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猫と鈴と夕暮れの神社4

「歩けるか?」  青年貴族。もとい、レオニスさんに立って歩けるかと訊かれた。イエスかノーかで答えるならノーだ。そのくらい頭も体も重いし、吐いて少しマシになったとはいえ、まだ吐き気は残ってる。だから俺は首を横に振った。確かにいつまでもここにいるわけにはいかないだろう。夢なのか現実なのかよくわからないけれど、それでもずっとここにいるわけにはいかないだろうことはわかる。かと言って、動けと言われても辛い。だって首を振るだけでも吐き気が辛くなったんだ。それなのに歩けとは無茶だ。 「そうか」  レオニスさんはそう呟いてしばらく黙っていたが、我慢してくれと言ったかと思うと俺を横抱きにした。 「うわっ」 「落ちたくないなら動くな。そして首にでも捕まっててくれ」  首に捕まれって、首に腕を回せということか? いやいや、さすがにそれは……そうは思うけれど、横抱きで歩かれると怖いから、つい首に腕を回してしまう。っていうか、確かに俺は痩せてる方だけど、一応成人男性だ。重いだろうに。それでも抱えて歩けるってすごいな。確かに服の上からわかる胸の筋肉はしっかりしているみたいだけど、だからと言って抱えて歩けるってすごいと思う。鍛えているんだろうな。同じ男だけど、俺は誰かを抱きかかえて歩くだなんて絶対無理だ。  それより、ルナはどうしただろうか。飼い主である俺がこんな状態だから、ルナを抱いてやることができないし、そんなことを考えるよりも先に抱きかかえられたから、抱いてやるどころじゃなかった。どこにいるだろうかと思うけれど、辺りを見ることさえ今は怖くて、レオニスさんに訊くしかなかった。 「あの、ルナはいますか?」 「ルナ?」 「あ、猫の名前です。黒猫の」 「あぁ。猫なら私の横を歩いているから心配ない」  良かった。夢だか現実だかわからない今の状況でルナがいなかったらと考えると怖い。ルナがいることで少しは心強いんだ。  遺跡を出て少し行ったところにグリフォンの姿が見えた。想像より大きい。いや、それよりほんとにいるんだな。鷲の上半身と翼、獅子の体を持つという幻獣だ。その幻獣が実体を持ってそこにいる。そして思っていたより大きいことにびっくりした。確かにこれだけ大きいのなら人間2人ならなんとか乗れそうだ。獅子っていうから、人が乗れるのか? と思ったけれど、形は確かに獅子だけど、大きさは本物とは違うようだ。  グリフォンのところまで行くと、俺はグリフォンの上に乗せられた。レオニスさんは俺の後ろに座る。そこにルナがぴょんと飛び乗ってくる。ルナがいてくれてほんとに良かった。でも、これで飛ばれたらルナはどうなるんだ? 落ちちゃわないか? かと言って俺が両手で抱いてやると、今度は俺が危ない。肩に乗せることも考えたけど、さすがに成猫を長時間乗せるのは重いし、爪を出されそうで怖い。なので、俺が片手で抱いてやるか、俺とレオニスさんの間に座って貰うしかない。どうしようかと考えていると、レオニスさんは俺とレオニスさんの間にルナを座らせた。 「レオにもゆっくり飛んで貰うから安心しろ」 「レオ?」 「ああ。グリフォンの名前だ」  レオって強そうな名前だな。確かにグリフォンは強そうな見た目をしているから、レオって名前はぴったりだと思った。 「レオ。行ってくれ」  レオニスさんがそう言うと人間の言葉がわかるのか、ゆっくりと飛び立って行く。うわ、飛んでるよ。そんなに高度が高いわけではないけど、飛行機やなにか乗り物にも乗らずに(グリフォンは別として)空を飛んでいるということが怖くて、俺は必死にグリフォンの首に捕まっている。ルナは大丈夫だろうか。後ろに座るレオニスさんがなにも言わないから大丈夫なのだろう。でも、ビビリなヤツだから怖がってるだろうな。でも、抱いてやれない。申し訳ないけれど、自分のことで精一杯だ。  そうやってグリフォンに乗っていたけれど、体がとにかくダルい。というか悪化している気がする。ううー。あとどれくらいで着くんだろう。とにかく横になりたいし、胸もまたむかむかしてきた。吐くことはないと思うけれど。レオニスさんに訊きたいけれど、口を開けて空気を吸い込んだら余計にむかむかきそうで、訊けないでいた。  それからどれくらい飛んでいたんだろう。眼下に建物がたくさん見えて来た。きっともうすぐ着くんだろう。そう思っていると後ろからそう聞こえた。 「辛いだろうが、あともう少しで着くから頑張ってくれ」  俺はその言葉に言葉は発せないので、ただ、こくこくと頷いた。そうしているうちにグリフォンは下降していき、広い屋敷の庭に降りたった。着いた、のか? 安心して俺がハーッと息を吐き出すと、ルナもホッとしたのかグリフォンから飛び降りた。俺も同じようにと思うけれど、遺跡のところにいたときよりもしんどくて、どうやって降りようかと思っていると、先に降りたレオニスさんが俺を抱きかかえて降ろしてくれた。そして、すぐに先ほどと同じように横抱きにして屋敷の中に入っていった。

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