42 / 79

番外編② 現実ではじめまして・後編④

 3連休というのはいつだって心躍るものだが、今日の俺は今までにないくらい浮かれている。残業を終え体は疲れているが、心は羽のように軽い。いつもよりも重い荷物を抱えながら電車に乗り込む。向かう先は自分の家――ではなく、恋人が待つマンション。  空いている座席に座り、今電車に乗った、とメッセージを送る。少しして、スマホが振動した。 『迎えに行くね。今日の夕飯は唐揚げだよ』  やったー、というスタンプを送り、俺はニヤけそうになる顔を引き締める。唐揚げは元々好物だが、恋人である季春が作るものは特に美味しい。  最近では俺が料理をすることもあるが、まだまだ彼のレベルにはほど遠い。とりあえず食えればいいと思いながら作っていた俺と、昔から料理が趣味だという彼とでは差があるのは当たり前なんだけど。  電車に揺られながら、俺は自分の荷物に目を向けた。膝に乗せている鞄には、いつも休みの前に季春の家に向かうためのお泊まりセットが入っている。今日はそれに加え、VR機器も一緒に入れてあるのだ。  季春と過ごすようになってからすっかりプレイヤーとして復帰した俺は、今ではマロンズやミメンチも含め普通にゲームを楽しむようになっていた。今でもメインはシュンとのセックスだが、たまにパーティーを組んでクエストに挑戦している。  パーティーゲームくらいしか遊んだことがなかった季春も、結構冒険を楽しみ始めていた。元々なにかを作るのが好きだった彼は、錬金術師のジョブに就いて魔法薬やアイテムを作っている。はじめは2人で住む家を買うための資金集めや、ポーション代の節約が目的だった。けれどエロ目的の薬やアイテムが作れることを知ってからは、俺と使うために積極的に楽しんでいるようだ。  ちなみに、NPC姦プレイも月に数回やっている。俺としてはもっと増やしたかったが、俺のアバター以外とはキスしたくないと季春が言ったからこの頻度になった。たしかに俺としても、キスもアナル舐めもないのは物足りなくなってきたからちょうどいいのかもしれない。  さてそんな中、この連休にゲーム内でイベントがある。せっかくならと4人で参加しようということになったため、俺は今朝いつものお泊まりセットとVR機器を持って会社に向かったのだった。自分の家以外であのゲームをするのは初めてだからなんだかそわそわしてしまう。  イベント参加だけだから大丈夫だとは思うが、もしそのままゲーム内でセックスをしてしまったら。ログアウト後の下半身を季春に見られてしまうかもしれないと想像して頬が熱くなっていく。  ちょうど電車が目的地の駅に着いたため、ゆっくりとホームを歩きながら熱を冷ます。だけど、駅を出た瞬間イケメンすぎる男が俺に向かって歩いてきて、また頬が熱を持ってしまった。 「やなぎ、お疲れ様」 「あ、ああ。季春もお疲れ様」 「んー、えっちな顔してるけど……まさか、電車で誰かに触らせてないよね?」 「はあっ……!?」  俺にだけ聞こえる声で囁かれた言葉に驚いて思った以上に大きい声が出てしまい、俺は慌てて口を塞ぐ。通行人に一瞬だけ見られるが、すぐにみんなそれぞれの目的地に向かって歩いていく。  俺たちも季春の家に向かうために歩き始める。しかしその道中、周りに人がいないこと確認しながら彼は怪訝そうな顔でどうなの、と再び聞いてきた。 「そんなわけないだろ。お前以外そんなことするやつもいないし」 「どうかなあ。やなぎは無意識に男を誘うえっちな身体してるじゃん?」 「そ、れは……俺に言われてもよくわかんねえなあ……」 「ほかの男にお尻すりすりされてもついて行っちゃ駄目だからね? どんなに好みの触り方でも」  好みの触り方ってなんだよ、と返しながら夜道を歩いて行く。すれ違う人もいないが念のため小声で喋っているため、必然的にお互い距離が近くなる。絡ませ合った指や時折触れる肩から季春のぬくもりを感じ、俺の脳裏に最初のNPC姦プレイの記憶が浮かぶ。 (そういや、こいつも最初に尻を撫でてきたっけ。身動き取れないわけだし、考えようによっては痴漢プレイみたいなもんだよなあ)  自分の意思で動いたり拒否したりできない状態で、身体を撫でられ性的な刺激を与えられる。電車内で季春に痴漢されることを想像してしまい、腹の奥がぞくりと疼いた。 「またやらしい顔して。どんな妄想したのかなあ、淫乱くん?」  季春が住むマンションのエレベーターに乗り込んだ直後。思考を溶かすような低く甘ったるい声を耳に流し込まれ、さらに身体が熱くなっていく。完全に2人きりになった空間で俺は熱いため息を漏らす。 「……今度、ゲーム内で痴漢プレイしたいなって。もちろん、お前と」  誘うように季春の手の甲を指で撫でる。彼は大きくため息をつき、俺の手をぎゅっと強く握った。上昇するエレベーターの稼働音が、今日は妙に遅く感じる。 「お邪魔し……んうぅっ♡」  季春の部屋に到着し、玄関のドアが閉まった瞬間俺の唇は彼に塞がれた。玄関の壁に押しつけられ、口内に侵入した舌に吐息ごと食べつくしそうな勢いで這い回られる。上顎を舐められ、ガクガクと脚が震えた。  唇が離れ、途切れた銀の糸が俺の口元を濡らす。それを舌で舐め取った季春は、そのまま首筋に向かってキスを降らせていく。 「季春……っ、俺、腹減った……っ、んっ♡」 「あは、お腹いっぱい精液飲みたいって?」 「ちが……っ! まだ、後ろの準備も、してないし……っ」  くすくす笑う吐息が首筋にかかり、くすぐったさと気持ちよさで背中がゾクゾクする。身体を離した季春は俺を見下ろすと、にっこりと笑った。 「ふふ、しょうがないなあ♡ たしかに、ご飯食べないとこのあともたないもんねえ?」 「……ああ。そうだよ」  からかう口調の季春に、素直にこくんと頷く。だって夜は長いのだから、しっかり精をつけておかないといけない。一瞬目をぱちくりとさせた彼は、嬉しそうに破顔した。  昂ぶり始めていた熱を抑え込みながら、靴を脱いで部屋に上がる。先にリビングに向かっていた季春がふとこちらに振り返った。 「おかえり、やなぎ」 「……ただいま」  自分の家じゃないからまだ違和感はあるけど、俺の返しに季春が幸せそうにするから、悪くない気分だ。  絶品の唐揚げを頬張りながら、恋人と過ごす3連休に胸を躍らせた。 (了)

ともだちにシェアしよう!