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猫と鈴と夕暮れの神社5

 屋敷のドアをくぐると、そこにはメイドさんと執事? らしき人たちがズラッと並んで出迎えている。そういえば貴族だって言ってたから、出迎えってこんななのか。 「お帰りなさいませ」 「ああ。ただいまニコラス。ヨセフに至急来るように伝えてくれ」 「どこかお悪いのですか?」 「ああ、私は大丈夫だ。ただ、タクヤ――彼が体調が悪いようだ」  レオニスさんがそう言うと、ニコラスさんは一瞬俺に目をやってから、かしこまりました、と言ってどこかへ行った。胡散臭いやつだと思っただろうな。俺が逆の立場ならそう思う。でも、ニコラスさんの表情からはなにも読み取れなかった。 「タクヤを客室へ連れて行きたいんだが」  レオニスさんがそう言うと、1人のメイドさんが、ご案内しますと言ってレオニスさんの前を歩いて行く。 「タクヤ。もう少し我慢してくれ」  レオニスさんの腕の中で俺は、こくこくと頷いた。グリフォンに乗せられていた間に余計に気分が悪くなってきていて、口を開くことができない。  「吐きそうか?」  その問いにもこくりと頷く。 「クララ。この部屋でいいんだな?」 「はい。旦那様のお部屋に一番近い部屋でございます」 「そうだな。ありがとう。あと、洗面器を持って来て貰えるか。タクヤが吐きそうだ」 「急いでお持ちいたします」  クララと呼ばれたメイドさんは部屋のドアを開け、レオニスさんが部屋に入るとすぐにどこかへと洗面器を取りに行った。そしてレオニスさんは、ベッドに俺を優しく寝かせてくれた。そして、にゃ〜とルナの鳴き声がしたと思ったらベッドに乗ってきた。良かった。ルナはいてくれた。ルナは俺の枕元に来ると、心配そうな顔で俺の顔を見ている。ルナはとにかく俺になついていてべったりだし、俺の様子をよく見ている。今はきっと俺の体調が悪いのを感じ取っているんだろうな。そう思うとルナが可愛くて、頭を撫でてやる。俺のその様子をみていてレオニスさんは言った。 「その猫はよほどタクヤのことが好きなのだろうな。先ほどからずっとタクヤのことを見ていた」  そうか。ルナ、ありがとうな。  しばらく俺もレオニスさんも無言で、俺はただ気持ち悪さと怠さを我慢してルナの顔を見る。ルナは寝る時は俺のベッドで寝るし、俺が呼べばかなりの確率で飛んでくるし、俺の行くあとをいつもついてくる可愛いヤツだ。 「レオニスさま。洗面器をお持ちしました」 「ああ。ありがとう。タクヤ、吐いても大丈夫だぞ」  レオニスさんのその言葉に、俺はレオニスさんが見ているのも無視して洗面器に顔を突っ込んだ。どうせさっき吐くのを見られているのだから、1回も2回も変わらない。そう思って思い切り吐く。吐いて、少しすっきりしたところでレオニスさんにコップを差し出された。 「口をゆすぐといい。気持ち悪いだろう」  ちょうど口をゆすぎたかったので、ありがたくコップを受けとり、口をゆすいだ。あー、少しすっきりした。 「まもなく、医者が来るので安心しろ」  さっき執事さんに言っていたのは、医者を呼べということだったんだな。そう思うと、このレオニスさんはすごく優しいんだな。 「ありがとう、ございます」 「礼などいらん。たまたまそばにいたからな。それに、俺に礼を言うなら、その猫に礼を言うといい。俺を呼びに来たのはその猫だ」  そうか。ルナが呼んできてくれたのか。 「ありがとう、ルナ」  俺がそう言うと、ルナは高い声でにゃ〜と鳴いた。ほんとにルナは可愛いな。そう思っていると先ほどの執事さんが来て、医者が到着したと告げた。 「タクヤ。医者がきたようだ。ああ、ヨセフ。急にすまないな。彼がかなり体調が悪いようで既に2回吐いているし、立つのも辛いようだ」 「そうですか。それでは診察をするので、胸をみたいのですが、ボタンをよろしいですか」 「ヨセフ。タクヤの着ている服はボタンがついていないようなのだ」  レオニスさんがそう言うと、医者は驚いた顔をしている。レオニスさんも初め、この服を見たとき珍しそうな顔をしていたけれど、ここにはパーカーっていうものは……ないんだろうな。診察して貰うべく裾を持ち上げるとレオニスさんもお医者さんも余計に目を丸くしていた。ボタンないんだから、こうやって脱ぎ着するしかないだろう、と思うけれど、彼らには驚くものなんだろうな。でも、お医者さんはすぐに冷静になり、失礼しますと言って聴診器をあてた。そこで心音を聞いたあと、脈拍を測った。 「失礼ながら、どちらからいらっしゃいましたか?」  脈を測ったあと、そう訊かれた。地球から来たとでも言えばいいのか? 俺がそう思っているとレオニスさんが代わりに答えた。 「アカエアの遺跡のところでぐったりとしていた。そして……」  レオニスさんはそこで1度言葉を句切り、辺りを見渡し、誰もいないのを確認してから先を続けた。 「地球から来たという。地名などはまったく知らないところだったし、恐らくは異世界人かと思う」  レオニスさんのその言葉にお医者さんは頷いてから言った。 「それでは恐らく、魔法酔いでしょう。私も初めて診ますが、異世界からこの世界に飛ばされる際に時空の歪みなのか、それとも魔法なのかこのような症状になると学術書で読んだことがあります。そうであれば、特にどこかが悪いわけではないので、とにかく安静にしていればじきに落ち着くかと思われます。あとは吐き気が収まりましたら、なにか栄養をとり休めば明日にでも良くなるかと思われます」 「魔法酔いか。では、特に心配することはないんだな?」 「特に持病がない限りは問題ないかと。なにか持病はおありですか?」 「ありません」  俺がそう答えると、それなら問題ありません。しかし、明日になっても様態が変わらないようであればお呼びください、と言って医者は帰っていった。

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