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庶民街の灯4
「わぁ。馬車って初めて乗りました」
絵や映像では見たことはあるけれど、間近で見たのも乗るのも初めてだ。
「馬車が初めてなのか? タクヤのところでは何に乗っていたんだ?」
俺が初めてだと言うとレオニスさんは不思議そうな顔をして訊いてくる。
「車と電車です。えっと馬が引くんじゃなくて、えっと鉄板で出来た乗り物で、エンジンで走ります」
「鉄板で出来た乗り物?」
不思議そうに聞いているし、俺もうまく説明できないから絵に書くのが一番早いし正確だと思った。
「屋敷に帰ったら絵描きます」
「ああ。興味がある。グリフォンやペガサスはどうだ? 遠いところへ行くには乗るだろう」
鉄板で出来たものが走ると言うのが不思議なんだろうな。ましてや、それが空を飛ぶなんて言ったらどう思うんだろう。
「遠いところへ行くには新幹線や飛行機に乗ります。えっと新幹線は速い電車で、飛行機は鉄板で出来た乗り物で空を飛びます。グリフォンやペガサスなんて想像上の乗り物だと思ってました」
「鉄板が飛ぶのか? 重いだろうに。タクヤのいたところは不思議な国だな。そう言えば、私はペガサスには乗らないから、タクヤもペガサスに乗ったことはないということか。しかし、想像上の生き物ではなく、実在するのだがな」
「ペガサスなんて見たこともないですよ。空を見てたら飛んでるのかな?」
「貴族院が終わって領地へ戻る頃にはペガサスはよく見る」
「見てみたいな。でも、なんでレオニスさんはペガサスに乗らないんですか? グリフォンには乗るのに」
「グリフォンとペガサスだと、グリフォンの方が早いし、荷物もペガサスよりも積める。だから私はグリフォンを選んでいる」
「グリフォンに乗る人って少ないんですか?」
「少ないな。恐らく私だけだろう」
そうなんだ。貴族はペガサスに乗るのか。それってなんでだろう? ペガサスの方が格好良いからだろうか。早くてペガサスより荷物が積めるなら俺でもグリフォンを選ぶけど。貴族ってわからないな。って、レオニスさんも貴族だけど。
「しかし、この国とタクヤのいた国では全く違うのだな。他の国はどうだった?」
「他の国でもグリフォンやペガサスはいませんし、普段馬車に乗る国はないです。皆、車や電車、高速鉄道、飛行機です」
「ということはタクヤのいた国というより、世界がこことは違うということか」
「はい。だからちょっとわくわくはします」
俺がそう言って笑うとレオニスさんも小さく笑った。良かった。笑った。木曜日に帰ってきてからレオニスさんは難しい顔をしていた。昨日はさらに疲れた顔をして帰ってきた。俺はよくわからないけれど、木曜日は議会でなにか大変なことがあるのではないかと思っている。俺が来てから木曜日は難しい顔をしているから。政治なんてよくわからないけど大変そうだし。今日出かけることもきっと仕事の一環だろう。それでも外出することで少し気が紛れればいいんだけど。体は疲れていると思うから、夜は豚肉を使った料理だといいな。以前、そんな話をアベルさんにしたことがあるから、きっと豚肉料理だと思うけど。俺は和食のときは厨房へ入るけれど、最近は他の日はあまり行けない。ニコラスさんに「タクヤ様は使用人ではありませんので」と言われてから行きづらい。飲み物が欲しいときはメイドさんに言えば持って来て貰えるから、入る理由もない。
「外へ連れ出すのが遅くなってすまなかった」
「そんなの気にしてないですよ。庭だけだって十分広いから散歩するには十分です。でも、市場とかは俺の国にはあまりなかったので、ちょっと楽しみなんです」
「市場が少ないのか? 日々の買い物はどうしているんだ?」
「食料品はスーパーかな? 商店街もあるけど」
「スーパー?」
「はい。お店の名前で、色んな食べ物が陳列されて売られています。作り手さんの顔は見えないですけど。商店街は市場みたいなものかな?」
「私がタクヤのいた国へ行ったらあまりの違いに動けなくなりそうだな」
「でも、違うからこそ楽しくありませんか? 最初にグリフォンに乗ったときは体調悪くて楽しめなかったけど、いつか乗ってみたいな」
「今の国会が終われば私も領地へ戻るので、タクヤも乗ることがあるだろう」
そうだ。俺はいつまでこの世界にいるんだろう? ルナが神の使いだとしても俺も一緒にいる必要はないと思うんだけど。レオニスさんは俺のことを救世主とか言ってたけど、俺はルナの使いだと思ってる。ルナは人間の言葉を話せないから。ということはルナをこの世界において帰ればいいのか? それともルナがここにいるのなら俺もいる必要があるんだろうか。ただ、どちらにしても帰り方がわからないけど。
「今の国会ってあとどのくらいですか?」
「あと2週間ほどだ」
「あ、じゃあ割とすぐなんですね」
「ただ、終わってからしばらくは調整日としてここにいるから、帰るのは3週間ほど先だな」
国会が終わってもまだやることがあるのか。俺が思っている以上に大変そうだ。
「タクヤ。庶民街だ。降りよう」
レオニスさんの言葉に外を見るとたくさんの人がいて活気があった。
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