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第1話

 悠也は人気者だ。  普段は私の研究室にいるところしか目にしないので気付かないが、たまに一緒に大学の構内を歩くと、たいてい誰かに声をかけられる。 「悠也! 久しぶりー。元気か? また飲み行こうぜ」 「おう、時間できたら連絡するわ」 「悠也せんぱーい。どこ行ってんですか? ヒマ?」 「ヒマじゃないんだ、ごめん。またね」  声をかけてくるのはほぼ私の知らない顔だ。つまりは他学部・他学科の学生たち。  彼らは一様に、悠也の前を歩いている私の存在などまるで認識せず、実に楽しそうに嬉しそうに悠也に話しかける。  そして悠也は、私に対するものとは違う社交的な表情と口調でさらりと答えながら、足早に私との距離を詰める。それで学生たちも、ようやく私に気づく。気まずそうな視線や浅い会釈を、黙殺するのももう慣れた。  本人は「無駄に顔が広いだけっすよ」と言うが、単純にそれだけとは言えないことも、私はもう知っている。  図書館で待ち合わせをしていたある日のこと。エントランスで佇む悠也が遠目に見えたので足を速めようとして、しかし私は止まった。悠也に声をかける小柄な女性が見えたからだ。  距離があったので会話は聞こえなかった。ただ、小さな紙袋を差し出しているのが見えた。持ち手にリボンがあしらわれた紙袋。不調法な私でもわかる。プレゼントだ。  二言三言、何か言葉を交わした後、悠也はそれを受け取った。表情はわからない。  女性が手を振って去り、悠也が流れるように自然に紙袋を鞄に仕舞う。  そこまで見届けてから、私は歩みを再開した。こんなことももう慣れた。見なかったことにするのも――その時に小さく胸の奥が軋むのも。

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