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第3話

焼酎をたっぷり飲まされて、思ったより早く宴会はお開きになった。賑やかすぎて何を話したのか半分も覚えてない。 「よかばんねー(良い晩でした)」「よかばんねー」と知らない人と挨拶をしてホテルに帰る途中、煌々と灯りのついたガラス張りのマッサージ屋があった。 飛行機に乗ったせいで背中が凝っているからほぐしてもらおうかと思ったけど、もう閉店時間を過ぎているので、と断られてしまった。 -------- そうだ、それでフロントに聞いたら「店よりもうちの出張マッサージの方が評判いいですよ」って言われたんだっけ。 まさか若い男の子が来るとは思ってなかったので、ちょっと驚いた。 しかも柔和な笑顔の好青年とは!この県はなにか魔法でもかかってるんじゃないのか、ってくらいみんないい顔をしている。 「山崎さん、ですよね?あの…マッサージをご依頼いただいた坂元ですが、入ってよかったですか?」 「ああ!すいません。どうぞどうぞ」 待っている間にうたた寝をしていたせいでベッドが乱れている。 青年は、スラリとした腕で手際よくシーツを引っ張って整えながら話しかけてきた。 「今日は寒かったでしょう。鹿児島は初めてでしたか?」 「2回目。でも冬に来るのは初めてで、南国なのにすごく寒くて驚いたよ」 「そうなんですよ、年に一度くらいは雪が積もることもあるんですよ」 「鹿児島で雪かぁ」 「桜島に積雪するときれいですよ、こっちにいる間に見えるといいですね。さて、申し訳ありませんが前払いでお願いします」 青年はしがらみのない世界から来た旅人のような微笑みを浮かべながら、さらっとお金を要求する。 用意しておいたお金を渡すと、 「ありがとうございました。ではうつ伏せからはじめましょうか?」 とベッドに(いざな)われた。 坂元青年は僕の脚にタオルをかけてゆっくりと手を動かしてゆく。 こんな風に人の手で慰撫されるのは久しぶりだ。 掌と指がタオル越しに体をゆっくりと走ってゆく。水の流れを辿るみたいに。 ごく弱い力で、まさに触れるだけのようなマッサージで、最初は正直物足りないと思っていた。しかし暫くすると触れられたところから緊張が解けてゆくのが分かる。 魔法使い、みたいだな。   小さい音でタイマーが時間を知らせる。気持ちよさの中でまたうとうとしていたところに、そっと肩に手を添えられて優しい声が聞こえた 「山崎さん、終わりましたよ。お体を冷やさないようにして休んでくださいね」 「…ああ、ありがとう」 声が掠れる。覚めたくないなぁ。 久しぶりに平穏な気持ちなり、そのままもぞもぞと布団に潜り込んで朝までぐっすりと眠った。

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