66 / 67

[ディンゴ] 17.身体で情愛を伝える(完)

急にシンと静まり返ったリビングのソファから、そっと洸を抱き上げる。 洸の部屋は、洋介がエアコンを入れておいてくれたようで暖かい。 「洸……。お疲れ様」 髪を撫でると、閉じていた眼を開けてくれた。 「大成功、だったね」 「あぁ、完璧だ。もうあの彼氏に付きまとわれることもないだろう」 「よかった……お役に立てたね」 洸が嬉しそうなのが、何より嬉しかった。 「ねぇ、そこの引き出し開けてみて」 洸に言われるままにチェストの取っ手を引っ張ると、中には小さな木彫りのディンゴ人形が入っていた。 「たまたま雑貨屋さんで見つけたから。お誕生日おめでとう、了也さん」 「嬉しいよ……とても。ありがとな」 手のひらにすっぽり収まるサイズのディンゴ人形を、愛おしく眺める。   「ねぇ」「なぁ」  声が重なる。 「何?」 「洸は何を言おうとした?」 「……あのね、今日は、セックスをしてほしいなって……。大仕事したし……了也さんの誕生日だし……。了也さんは何て言おうとしたの?」 「いや、あのさ。洸は今まで、忘年会というものに参加したことがないだろうと思って。急いで出して、皆の処に行こうかって……」 二人の間にしばし沈黙が降りる。 「洸はさ、怖くないのか?またいつか無になるかもしれないことが」 「怖くないよ。僕は大丈夫」 身体が重く怠いだろうにゆっくりと手を伸ばし、俺の頬を触ってくれる。 指先から温かい熱が伝わってきた。 「どうして、どうしてそんなに強くなれた?」 「元々僕は強いよ。だって中学生の時からずっと具合が悪くて、二十才になるまで理由もわからずただ耐えていたんだもの」 「そうか、そうだな。いや、けれど……」 「僕はもう想いを口にはしないよ。ちゃんと我慢する。もしもまた無にしてしまったとしても、次も耐えてみせる。それに草上さんが、二度目の愛は無にならないかもって希望をくれたし」 「その希望は、確かなことではない」 「分かってる。ねぇ、了也さんはもう無理?繰り返したくない?僕では……ダメ?」 バクの仕事後で辛い洸に、こんなことを言わせている自分を情けなく思った。 それでも踏み止まる弱さが、自分にはある。 「この前の朝、和樹さんの部屋に呼ばれた時、僕はちゃんと言ったよ。ディンゴが了也さんじゃなくなるなら、兄の処に帰りたいですって」 思いもよらない話を聞かされ、洸の覚悟を知る。 不安は霧散してゆき、ベッドでぐったりしてる彼を抱きすくめた。 パーティ仕様で作務衣ではない洸の洋服を、全て脱がせる。 そして自分が身に着けている衣類も、乱暴に脱ぎ捨てた。 「洸、心配させて悪かった」 そう言って彼の指を、俺の形変えた股間へと導く。 身体の変化で情愛を伝える為に。 「俺も、洸とセックスしたいよ。今すぐに。でもまずは一度出して少し寝ないとな」 「うん、お願い」 「あのさ。俺もう我慢できないから、一緒にしていいか?」 向かい合って横になり、二人のものを重ね合わせ、包み込むように握った。 互いの薄い皮膚が触れ合って、ドクドクと脈を感じる。 洸の息も「はぁはぁ」と乱れ興奮しているのが分かった。 握りしめた手を、上下にゆっくり動かす。 「りょ、了也さん」 その熱の籠った声を塞ぐかのように、唇を重ねる。 下唇を食み、舌を絡ませ、口内を舐めた。 洸は息継ぎをするように「あっ、あっ」と甘い呻きを漏らし続ける。 重ね合わせたものからは、どちらがこぼしたのか分からない雫が溢れ、卑猥な音を立てている。 洸の腕が俺の背中に周り、強く抱きしめてきた。 「あっ、もう、もう、出ちゃう、あっ、りょ、了也さん」 「洸、洸、いい、あっ、一緒に、一緒に、出そう」 顔を上気させて、口を半開きにし、少しのけ反るように顎を上げるから、首筋が酷く艶っぽい。 「ぁんっ」「うっ」 洸の爪が俺の背中に喰い込み、二人分の白濁が互いの腹に飛び散った。 出したばかりのトロンとした顔が可愛らしく、触れるだけのキスで何度も唇を啄む。 疲れていたのだろう。 スヤっと眠りに入った洸の身体を、ウェットティッシュで拭いてやった。 リモコンでエアコンの温度を調整し、再びベッドに入る。 裸のまま眠る洸を、同じく裸の俺が抱きしめる。 肌と肌を合わせながら、腕の中に収まる寝顔を見て、ようやく覚悟を決めた。 愛してるとか好きだとか、そんな言葉はもう必要ない。 ただただ、洸に少しでも幸せでいてほしい。 嬉しい、楽しい、美味しい、陽の感情を一つでも多く感じてもらいたい。 もしも辛いことが起こっても、一日でも早く立ち直ってほしい。 その過程に、他の誰でもなく自分が関わりたい。 可愛い顔を、イヤらしい顔を、ずっと見ていたい。 明日から冬季休暇。 洸が眼を覚ましたら、もういいと根を上げるまで何度も何度も身体を交え、言葉を使わずに想いを伝えたい。 その為には、忘年会に行った面々が吞んだくれて帰宅し「片付けは明日にしよう」と、とっとと二階に上がってくれるといい。 [完]

ともだちにシェアしよう!