35 / 40
庶民街の灯5
石畳の街はとてもしゃれて見えた。そうだよな、ここは王都だもんな。通りには色々なお店がある。どちらかというと飲食関係のお店が多い。ケーキ屋さんにキャンディやチョコレートのお店。レストランにカフェ。その中で俺はキャンディやチョコレートのお店に惹かれた。いいな、美味しそうだ。でも、残念ながら俺はお金を持ってない。働いていないから賃金を貰うことがないのだ。いいなぁ。レオニスさんの後をついていきながらも、目はお店にロックオンしたままだ。
「どうした? 欲しいのか?」
「えっと……あの……はい」
「じゃあ買うか」
「でも、俺、お金持ってないんで」
「そんなものは必要ない」
そういうとレオニスさんはお店に入っていく。え? レオニスさんが買ってくれるっていうこと? いや、それはダメだよ。毎日の食事を食べさせて貰えるだけでも申し訳ないくらいなのに。
「キャンディがいいか? チョコレートがいいか?」
「え……チョコですけど。ほんといらないですから」
「これくらい安いものだ。欲しいだけ取れ」
お店は一口大のチョコレートが量り売りになっている。
「じゃあ少しだけ……」
買って貰えるにしても少しでいい。
「遠慮をする必要はない。そうだな。いつも和食を作ってくれているから、その対価だと思えばいい」
俺が気にしないようにそう言ってくれるレオニスさんは優しい。毎日3食の食事が対価としてるのに、ここでチョコまで買って貰っていいんだろうか。うん。でも、買ってくれるなら少しでいい。そう思って俺は少しだけ秤に乗せた。
「そんなに少しでいいのか」
「はい。1人でそんなに食べないから。それともレオニスさんも食べますか?」
「じゃあ少し食べようか。帰ったらニコラスに紅茶を淹れて貰って一緒に食べよう」
「はい!」
レオニスさんも食べるのか。1人で食べるよりいい。結局、レオニスさんは秤にチョコを加えて乗せ、キャンディも少し買った。こっちに来てからアベルさんが作ってくれるスイーツを食べているけれど、こういうちょっとしたお菓子は食べてないから、ちょっと嬉しい。
「ありがとうございます」
「礼はいらない。私の体調などを考えて作ってくれているのだ。これくらいでは申し訳ないくらいだ」
「そんな……。でも、チョコって最近食べてないので楽しみです」
「そうか。それなら良かった」
「ところでお酒屋さんってどこですか? レオンさんって言う人がやっているお店なんですが」
「それなら市場だ。なんだ酒でも飲むのか?」
「いいえ。以前、料理酒や調味料を作って貰ったんです。だからお礼を言いたいなって。あ、あと穀物屋のライナさんも市場ですか?」
「ああ。ここでは食材は全て市場で売っている」
「そうなんですね。じゃあ2人にお礼を言いたいです」
「穀物屋はなんでだ?」
「お味噌を作って貰ったんです。どこで作って貰うのがいいのかアベルさんも悩んだらしいんですが、ライナさんとは親しいみたいでライナさんにお願いしたみたいです」
「味噌汁に使っている味噌か」
「はい。大豆で出来てるんですよ」
俺が味噌が大豆で出来ているというと、レオニスさんは興味深そうな顔をしていた。そうだよな。貴族なんだからなにで出来てるなんて気にしたことはないだろうし、調味料なんて見たこともないだろう。
「じゃあレオンのところとライナのところに寄ろう」
「はい。その2人が作ってくれなかったら和食は作れませんから」
「私も味噌汁を飲めないしな」
「そうです」
石畳の通りを抜けると、舗装されていないところに市場が出ていた。
「わー。市場だ!」
「市場に来るのは久ぶりだな」
「忙しいですもんね、レオニスさん」
国会が開催中は忙しくてそれどころではないだろう。土曜日もなんだかんだ休んではいるけど、本来の休みは日曜の週1日のみだ。でも、その1日はゆっくりしたいと思うだろう。そうしたら、なかなか市場に来れなくても仕方がないと思う。
かたや俺はと言うと、あまり馴染みのない市場ということでテンションがあがった。食材を買うということはスーパーで買うのと同じなのに、なんだか市場というだけでわくわくするのっておかしいかな?
「まずはレオンのところへ行こうか」
「はい」
あまり来ないと言いながらも、レオニスさんは迷うことなくレオンさんのところへと行く。レオンさんの所は通りから奥まっているスペースに出していた。
「レオン」
「あ、アーゼンハイツ伯爵さま!」
「ああ、そんな畏まらなくて良い。今日は、タクヤが礼を言いたいと言うので連れてきた」
「タクヤ、様?」
「ああ。なんでも料理で使う酒を作ってくれたそうだな」
「あ! はい。少し前に作らせて頂きました」
「あの。作って貰ってありがとうございました。おかげで助かりました」
俺がそう挨拶をすると、レオンさんは俺の方へ視線をよこした。
「ああ、あなたが。こちらこそ、いいものを教えて頂きました。またなくなったらアベルに言ってください。作らせて頂きますよ」
「はい!」
「レオン。これは少しだが受け取ってくれ」
そういうとレオニスさんは金貨を出したけど、レオンさんは「そんな」と言って受け取らない。
「いや。ここにはないものを特別に作って貰ったんだ。あれがなかったら料理ができなかったらしいからな。だからその礼だ。また頼むこともあるだろうしな」
「そんな……。ではこの1枚だけ」
そう言ってレオンさんは金貨を1枚受け取っていた。金貨1枚がどれくらいの価値があるのかわからないけれど、きっとそれなりの価値があるのだろう。レオンさんは何度も頭を下げていたから。でも、ほんとに訳のわからないものを作ってくれて感謝なんだ。
「次はライナのところだったな」
「はい」
ここでも、レオニスさんはすいすいとお店の間を通って行った。
ともだちにシェアしよう!

