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昼の待夜駅

 碧翠堂主人の青年は、こう見えてなかなかの目利きだ。なぜなら小さな頃から、お屋敷で、たくさんの宝物にかこまれて育ったからだ。  だから、弱冠二十歳だけれど、こうして店をかまえている。商品は、大きな船で、外国をまわって集めてきたものばかりだ。  なのに、ちっとも売れないのは、人々が、夢を忘れたからだと若き碧翠堂主人は思う。  そして、待夜駅の看板を見あげる。  なんてロマンチックな名前なんだろう。  骨董屋仲間は、碧翠堂主人のことを碧翠堂さんと屋号で呼ぶ。  碧翠堂は、待夜駅の開いているときを知らない。  なぜなら、碧翠堂は、飼っている猫に餌を与えるために夕暮れどきになると、早々に店を閉めてしまうからだった。  碧翠堂はお酒を飲めないし、待夜駅がどんな店か知らない。  きっと、カウンターには、美少年がいて、南極の氷をかき混ぜると、グラスの透明なクリスタルの光に澄んだ音を立てるのだろう。  待夜駅の看板は、昼の間、階段の入り口にしまわれてあって、階段の内側の白い漆喰の壁は昼の光の中では、くすんで見えた。静かに眠っている待夜駅は愛おしく、夕暮れの光の中で、それが次第に魅惑的な姿に変わっていくのを、うっとりと眺めながら、碧翠堂は、帰宅の途につくのだった。

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