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第4話

夢の内容は覚えてなかったけど、下半身の不快な感触で目が覚めた。 「… … …やっちまった…」 この年でうっかり夢精なんて、ありえないだろ。 洗面台で下着を濯ぎながら呆然とする。空しい…しかも臭い。 まぁ確かに、昨晩の坂元さんのソフトタッチなマッサージは気持ちよかった。あんなふうに人に触れられたのは久しぶりだった。 寝落ち寸前に、自分の体を大切に扱われるってこんなに気持ちのいいものなんだって、思ったんだ。 ついでに、最近自分でするのもご無沙汰だったと思い出す。 人肌恋しい季節だ…、いやいやいや出張中だし。 ええいっ!と気合を入れてパンツを絞り、バスルームの中に干す。 今日は講習会の日だ。 ---- 現場に早めについて準備を始める。機械と材料を確認し、試し加工をしてみる。機械さえしっかり調整できていれば実演は簡単だ。あらかじめ作っておいたプログラムを走らせれば想定通りのものが出来てくる。 不確定要素の多い(俺の)人生とは違う。 休憩中に昨日の青年が話しかけてきた。今はまっているというバイクの写真や、ツーリングで行った山の紅葉の写真を見せてくれた。頭を寄せ合ってスマホの画面に見入る。 ツンツンとした髪が頬に当たってくすぐったい。 坂元くんと同じくらいの歳だろうか?若い人特有の匂いがする。 写真をスライドしていると、若い女の子が写っていた。 彼女?と聞くと、嫁です、と返された。別の写真には、その子が赤ちゃんを抱いて写っていた。 20代前半かと思ってたのにまじか!? 「お子さん?」 「1歳なんですけど、だっこするとあったかくって柔らかくって…。もー、肌もふわふわでいい匂いなんですよ…」 しっかりと筋肉のついた腕で赤ちゃんを抱く真似をしながら、相好をくずす。きっとその重さや感触を思い出しているに違いない。くしゃ、っとした笑顔がやっぱりまぶしかった。 「山崎さん、今日は定食屋に行きましょう!」 今日もやっぱり定時のチャイムと同時にわらわらと人が集まってきて連れ出された。 勝手に注文された後に大きなぶりカマが3つ大皿に乗ってきた。みんなで取り分けるのかと思ったら一人分と言われてびびる。予想を裏切る豪快さと太っ腹だ。 ダメ押しで「まかないが余っておったがよ、サービス!」と店主がカウンター越しに腕を伸ばして豚の角煮を隙間にねじ込んできた。その躊躇のない優しさが染み入る。 旅人を放っておけない文化の温かみを噛みしめる独身男であった…、 などと独り()ちたくなるような帰り道、周りを見ると予備校帰りなのか制服を着た高校生たちが手を繋いで歩いていた。 自然の営みに身を任せて何の疑いもなく互いの手を取り、談笑している。湿っぽいエロスを感じさせない高校生カップルの尊さにくらくらする。 20数年前は、俺もこんな風だったのかな。 今の自分には降り積もった澱のような汚れを感じる。 まぁしかし、自分から汚れを取り去ったら随分つまらない人間になってしまうだろう。

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