1 / 2

第1話

僕は腐男子――佐々木千隼。 元々オタクだった僕は、高校で女子ばかりの漫画部に入部した。 先輩も後輩も、揃いも揃って腐女子。部室にはありとあらゆるBL本があり、自分で描いている人までいる。 そんな環境にいれば、自然とハマるのも時間の問題だった。 最初は「少女漫画の男版」くらいの感覚で普通に読めた。 けれど次第に物足りなくなり、絡みありの濃厚なハードBLへと手を伸ばすようになった。 気付けば僕は、立派な腐男子になっていた。 それなりに、満喫していた――はずだった。 ⸻ 本屋でBLの新刊を買った帰りのことだ。 ルンルン気分で本を手にしていた僕に、不意に声がかかった。 「あれ? 佐々木? お前……なにしてんだよ?」 振り返ると、そこにいたのは―― 中学時代、僕をオタクだと見下し、虐めていたヤンキー。 御影詩季だった。 髪を染めている。 怖い。 「つかお前! その本!! 男同士のヤツじゃね!? キモ! 普通にキモいぜ!! そっちの気があるのかよお前!!」 何言ってんだこいつ。 僕は傍観者だ。あくまで観客。 現実でそっちの気なんてない。 僕自身は――ない。 「まぁいいや。そのキモ趣味……黙っててやるからよ?」 ニヤリと笑いながら、御影は言った。 「ちょっと500円貸してくんね? 今日、少年ステップの発売日なんだわ。でも金落としちまってさ」 ……こいつに中学の頃、金を貸して返ってきたことは一度もない。 でも、逆らうのは怖かった。 僕は財布から500円を取り出し、御影に渡した。 一刻も早く、この場から離れたかった。 「おおっ! さんきー!! ベリマッチョ!!」 御影は少年ステップを手に、何事もなかったかのようにレジへ向かう。 僕はその隙に店を出た。 外はポツポツと雨が降り始めていた。 やばい、降ってきた。 そう思い、走り出そうとした瞬間―― 「マジかよ! 雨!? ざけんなよな! ……おっ! ここに傘あるじゃん!」 御影の声。 それはどう見ても、他人の傘だった。 しかし御影は躊躇なく手に取り、開いた。 「……あんだよ? 佐々木」 その背後に、おばさんが立っていた。 「ちょっとあんた! その傘あたしの――」 「やべえ! 逃げるぞ!!」 「え!?」 なんで僕まで!? 御影に引っ張られるまま、僕は走った。 角を曲がった、その瞬間。 車が、猛スピードで飛び出してきた。 避ける間もなかった。 僕と御影は、宙を舞った。 時間が、スローモーションのように伸びる。 地面が近づく。 そして―― 衝撃。 何も、感じなくなった。

ともだちにシェアしよう!