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[サーバル] 5.穏やかな休日
世間はどうやら大型連休。
とはいえ、祝日のほうが都合がつきやすい相談者も多く、変わらず一日置きの奇数の日に相談者が訪ねてくる。
前庭の桜の木には若葉が茂り、ほどよい木陰を作り出していた。
この街は、わざわざ遠方から足を運んで来る人も多く、連休には特に人で溢れかえる。
洸の大好きな動物園も、大混雑でゆっくり散歩はできないだろう。
相談者の来ない本日。
俺はキッチンに音楽を流し、早い時間から夕飯の為にスペアリブを煮込んでいる。
了也は桜の木陰で自転車のメンテナンスをしていて、洸は二階の書庫に籠って本を読んでいる。
互いの気配を感じつつ、干渉せずに過ごす心地よい時間だ。
これで和樹さんもいてくれたらと思うが、東北方面にバクの特性を持った人がいるという噂を、確かめに行っているらしい。
スペアリブとひよこ豆とトマトの煮込みを洸に味見してもらおうと、小皿によそい二階に上がる。
書庫の入口にドアはなく、階段を上がると正面に所狭しと並んだ本棚が見える。
洸は、窓際に置かれた一人用のソファにちょこんと座っていた。
膝の上には開いた本がのっていたけれど、目線は開け放たれた窓の外。
きっと前庭にいる了也を見ているのだろう。
「洸くん、ちょっといい?」
階段を上がってきた俺に気がついていなかったようで、驚いたように振り向いた。
「ちょっと味見してほしくて。邪魔しちゃった?」
彼はブンブンと首をふる。
「うわぁ、美味しそう」
もうそこまで熱くないだろうに、フウフウと冷まして食べる洸が可愛い。
俺は、久しぶりにこの書庫に入った。
この部屋の本棚には、前チームのバクが残していった推理小説が詰まっている。
こんなに数があると捨てるのも面倒くさく放置してあったけれど、残しておいてよかった。
俺がこの家に初めて足を踏み入れた時には、和樹さんの父親がどこかの田舎に引っ越したばかりで、書庫には難しそうな本が綺麗に並んでいた。
和樹さんは躊躇いもせず業者を呼んで全てを引き取らせ、俺はそれに立ち会った。
前チームのバクは、洸みたいに散歩に出掛けることは少なく、ほぼ家の中で日々を過ごしていた。
ディンゴはバクが推理小説が好きだと知ると、古本屋を回って手当たり次第に買い漁ってきた。
アイツは本を読むようなタイプじゃなかったから、きっとタイトルだけ見て適当に買っていたのだろう。
バクは素直に喜んでは、次から次へと読み進めていた。
今の洸と同じように、窓辺のソファに座って……。
本棚を見渡すと、かなり新しそうな本も何冊かあった。
「この本、前からあった?」
「あぁ、それ了也さんが買ってきてくれたんだ」
全く、どのディンゴもバクを甘やかし放題だ……。
—
夕食の時、スペアリブの煮込みを食べながら、洸が今日読んだ本の話をした。
「とても面白かった」と興奮気味に。
薦めたのは了也だったらしく、得意げな顔をして頷いている。
「だろ?洸、絶対気に入ると思ったんだよ。意外な展開だよな。後半急に畳み掛けてきて、そういうことか!って全てが腑に落ちるんだよ」
「うんうん。僕、三分の二までは、ゆっくり休みながら読んでたのに、最後は夢中で読み進めちゃった」
「へー、なんて本?最近の?」
小説には興味なかったけれど、何となく口を挟んだ。
「何年か前のだな。当時は結構話題になってた」
タイトルを聞くと、俺も知っている話だった。
すぐにスマホで検索をかけ、二人に画面を見せる。
「それって、これでしょ?去年アニメになって、俺は配信で見たよ。序盤と後半が特に面白くて、止まらなくなって一気見した」
「うわぁ、主人公こんな感じの絵なんだ!イメージぴったり。でも、小説だから使えるトリックみたいのがあったのに、映像だとどうするんだろう?」
洸が興味を示す。
「洋介、後でどのサイトで配信してるか教えて?洸、今夜一緒に見よう。俺、明日もタウン誌の仕事は休みだし、ゴールデンウィークらしく一気見だな!」
洸が皿を洗ってくれている間に、了也に配信サイトを伝える。
「どこで見るの?」
「俺の部屋。洸の部屋にはパソコン無いしな」
「了也さんの部屋に連れ込むのはダメ、絶対ダメに決まってる」
「連れ込むって、オマエ。俺を何だと思ってるんだよ……」
「リビングのテレビなら、その配信サイトも見れるようになってるから」
了也が不服そうな顔をするから、念を押す。
「リビングのテレビで、見てくださいねっ!」
結局、皆が風呂に入ってからスタートしたので、随分と遅い時間に見始めた。
俺も二話目まで付き合ったけれど、眠くなり一足早く自室へと引き上げた。
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