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第1話
僕は腐男子――佐々木千隼。
元々オタクだった僕は、高校で女子ばかりの漫画部に入部した。
先輩も後輩も、揃いも揃って腐女子。部室にはありとあらゆるBL本があり、自分で描いている人までいる。
そんな環境にいれば、自然とハマるのも時間の問題だった。
最初は「少女漫画の男版」くらいの感覚で普通に読めた。
けれど次第に物足りなくなり、絡みありの濃厚なハードBLへと手を伸ばすようになった。
気付けば僕は、立派な腐男子になっていた。
それなりに、満喫していた――はずだった。
⸻
本屋でBLの新刊を買った帰りのことだ。
ルンルン気分で本を手にしていた僕に、不意に声がかかった。
「あれ? 佐々木? お前……なにしてんだよ?」
振り返ると、そこにいたのは――
中学時代、僕をオタクだと見下し、虐めていたヤンキー。
御影詩季だった。
髪を染めている。
怖い。
「つかお前! その本!! 男同士のヤツじゃね!? キモ! 普通にキモいぜ!! そっちの気があるのかよお前!!」
何言ってんだこいつ。
僕は傍観者だ。あくまで観客。
現実でそっちの気なんてない。
僕自身は――ない。
「まぁいいや。そのキモ趣味……黙っててやるからよ?」
ニヤリと笑いながら、御影は言った。
「ちょっと500円貸してくんね? 今日、少年ステップの発売日なんだわ。でも金落としちまってさ」
……こいつに中学の頃、金を貸して返ってきたことは一度もない。
でも、逆らうのは怖かった。
僕は財布から500円を取り出し、御影に渡した。
一刻も早く、この場から離れたかった。
「おおっ! さんきー!! ベリマッチョ!!」
御影は少年ステップを手に、何事もなかったかのようにレジへ向かう。
僕はその隙に店を出た。
外はポツポツと雨が降り始めていた。
やばい、降ってきた。
そう思い、走り出そうとした瞬間――
「マジかよ! 雨!? ざけんなよな! ……おっ! ここに傘あるじゃん!」
御影の声。
それはどう見ても、他人の傘だった。
しかし御影は躊躇なく手に取り、開いた。
「……あんだよ? 佐々木」
その背後に、おばさんが立っていた。
「ちょっとあんた! その傘あたしの――」
「やべえ! 逃げるぞ!!」
「え!?」
なんで僕まで!?
御影に引っ張られるまま、僕は走った。
角を曲がった、その瞬間。
車が、猛スピードで飛び出してきた。
避ける間もなかった。
僕と御影は、宙を舞った。
時間が、スローモーションのように伸びる。
地面が近づく。
そして――
衝撃。
何も、感じなくなった。
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