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第9話 垣間見る、底の優しさ

 気を失った咲夜が目覚めたのは寮のベッドの上だった。少し頭がぼんやりしていて、自分がどこにいるのか分からなかったが、枕や布団から感じる自分の匂いで今の居場所を把握した。  しっかりと掛けられていた布団の下で少しだけ身動きすると、布の擦れる音に反応したのか予想もしない人物が昨夜の視界に入り込む。 「気分はどう?」 「え。冬宮くん……!?」  この部屋まで運んだのがどうやら冬宮であるということと、気遣うようにふわりと頭を撫でたこと。2つの意味で咲夜は目を丸くした。部室での出来事があった直後で、冬宮の手が触れた瞬間にわずかに体が強張ったが、気にする素振りもなく何度か撫でられた。体の強張りに気づいてないはずはないだろうに。  咲夜があまりにも驚くのが不服だったのか冬宮の眉間にシワが寄る。 「俺じゃ不満?一条か月城がよかった?」 「あ、いや……そんなんじゃないけど……」 「で?気分はいいの?悪いの?」 「悪くはない……です……」  すごまれて思わず敬語になる咲夜。  壁に掛けられている時計を盗み見ると、倒れたであろう時間から3時間くらいは経っている。  目が覚めるまでずっといてくれたのだろうか――言葉は短く鋭さもあるのに、なぜかそれを冷たいと感じることはできない自分がそこにはいた。  ゆっくりと体を起こすと冬宮がポツリと話し出した。 「ぶっ倒れたのは予想外」 「へ?」 「あの時俺は能力を使った。でも能力は発動しなくて、代わりに手に衝撃が走っただけだった。……あんたはどうだった?」 「えっと、瞬間的に酷い頭痛がして、すぐ治ったけどそのあと世界が歪んで座ってられなかった……と思う」 「……」  自分の身に起こったことと冬宮に起こったこと。それを照らし合わせて考えた咲夜はある1つの考えに辿り着く。  能力の正体は分からない。けれど冬宮の能力との相性が最悪に悪くて能力を拒絶したのではないか、と。  目が覚めるまで部屋にいたのは、もしかして心配してくれたから?――咲夜はそう思ったが、冬宮に尋ねても素直な答えは返ってこない気がした。目つきや態度がやや悪い印象のある冬宮だが実のところは優しいのかもしれない。  咲夜の言葉を受けてしばらく考え込んでいるような素振りを見せていた冬宮だったが、何かを決意したかのように再び咲夜に向き合った。 「……確信はない。けど、俺はあんたの能力についてある程度見当はついた。知りたい?」 「――。知りたくない。それは俺が自分で気づきたいから」 「そのせいで周りが嘘をつき続けることになるとしても?」 「なら冬宮は俺を真実で刺そうとしてる?」  今度は冬宮が目をわずかに丸くする。このとき、確かに冬宮は咲夜を刺そうとしていたが逆に刺されたような感覚に肌が立つ。  周囲の人間を誤解させて演劇への参加をとりつけた張本人に、少なからず興味が湧いていた冬宮だったが、今この場ではっきりと自覚させられた。 「……気に入った」 「え?」 「俺、事情があって寮生活始めるんだ。空きは1室しか無いって言ってたしたぶんここに来る」 「はい?」 「あと一条と月城に軽く喧嘩売っちゃったから一応この事は俺たちだけの秘密ね?」 「――はいいぃ!?」  大きな声を出したせいか、少しだけ頭がくらっとした咲夜。先ほどまでの真面目な雰囲気を壊す昨夜の動揺っぷりに冬宮は吹き出した。それは今まで見た事のない、年相応の笑顔であった。 「俺はもう帰るよ。お大事に」  ひらりと手を振り、冬宮は部屋を去っていった。  これまでこの部屋に入った人間は最初に案内してくれた悠真以来、誰もいなかった。それ故に咲夜以外の人間がいて、話して、いなくなって、静まり返る空間に少しだけ寂しさを覚えた咲夜であった。

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