛いっ」
「こんな姿、会社の人たちが見たら何ていうかな……ねぇ、晶 お兄ちゃん?」
床に這いつくばった筑紫さんの髪を掴んで、上半身をベッドに押し付けた。そのまま誘導するようにベッドに登らせて、俺は太腿に着けていた玩具の拳銃を手に取ると靴を脱ぐ。
子どもの頃、弟のように可愛がっていた幼馴染から、万引きの容疑で取り調べを受ける――今回のシチュエーションはこれだ。ちょうど警察官のコスプレを新調したばかりだった。恐らく女物であろう衣装は全体的に丈が短く、本来隠し持つはずの拳銃は短パンのせいで丸出しだ。
「ごめんなさい、ハルくん……。会社には言わないで……」
「はぁ? 俺に指図できる立場かよ」
仰向けになった筑紫さんの腹に跨り、拳銃で顎から首筋をなぞる。太い喉仏が大きく上下し、ごくりと唾を飲む音まで聞こえてきた。粒状に浮かんだ汗が流れ、防水シーツに雫が落ちる。
「か、金なら払う。だから……」
「晶お兄ちゃんってほんっとバカだよね。考えたらわかるだろ? はした金なんていらねーよ。俺が欲しいのは……」
どくんと瞳孔が開くのが目に見えるようだった。いつもは落ち着いていて優しい筑紫さんの垂れ目は、今や飢えた獣のそれだ。
「カラダだよ。このくっせぇチンポを差し出せよ」
「そんなっ……ダメだよ、ハルくん。君がそんな汚い言葉……ぅ、ああっ!!」
甲高い悲鳴は、シチュエーション抜きにしても、恥ずかしいほど惨めだった。下着越しに玩具の銃口を押し付けて金玉を潰しながら、俺はペロペロと舌なめずりをしてみせる。
「えらそうな口きくんじゃねーよ」
「ひぃっ!!」
拳銃を捨てて頬を平手で一度だけ打つ。顔を叩くのは3回まで。そういうルールだった。
「大体、チンポおっ勃ててんじゃねーか! 俺に殴られて興奮してるんだ? この変態が!!」
「ごめっ……ごめんなさいっ……」
ベルトを外して短パンを脱ぎ捨てると、俺は尻の所が大きく開いたOバックショーツ姿になった。これもコスプレ衣装と同様に、筑紫さんが用意したものだ。
「変態なら変態らしくしゃぶれよ」
「……ぅぶっ!!」
顔面に跨り、自ら割り開いたアナルを押し当てる。穴の入り口の敏感な粘膜を突くように舌が這い、ぞわぞわとした快感に少しだけ動機が上がった。
責めるのは俺。だけど挿れるのは筑紫さん。筑紫さんは、Mなのにタチだった。
「キモ。晶お兄ちゃん、ガッツきすぎ。そんなにおいちいの?」
「はふっ、……お、おいひいですっ……!!」
「ちゃんと言えよ。弟みたいに可愛がってたガキの生意気アナルおいしいですって!」
「おっ、おっ、弟みたいにィっ……!」
事前に解したアナルには、口に入れても安全なローションを仕込んである。これも筑紫さんが選んだものだ。苦みがなくて、香りのいいもの。
拘束、罵倒、鞭打ち、顔騎、そして挿入。シチュエーションは色々だけど、パターン化したお決まりのソフトSM。もともと俺にSっ気はなく、全て筑紫さんの希望だった。初めて寝た日、恥ずかしそうに打ち明けてくれた筑紫さんの期待に、なぜか応えなくちゃと思ってしまったから。
「ンッ、はぁっ……そろそろチンポしばくか。おい、晶お兄ちゃん。今からお前は俺の肉ディルドな」
聞いているのか、いないのか。筑紫さんは相変わらず鼻息を荒くして舌を動かしている。俺はその顔面に跨りながらコンドームの封を切った。セーフセックスも事前に決めたルールだ。
そういえば、一応セーフワードもある。SMプレイでは、調子に乗りすぎたS役を止めるために、M役のみが使える合言葉を決めておくものらしい。筑紫さんのセーフワードは「ハムスター」だが、今まで一度も言われたことはない。
「うぅ……いけないよ、ハルくん……」
コンドームを着けてやり、ついでにヤりやすいように手錠も外す。手首に後の残らないクッション付きの手錠。この世には色々と便利な物があるようだ。この数ヶ月で学んだことは多い。
「挿れさせてください、だろ? 言えよ、晶お兄ちゃん?」
夜は下の名前で。もちろんこれも筑紫さんの希望だ。昼間は完璧な筑紫さんの、少し歪んだワガママ。それを叶えてやるのは気分がよかった。痛がる様子も、欲しがる様子も、正直かなり興奮する。
ベッドの上を支配するのは、この俺だ。
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