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猫と鈴と夕暮れの神社3
「にゃ〜にゃ〜」
なんかルナの鳴き声が聞こえる。帰って来たのか? そう思ってのろのろ頭を上げて目を開けると、目の前に柔らかそうな金髪に青い目の男が俺を覗き込んでいた。
え! 誰? 姿を見ると、黒色の服を着ていて、金色の髪は長いらしく、後ろでひとつに結わいていた。そして、その隣に心配げに俺を見るルナの姿があった。ルナの姿があるのはいい。さっきもいたし。だけどこの金髪の男は誰だ? 服と言っても現代じゃなさそうだ。19世紀頃のヨーロッパの服装によく似ている。ルートヴィヒ二世の画を見たことがあるから間違いない。でも、そんな時代の男がなんで俺の夢に出てきてるんだ? あー。そんなこと考えてたら吐き気してきた。どうしよう。吐く! とは言え、人の目の前で吐くのもどうなのかと思うので、よろよろと立ち上がり、草むらの方へと急ぎ、そこで力尽きて吐いた。う〜気持ち悪い。水もなにもないから口をゆすぐこともできない。夢のくせになんだかやたらにリアルだな。そう思ってルナの名を呼ぶとにゃ〜と言いながら俺の方にくる。俺の顔を見上げ、大丈夫か? と俺の姿を見る。頭と体はまだまだ重いけど、吐き気に関しては吐いた分、少し楽になった。ありがとうな。と頭を撫でてやると嬉しそうに目を細めた。
と、ルナはいい。だけど、俺の顔を覗き込んでいた金髪碧眼の男は誰なんだ?
「吐いていたようだが、体調が悪いのか?」
え? 俺に訊いた? そうだよな。他に人いないし。
「ちょと頭と体が重くて。吐き気は、まだ少しあるけれど、さっきよりは良くなりました」
「そうか。それよりどこから来た? 見たことのない珍しい服を着ているが。黒目黒髪といい、この辺の国じゃないな」
珍しい服? ヨーロッパにだってこんな服あるだろう。いや、その前にそういう自分の着ている服はどうなんだと言いたい。現代ヨーロッパでこんなきちんとした服装をしている人なんていないだろう。かと言ってコスプレには見えないし。現代の俺と少し前のヨーロッパ(っぽい)の男。一体どうなってるんだ?
「東京から来ました」
「トウキョウ?」
東京と答えれば日本だとわかるだろう。そうしたら東アジア人らしく黒目黒髪なのも納得してくれるだろう。と思ったけれど、男は首を傾げた。え? まさか東京がわからない感じ?
「日本の東京です」
さすがにこう言えばわかるだろう。
「ニホン?」
え? 日本もわからない感じ? 日本って今は国力落ちているけれど、貧困国でもないし、そんなに小さな(国土は狭いけど!)国ではないから、ヨーロッパ辺りの人ならわかると思うんだけど。こんなに綺麗な金髪碧眼って言ったらドイツあたりだろうか。いや、ドイツ人なら日本のことわかるだろうに。
「ここはどこなんですか?」
日本の東京と言っても通じなかったので、逆にこちらから訊いてみた。社会科は結構得意だったんだ。よっぽどの小国でない限り知らない国はないだろう。そう思った俺は甘かった。
「エルドランド王国だ」
エルドランド王国? どこだ、それ。そんな国、聞いたことない。ヨーロッパにはまだ小国はあるけれど、そこにエルドランド王国なんてあっただろうか?
「ヨーロッパですよね?」
「ヨーロッパ?」
俺が訊き返したら、男は眉間に皺を寄せた。
「ヨーロッパとはどこだ?」
はい? まさかヨーロッパが通じない? いや、さすがにおかしいだろう。地球上のどこに住んでいたとしたってヨーロッパ大陸のことはわかるだろう。日本もヨーロッパも知らない男。そしてここはエルドランド王国だという。それ、地球じゃないってことか? いや、まさかとは思うけど、そうとしか思えない。俺も男も考え込む。えっと、どうなってるんだ? なんか異世界に来ちゃった感じ? いやいや。異世界だなんて物語の中のファンタジーだけだろう。現実にそんなことがあるはずがない。それともやっぱり夢なのか?
「お前、もしかして異世界人か?」
はい? 今、異世界人かと訊きましたか? え? やっぱり異世界だったりするの? そんなのファンタジーじゃないの?
「異世界かはわかりませんが、地球から来ました」
もう、東京も日本もヨーロッパも通じないのなら、こう言うしかない。
「地球。それはこの惑星ではないな。異世界人か」
えー。異世界。まさかの異世界。地球じゃないとは思わなかったよ。
「そうか、異世界人か。最近は聞かなかったがな。名前はなんという?」
「清石拓也です。タクヤ・キヨイシ」
「タクヤか。私はレオニス・アーゼンハイツだ。エルドランドの貴族だ」
レオニスさんか。ってか、地球以外にも貴族っているんだな。
「異世界人だとすれば帰る家などないな。そうしたらうちへ来るがいい。向こうにグリフォンを待たせている」
グリフォン?! グリフォンって、あのグリフォン? ライオンの体とワシの頭と翼を持つというあのグリフォン? まさかほんとにグリフォンがいるというのか。俺はびっくりして目を丸くしてしまった。
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