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終結
五十年ほど経ったある日、碧翠堂は、ひっそりと屋根裏部屋で息をひきとった。
天窓からは、ミルキーウェイが見えた。鏡に映った乳の川のように。
黒猫が、碧翠堂の胸の上で、夢魔のように、ニャーと鳴いた。
碧翠堂の魂が、あくがれでたとき、碧翠堂は、すぐに、待夜駅を探そうと思った。
無明の境では、止むことのない雨が降っていた。タクシーに乗って行き先を告げると、タクシーは、路地の入り口に止まった。
碧翠堂は、タクシーを降りて、待夜駅の階段を降りた。
待夜駅がいた。彼は、あまりにも若く、子どもにしか見えなかった。
ああ彼は、ずっと昔に死んでいたのだ、と碧翠堂は、初めて認めた。
「君を、愛していた」
碧翠堂老人は、待夜駅少年を抱きしめて泣いた。
「もっと素直に、そう言えたらよかった」
待夜駅は、碧翠堂の涙の中で、ゆっくりと少年から青年になり、大人の男になった。
「あなたの年を、僕がもらったのです」
待夜駅は言った。
同じ年頃になった二人は、にっこりと微笑みあい満足し、手をつないで天国にのぼった。
完
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