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SS.大晦日の夜(洸)
大掃除のとき、了也さんが納戸から小さなコタツを発掘してきた。
電源を入れると無事に暖かくなったため、簡易的に毛布を掛けたコタツは、リビングへと運ばれた。
四人で入るには、明らかに狭く、コタツの中は足が大渋滞している。
「了也さん、遠慮とかないの?足、邪魔なんだけど」
「悪いな、洋介。俺の足が長いばっかりに」
向かい合うように座る二人が揉めていたって、僕はこの距離感がうれしく、幸せな気持ちに満ちている。
いつも「タイタニック」ばかり映しているテレビも、今日は国民的な歌合戦がついていた。
番組が終わる頃、洋介さんが温かい年越し蕎麦を作って、4つの丼ぶりをコタツへ運んできてくれる。
「一年間、本当にお疲れ様でした。無事に年を越せそうでホッとしています。来年もどうぞよろしくお願いします。洋介、最後の最後までこうして蕎麦を作ってくれてありがとう。では、いただきます」
「いただきます」
和樹さんが挨拶をし、僕らはコタツで蕎麦をするる。
一年前、この家に連れてきてもらった日。
名古屋駅のホームで洋介さんに、きしめんを御馳走してもらった。
あのとき、僕はまだ気分も優れず、不安しかなくて……。
きしめんは確かに美味しかったけれど、味わえてはいなかった。
今はちゃんと、この蕎麦の美味しさが分かる。
蕎麦の風味も、出汁の香りも、小葱のアクセントも、のっている大きな海老天の味も。
まさかこうして、穏やかに過ごせる年末年始が自分に訪れるなんて、考えてもみなかった。
一年前の、二段ベッドの下段で丸くなっている僕に教えてあげたい。
「大丈夫だよ」って、手を握って背中をさすってあげたい。
「洸、どうした?」
「え?洸くん」
「大丈夫ですか?どこか痛いですか?」
蕎麦を食べながら、ポタポタと涙がこぼれ落ちてしまった。
僕は慌てて、手のひらでそれをぬぐう。
「お蕎麦が美味しくて、し、幸せだな……、と思って……」
口にできたのはそれだけだったけれど、一年間を共に過ごしたチームの皆には、僕の思いが全て伝わったようだ。
色々あった一年間だったけれど、この吉祥寺の家に連れて来てもらって、本当に本当によかった。
居場所を与えてくれた人たちに、感謝しかない。
「洸、ほら、俺の海老天を半分やるから。な、もう泣くな」
「うわ、ケチ。一本あげればいいのに」
「俺だって食いたいだろ、海老」
洋介さんと了也さんのやり取りを聞いていたら、涙がこぼれ落ちながらも、僕は笑顔を取り戻す。
了也さんはそんな僕の顔を見て、くしゃっと目を細め微笑んでくれる。
「本当に色々あったけれど、俺にとっても、いい一年だった。間違いない」
感情を込め、そう呟いてくれた。
「さぁ、カウントダウンですよ」
和樹さんがテレビのボリュームを上げる。
「5、4、3、2、1……」
「あけまして、おめでとう」
「おめでとう!」
「おめでとうございます」
「皆、明けましておめでとうございます。今年も、草上カウンセリング・吉祥寺チーム、どうぞよろしくお願いします。昨年以上に、よい一年にしましょう」
「はい」
コタツの上に置いておいたスマホが震え、メッセージの着信を知らせる。
「秋良くんからだ!」
『あけおめ!ことよろ!1月2日にディンゴと新年の挨拶に行くからね!』
すぐに返信をしようと手に取ると、もう一通メッセージが届いた。
『洸、明けましておめでとう。よい一年になりますように。離れていても洸の幸せを願っています。皆さんによろしく』
兄からのメッセージに、僕はまた鼻を啜った。
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