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第2話
駅前のビジネスホテルに荷物を置いてタクシーで工場に向う。
担当の有薗さんがゲートに迎えに来てくれた。
「山崎さん、今日はどうも、遠いとこからごくろうさんでした。ゆくさおじゃったもんした !」
「いえいえ…お世話になります。納入ぶりですね、皆さんお元気ですか?」
「あー、それがね、部長の今里が他部署に行きましてね、その後…」
うんうん、とうなずきながら、そういえばこの人は話が止まらないんだったと思い出す。
頃良いところで「早速ですが、明日のために機械を見せてもらってもいいですか?」と、ちょっと強引に切り上げた。
較正を終えて調整に入る。パラメータを弄っては機械を動かして、反応を見る。いい具合に合ってきたら、少しオーバー目に動かしてから少しずつ戻していい所を見つける。
ぴったりはまると本気で気持ちよくなる。
同僚のセールス・エンジニアの中には「バシッと決まるとエクスタシーだよ!」と言ってるやつもいるが、それは多分カタルシスだよ、と囁いてやりたい。
ふと気づくと横に若いエンジニアが立って見ていた。
「すごいですね、手際が良くって惚れそうです」
青年はくっきりした二重の甘い顔でにかっと笑って言った。
惚れてくれても構わない、遠距離恋愛は無理だけどな、と心の中でつぶやいた。
人なっこいキラキラした表情がいい。成人してる…よね?なんでそんな伸び伸びした表情ができるのか教えてもらいたいものだ。
午後6時を過ぎたらわらわら人が集まってきて、あっという間に晩御飯に連れ出された。
九州最南端の県とはいえ冬は冷え込むし、風が吹くと耳が痛い。街を行く人もがっちり着ぶくれて歩いている。
連れていかれた居酒屋のテーブルには、鳥刺しに焼酎、刺身にさつま揚げが所狭しと並べられている。有薗さんがよく行く店らしく、誰彼問わず入り乱れて話しかけてくれる。
「山崎さん、結婚は?」
「はぁ、若いときして1年で離婚しました」から始まり…
「離婚したの?かっこいいから浮気でもしたんじゃないの?」、「いま彼女いないの?うちの山城さん紹介しようか?」(山城って誰?)、「よかにせ だからね、モテるでしょ。好みはどんなん?」まで延々と質問されて、最後は「あら~厄年なの?こっちにいる間におごじょ に厄を落として貰いなさい」と来た。
後は下ネタ大会で盛り上がったのであった。
みんな気を使って分かりやすく話してくれていた…と思う。時々謎の単語が入っていたけれど。
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