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猫と鈴と夕暮れの神社6
「魔法酔いだと言うのなら、ほんとに“彼方の|来訪者《ヴィジター》”なのか」
「彼方の来訪者?」
「ああ。稀に異世界からやってくるらしい」
は? ほんとに異世界なんてあるの? そんなのゲームとかの話しじゃないの? そして俺がここにとっての来訪者? 夢じゃないの? もし夢じゃないとしたら俺は帰れるんだろうか。
「……帰れるの、かな?」
「……」
ルナを見ると、ルナは枕元で香箱座りをして目を閉じている。寝てるんだろうか。もし、ここが夢ならルナの足は汚れてないだろう。もし汚れていたら、レオニスさんの言う通り異世界なのかもしれない。そう思って、リラックスしているルナの前足を掴んで足の裏を見る。
「ギャ」
ルナはすごい声をあげた。ごめん、ただ目を瞑ってるんじゃなくて寝てたんだね。で、ルナの足の裏は汚れてた。マジか。夢じゃなくて異世界なのか。俄には信じられないけど。と! それより、ルナが足が汚れたままベッドに乗っちゃったら汚れちゃう。
「あのー。今さらな気がするんですけど、ルナが、足を拭かないままベッドに乗っちゃったので、汚れちゃったかと……ごめんなさい。家の中は大丈夫ですか?」
「ああ、屋敷は気にするな。土足だ。ベッドはそうだな、タクヤが我慢できるのなら、明日、タクヤが落ち着いてからリネンを変えて貰おう」
「俺は大丈夫です」
「そうか。猫の足を拭いてやろうと思うが、私が足に触れたら逃げそうだな」
「許して頂けるなら、明日、俺の体調が良くなったら拭きます」
「ああ、それは構わない。なら夕食まで少し寝るがいい」
「ありがとうございます」
そうしてレオニスさんが部屋を出て行った直後、チリンと鈴の音が鳴った。ルナの首輪の鈴か。そう思って首輪を見ると、鈴が淡く光っている。え? なに? なんで光ってるの? 光と言えば、あの神社で転んだとき、なんか淡く光ってたな。それとなにか関係あるんだろうか。
「ルナ。お前の鈴、なんで光ってるんだ?」
と訊いたってルナが答えられるはずがない。多分、あの神社の光っている場所がこの世界と繋がっていたということだろうか。いやいや、なに、ここが異世界だなんて受け入れてるんだよ。もし、ここが異世界だというのなら、帰れるのか? 夢だというのなら目覚めたいし、異世界だというのなら帰りたい。どちらにしても、1度寝た方がいいんだろう。ルナはまた香箱座りをして目を閉じているから、きっと寝ているのだろう。そして、俺も一緒に寝てたらきっとルナと一緒に元の世界に戻っているはずだ。そう思って俺は目を瞑った。
「……クヤ。タクヤ」
ん? 誰だよ。人が気持ち良く寝てるのに。もう少し寝かせてくれ。そう思って掛け布団を目の上までひっぱる。
「タクヤ。夕食だ。タクヤ」
夕食? 俺、1人暮らしだから誰かが作ってくれることなんてない。その前に起こす人もいない。ぼんやりとした頭でそう思い、恐る恐る目を開けた。天井には……と言いたいけど、天井は見えない。なぜなら天蓋がついているから。え? 今寝てるベッドって天蓋付きのベッドだったりするわけ? 当たり前だけど、俺のベッドはそんなのではない。ごく普通のベッドだ。そして先ほど声のした方へ顔を向けると、ルナはいつの間にか丸くなって寝ているし、そしてその先には、レオニスさんがいた。なに? 目が覚めてもいる場所が変わらないということはほんとに異世界だというのだろうか。俺、そんなにゲームしないんだけどな。いや、ゲームが関係するのかどうかわからないけれど。
「吐き気はどうだ?」
訊かれて、そうだ気分が悪くて吐いたんだと思い出す。のろのろと上体を起こすと、体が重いのは変わらないけれど、吐き気は随分と良くなっていた。
「まだ少しあるけど、だいぶ落ち着いてきたみたいです」
「そうか。食事は摂れそうか?」
「いや、それはまだ……」
「では、スープだけでも口にするといい」
そう言われて俺は上体をヘッドボードに預けた。
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