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居場所のはじまり2
俺は昨夜なにも食べていないことがあって、食事に手をつけるとまるでルナのようになってしまった。サラダは粉チーズがふりかかっていてとても美味しいし、コンソメスープはいい味がするし、パンは焼きたてなのか外はパリっとしていて、中はふんわりしている。どれもが美味しい。
「もし足りなければパンとスープならおかわりがあるはずだが」
俺ががっついて食べていたからだろう、レオニスさんにそう言われた。猫ががっついて食べるだけでなく、その飼い主までがっついて食べるってなんなんだよ。恥ずかしい。でも、昨日お昼に大学でランチを食べたっきりなんだ。
「……すいません」
「謝る必要はない。昨夜は食べていないのだし、そうやって美味しそうに食べてくれたら料理人も喜ぶ」
「ほんとに美味しいです」
「そうか。伝えておこう」
そう言ってレオニスさんは優雅に食事を続ける。俺はすごい勢いでがっついて食べたので、早々に食べ終わった。下を見ると、ルナもミルクまで綺麗に飲み終わり、今は満足気に顔を洗っている。よほど美味しかったんだろうな。でも、人間は魚を食べていないから、きっとルナのためにわざわざ焼いてくれたのだろう。俺の食べたものも美味しかったから、きっとルナが食べた魚も美味しかったんだろうな。俺がそんなことを思ってルナを見ていると、レオニスさんに話しかけられた。
「食事も終わったし、少し話したいことがあるので、部屋で話せないだろうか」
「あ、はい」
「それなら書斎で話そう。ニコラス、書斎に紅茶を持って来てくれ。そして、その後は誰も近づくな」
「かしこまりました」
「じゃあタクヤ、行こう。あぁ、猫は一緒でも構わない」
「すいません」
レオニスさんが席を立つと俺も慌てて席を立ち、ルナを抱き上げた。あ、後で足を拭かせて貰わなきゃ。
俺はレオニスさんの後をついていく。2階の奥まったところが書斎になっていた。部屋の真ん中にマホガニーと思われる重厚なデスクと、その上に書類が重なって置かれ、部屋の壁には作り付けの本棚があり、ギッシリと本が置かれている。すごい本の量だな。そして、パソコンがないところを見ると、まだパソコンは普及していないのか、発明されていないのか。貴族のお屋敷にないんだから、恐らくはまだ発明されていないのだろう。
俺たちが書斎に入ってすぐに執事のニコラスさんが紅茶を持って来てくれた。紅茶を置いたニコラスさんが出て行くと、部屋には俺とレオニスさんの2人だけになった。そして俺はレオニスさんの許可を得て、ルナを離してやった。するとルナは窓辺へと行き、香箱座りをして目を閉じた。食事もしたことだし、恐らく寝るのだろう。
「突然だがタクヤ。君はどうやってここへ来た?」
2人になるとレオニスさんはおもむろに口を開いた。そうだろう。レオニスさんとしては気になると思う。
「魔法酔いとやらをしていたということは、魔法使いになにか魔法をかけられたのか?」
魔法使い……。普通にその単語が出てくるということは、この世界には魔法使いがいるということなんだろう。でないと想像もつかないだろうから。
「魔法使いっていうのはいません。だから魔法をかけられたとか、そういうことはありません。ただ、ルナを追いかけて神社に入って、御神木の根に躓いて転んだら、あの遺跡にいたんです。なにか光が光ってたけど」
「神社とは?」
あ、そうか。神社がわからない感じか。俺は神社の説明をした。
「宗教……。神のいるところならば、なにか理由があってここへ飛ばしたのかもしれないな。そうか……。稀に異世界人が来るというのは本で読んだことがあるのだが、そんなにあることではないから、私も初めてなのでな。それで訊いてみた」
「あの……。俺、どうやって来たのかわからないから、帰る方法もわからなくて……。だから、あの、ここに住み込みで働かせて貰えませんか? 厚かましいことを言っているってわかってるんですけど、どこにも行くところなくて……。すみません」
ほんとに厚かましいことを言っているなってわかっているので、申し訳ない気持ちしかない。でも、どこにも行くところがない今は、そんなことを言っている場合じゃない。
「ここにいればいい。ああ、仕事などせずともよい」
「でも、それじゃあ申し訳ないです。と言っても俺ができるのなんて料理くらいですけど」
「料理ができるのか。異世界ではどんな料理を食べているんだ?」
「地球と言っても地域や、国によって違うけど、俺が住んでいた国では米が主食で和食と呼ばれるものを食べてました」
「米が主食か。ここでも米は食べるが、その和食とやらは食べてみたいな。今度、ぜひ作ってくれないだろうか」
「それは構いませんけど」
「そうしたら、たまに料理を作ってくれ。だけど、料理人として雇うわけではない」
そっか。そう簡単に雇っては貰えないか。そこまで聞いて俺は落胆した。ここは王都って言ってたから、他にどこか仕事はあるだろう。後で外へ出て探してみよう。と、俺がそこまで考えていたところでレオニスさんは言葉を続けた。
「タクヤはあくまでも私の客人だ。帰る方法がわかるまで、いつまででもいればいい。君のような存在は、救世主だと言われている。だから、こちらこそ、ここにいて欲しい」
そう言われて俺はびっくりした。
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