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第9話 解剖室で見た!

結局、今、解剖室のドアの前にいる。 「グループ学習だから、仲間から声を掛けられるし大丈夫だよ」 そう言われ、今日の学習内容のレクチャーも受けた。 グループのメンバーの特徴も聞いたし、写真も見せてもらった。 それはなんとか覚えた。 ……でも、ドアが開けられない。 「あれ? 海斗、どうしたんだよ。遅れるぞ。早く入ろうぜ」 背中を押され、そのまま一緒に入った。 ずらっとステンレスの台が奥まで並んでいる。 教授らしき人物が黒板の前に立った。 「さあ、いつものように始めますよ。準備はいいかな? はい、開始!」 ステンレス台の上にかかっていた白いビニールシートが、一斉にはがされた。 その瞬間、ふっと寒気と“気配”を感じて、教室内を見回した。 え?……見た! 台に横たわっているはずの人たちが、 全員立って、自分の身体を見守っていた。 そして俺が目を向けたことで、 一斉に俺を見た!! 「はっ、はっ、な、なんで……?」 ーーーーーー……そこからの記憶はない。 気がついたら、廊下のベンチに寝かされていた。 海斗がそばにいて、俺の身体をさすっていた。 外の廊下で控えてたんだな。 「とおる、大丈夫か? まだ始まってなかっただろ? どうしたんだよ?」 その声を聞いた瞬間、涙があふれて止まらなくなった。 「だってさ……遺体のそばに魂が皆立って見守ってたんだよ。 俺、目が合っちゃって……本人のそばで解剖なんて出来ねえよ……」 海斗は驚いた顔で、何とも言えない表情になった。 涙と嗚咽が止まらない。 なんで泣くんだろう? なんでこんなに悲しいんだろう? 自分でもよく分からなかった。 理由は……おばさんに聞いてみないと分からない。 あの検体だって、本人の希望でここにいるはずだ。 だから本望のはずなのに、 見てしまったものは脳から消せない。 「ごめんな。こんな思いさせてさ…… 分かったからさ。ちょっと実家に帰るから、一緒に来てくれるか?」 海斗がそう言ってくれて、 一緒に海斗の実家──、一条総合病院へ向かった。 そこは東京郊外にある、すごく大きな病院だった。 ノックして院長室に入る。 「うん、どうした? 今日は大学だろう? なんかあったのか?」 海斗の父親は、まさに“シブオジ”。 医者らしい威厳があった。 「あのさ、すごく困ったことがあってさ」 「……え?」 親父さんは不思議そうな顔をした。 そりゃそうだ。 息子が喋らず、とおるの身体が喋ってるんだから。 「父さん、見ての通り、こいつと身体の中身が入れ替わっちゃったんだよ。 なんでか分からないんだけどさ」 親父さんは俺と海斗の身体を交互に眺め、そばに来た。 じっくりと俺の顔を見て、 そして海斗の顔も見ている。 ……いくら見ても分かるわけないのに。 「それでね、彼は文学部なんだよ。 元の身体に戻るまで、とりあえず頼んで1年休学してくれてるんだ。 でもさ、今日、解剖の授業に行ってもらったんだけど…… 遺体の魂たちが検体のそばに立ってたんだって。 全部見えるらしいんだよ。 それで驚いて失神しちゃったんだよ」 院長は黙って聞いていた。

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