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番外編③ 新しい日常はすぐそこに(攻め視点)⑤

 デートに出かけた僕たちはまずベッドや家具の下見をして、それから家電量販店へと向かった。引っ越しの際に買い替える品物を見て回り、その後もぶらぶらと店内を歩いているうちに気が付いたら時刻はもう夕方。今日は日曜日で、明日は平日の月曜日。明日からまた仕事なので、そろそろ帰る時間だ。 「な、なあ季春……もう少しだけ……時間ある……?」  目的もなく店内をゆっくりと回りプラモデルコーナーの前を歩いていると、頬を赤らめどこかそわそわした様子のやなぎが小声で聞いてきた。僕がにっこり微笑んで頷くと、彼はさらに頬を染め口元を緩ませる。  もう少しすれば同じ家で暮らすことになりずっと一緒にいられるけど、今はまだ別々の家に帰らなければいけない。引っ越しの日が近くなっているから、余計にやなぎも寂しく感じるのだろう。  熱を宿した瞳で僕を見上げるやなぎに、彼が喜んでくれるであろう提案をすべく僕は口を開く。 「ねえ、やなぎ。このあと――」 「季春、ちょっとだけ――」 「あれ、埜渚(やなぎ)くん?」  僕が話し始めると同時に、やなぎの声が聞こえた。そして、どこからかやなぎを呼ぶ知らない声も。知らない声がした方を見ると、当然知らない男が立っていた。やなぎに向かって手を振り、笑顔でこちらに歩いてくる。  ここで会うなんて思わなかった、と話す男にやなぎも笑顔で返事をした。男は僕に気づくと、やなぎの学生時代からの友達だと自己紹介をする。僕も笑顔を作って挨拶を返すと、男はまたやなぎに話しかけた。男はプラモデルを買いに来たのだと言い、やなぎにプラモデルに興味が出たのかと問いかける。 (はー……別の階に行けばよかった。ていうか……なれなれしすぎじゃない? やなぎもこんなに可愛い笑顔見せて……)  別の階を歩いていれば、この男と鉢合わせることもなかったはずなのに。2人の会話を聞き流し、僕は苛立つ気持ちを隠しながら笑顔を保つ。ただでさえやなぎとのイチャイチャを中断してまで来たのに、彼との大切な時間を邪魔されるなんて。気安い感じでやなぎが男に接しているのも気に入らない。  やなぎには怒られるかもしれないけど、早く会話を中断させてしまいたい。そう思い口を開こうとすると――。 「えーっと、悪い。そろそろ帰らないといけないから……」  僕よりも先にやなぎが口を開いた。申し訳なさそうな口調のやなぎの言葉に男ははっとした。 「あ、ごめんね。連れと一緒なのに話しすぎちゃったね。オレも会計行かないと。また連絡するねー」 「ああ。またなー」  男はにっかりと笑うと、レジの方へと歩いて行った。やなぎは男に返事をして後ろ姿を見送ったあと僕を見上げ、下りのエスカレーターを指さす。 「おいてけぼりにしてごめんな。そろそろ行こう」 「いいの? あんな風に中断しちゃって」  自分でも意地悪な質問だとはわかっているけど、口から出る言葉を止められなかった。エスカレーターの方に2人で歩きながら問いかけると、やなぎは微笑んだ。 「んー、まあ大丈夫だろ。あいつは別にそれくらいで怒らないし。それに……」  やなぎは言葉を一度区切り、再び口を開く。 「……お前と一緒にいるの、邪魔されたくなくて。せっかくの……デートなのにさ」  頬を真っ赤に染めたやなぎの言葉はどんどん小さくなり、最後は偶然流れた店内放送にかき消された。けれど唇の動きでなにを言っているのかわかり、僕の心を覆っていた真っ黒いもやが晴れていく。

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