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第8話 揃いました、役者たち

 悠真の憶測を呼ぶ放送があった放課後。咲夜の想定通りに渦中の人物が部室を訪れた。 「どういうこと?演劇はやらないって言ったはずだけど」 「そうだね。でも僕も君が入った、とも言ってないんだ」  横目で冬宮の様子を伺う。あきらかに怒っているという様子ではなく、むしろ少しだけ疲れているような雰囲気だ。どうやらあの放送の後にクラスの人たちにいろいろ言い寄られたのだろう。  食堂の様子を瑠華に聞いていた咲夜だったので、容易に想像ができた。  悠真の発言にいぶかしむ素振りを冬宮はみせる。先ほどの言葉といい、どうやら放送を直接聞いていたわけではなさそうだ。 「俺と一条君がいるって事は……って言われたらさすがに誤解する人もいるんじゃない?」 「――。勘違い……」  冬宮は大きく息を吐き、頭を押さえる。どうやら今の瑠華の発言で事の経緯を察したようだ。 「嘘は言ってないよ」 「逆に最悪でしょ……これはお前の案なの?一条」 「あぁそれは……」  悠真が視線を隣に移す。悠真しか見ていなかって冬宮が、それに誘導されるように咲夜を見やる。鋭い眼光に一瞬体がこわばるもフッと息をつく。 「俺だよ。瑠華の話を聞いて思いついた」 「ふぅん?そうなんだ」 「あの日、確かに断られたけど……理由までは聞いてなかったから、諦められなかった」 「理由、か」  わずかに冬宮の口角が上がる。その光景に咲夜は瞬きが速くなる。けれど見えたのは表情の読めない無。笑ったように見えたのは錯覚なのだろうか――そう思うほど刹那的な出来事だった。 「いいよ。参加してあげる――理由なら、あるから」 「!」 「やったじゃん咲夜!大手柄!」 「……これ、夢とかドッキリとかじゃないよね?」 「大げさ。仕方ないからこれが現実だって教えてやるよ」  スッと咲夜の頭に冬宮の手が乗る。これから頭を撫でられるのではないかという構図に、頬をつねられると思っていた咲夜は乗せられた手に戸惑う。それと同時に激しい頭痛が襲ってきた。今までも頭痛を感じることはあったがここまで強烈な痛みは初めてだった。 「え……?」  激しい痛みは冬宮が手を頭から話すのと同時に一瞬にして消える。まるで、何かを拒絶するような痛みに目を白黒させた。何が起こったのか咲夜自身も分からないでいた。  そのあとに訪れたのは世界が歪むようなめまい。バランスを保っていられなくなった咲夜は椅子から転げ落ちたのであった。 「「咲夜!?」」 「――」  瑠華はとっさに倒れた咲夜に近づき、悠真は冬宮を睨みつけた。そんな2人はお構いなしに、冬宮は先ほどまで咲夜の頭に触れていた手を眺める。 「気を失ってるみたい」 「これはどういうことかな、冬宮」 「ねぇ、黒崎の能力がなんだか知ってる?」 「――は。能力だって?」  普段からは想像できない低い声を瑠華は放つ。そして衝動に駆られて冬宮の胸倉を掴みそうになった瑠華を、悠真は手首を掴んで制す。冷静さが少し戻ったのか、込められていた腕の力を抜いて瑠華は苦虫を嚙み潰す。  緊迫した部室の空気をものともせずに、咲夜の体から瑠華が離れたその隙をついて冬宮は咲夜を抱きかかえる。 「仮に知っていたとしても、言う気はないよ」 「ふぅん。でも何も知りませんって感じでもなさそうだけど――日常生活でもお芝居してんだ?」 「!」 「俺は好きも嫌いもないからさ。仲良くやろうね。学園祭が終わるまでは」  普段からは想像できないほどの柔らかな微笑みを残して冬宮は部室を後にした。気を失った咲夜を抱えて。 「このまま行かせていいの!?」 「咲夜を丁寧に抱えていたから乱暴はしないと思うよ」 「最高の皮肉を言われた気がするんだけど」 「言ってくれるよね」  演劇部に参加する理由――てっきり今回の作戦を考えた咲夜に興味をもったからだと踏んでいた悠真だったが、予想は大きく外れていた。冬宮の狙いは十中八九咲夜の能力。今まで大切にしまい込んでいた宝物をかっさらわれた感覚に眉間のしわが深くなっていた。

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