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庶民街の灯2
「レオニスさん、お帰りなさい」
着替えをすませてダイニングルームへ行くとタクヤは厨房から出てきていた。
「もう用意はできたのか?」
「俺がやるものは。あとはアベルさんが味噌汁を温めればおしまいです」
「今日はなにが出てくるか楽しみだ」
そして下を見ると、黒猫のルナが一足先に食事をしていた。鮭が見えたので、今日は鮭なのだろうか。タクヤいわく、この世界に来てからルナはいいものを食べているから毛艶が良くなったと言っている。確かに見ると毛艶はいい。でも、タクヤは太らないかということも気にしている。だから元の世界にいたときは外には出さなかったけれど、ここに来てからは行きたいところに行かせていると言う。元の世界でタクヤが住んでいた部屋は一部屋だったと聞く。それだとルナは運動不足になっただろう。しかし屋敷はそれなりの広さがあるから屋敷の中だけでも運動不足にはならないはずだ。なんでも外に出る猫用のワクチンを接種していないから、外には出したくないと言っていた。ワクチンというものがここではないからタクヤに色々教えて貰った。健康のために接種をするという。そしてそれは猫にも言えていて、家猫用と外猫用と別れていると言う。聞くに、タクヤのいた世界はここよりも進んでいるようだ。
席に着くとニコラスが食事を給仕する。味噌汁、ご飯、おかずとテーブルに並ぶ。和食は一つずつ出すことはなく、色々なおかずやご飯を少しずつ食べていくらしい。そういう食べ方に最初は戸惑ったけれど今は慣れてきた。
今日のメニューは、味噌汁と卵焼き、ごぼうと人参(きんぴらごぼうと言うらしい)、肉の薄切り(生姜焼きと言うらしい)、そして炊き込みご飯だった。
「今日はそろそろお疲れかと思って豚の生姜焼きにしてみました。豚肉は疲れたときにいいんですよ」
タクヤはそういう。確かに木曜日は肉体的にも疲れが出てくるし、そこへもってきて各家協議会だ。神経もする減らしている。つまり、和食で精神的疲れを癒やして、メニューで肉体的疲れを癒やしてくれるのか。ありがたい。
「食べましょう。お腹空きました」
「ああ。食べよう」
真っ先に味噌汁に口をつけた。すると、いつもと味が少し違う。そして味噌汁の中に豚肉が入っていた。
「味噌汁に豚肉が入っている」
「そうです。豚汁と言うんですよ。いつもと少し味が違うでしょう?」
「ああ。そうか、豚肉が入っていたからいつもと味が違ったのか」
「今日はおかずと味噌汁に豚肉を使ってみたんです。そしてご飯は生姜を使っているんですよ」
白いご飯も美味しいけれど、炊き込みご飯も美味しくて私は好きだ。いつだったかそう言ってから、たまに炊き込みご飯にしてくれるようになった。しかし、毎回違う炊き込みご飯で、どれだけの種類があるのかと驚いてしまう。今日の生姜を使ったという炊き込みご飯も初めてだ。和食と言うものは一体どれだけの種類があるのだろうか。その和食を食べれる日は、ほんとに精神的疲れを癒やしてくれると思う。今日の各家協議会はいつも以上に疲れた。自分がなにをしているのかわからなくなってしまったのだ。庶民のための政策を考えながら、庶民がどんな顔で生活をしているのか最近は見に行けていない。ほんとに守るために戦っていると言えるのか。勝つために戦うようになってはいないか。そう思うくらいには疲れていた。
「今日は疲れたからありがたいよ」
私がそう言うとタクヤは優しい笑みを浮かべた。和食にも癒やされるけれど、タクヤにも癒やされている。笑顔がいいのだ。そんなことは内緒だが。
豚の生姜焼きと言われるものを一口食べると生姜の味が口に広がるけれど、嫌な感じはしない。
「これは美味しいな」
「生姜焼きですか。美味しいですよね。俺も好きです」
豚汁と生姜焼きと2つの料理に豚肉を使って、きっと無駄にしないようにしているのだろう。タクヤはそういったことを考えるタイプだ。とすると昼は鮭を使った料理だったのかもしれない。だからルナのご飯に鮭が出てきたのだろう。そのルナはと思い床を見ると満足気に顔を洗っていた。私もルナとは違うものを食べているけれど、今日の和食も満足だ。こんな美味しいものが世の中にはあるのだ。そこで思った。この国の庶民は、やはり私たち貴族とは違うものを食べているのだろうか。肉はきちんと食べられているか。魚も新鮮なのを食べられているか。米は食べられているか。パンはパサパサしていないだろうか。そんなことが気になる。明日は貴族院があるが明後日は書類が動き、人はそれにつられて動く。私の場合は庶民政策だから庶民街へ行くのがそうだろう。それなら私も動くべきか。そう思った。
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