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刃の夜7

 レオニスさんがそっと俺に布団をかけ直してくれる。 「さっきルナにも布団を掛けてやった」 「俺は猫と同じですか?」 「大切な存在という意味では一緒だ」  大切な存在……。ルナは黒猫だから”神の使い”という位置づけだから大切な存在だというのはわかる。でも、俺は? 前に”救世主”とか言ってたから、それで? でも、なんだかそれじゃあ嫌だと思った。救世主なんかじゃなくて、ただの清石拓哉として、それで大切な存在だと言って欲しい。なんでって、レオニスさんが大切だからだ。襲われたときだって、俺はどうなってもいいからレオニスさんを守りたかった。まぁ、蓋を開けてみたら俺なんかよりも腕がたっていたから、こんな結果になってしまったけれど。 「レオニスさん」 「どうした?」  その問いかけに、胸が跳ねてうまく言葉にならなかった。でも、なにかを確かめたくて俺はぽつりと言った。 「……そんなに心配してくれるんですね」 「当たり前だ。君は私の――」  レオニスさんが言いかけて言葉を飲み込んだ。けれど、その一瞬の間に浮かんだ感情を俺は見逃さなかった。 『私の大切な人だ』  そんな声が心の中で響いた気がした。レオニスさんはいつもと同じように穏やかだったけれど、なにかを隠すように視線を逸らす。 「……タクヤが傷つくのは見たくない」  そういう声は微かに震えている。胸の奥が熱くなった。それは恐怖でも不安でもなくて、もっと別のなにか。 「俺、嬉しかったんです」 「なにがだ?」 「あなたがずっと傍にいてくれたこと。手を握っててくれたこと」  言葉を続けているうちに恥ずかしくなって、レオニスさんがいるのと反対側へ顔を逸らす。 「俺なんかのために、必死になってくれるなんて……」  気がつけば、俺は布団を握りしめていた。 「俺、こんな気持ち初めてなんです」  レオニスさんは静かに俺の言葉を待っているようだった。今、なにを考えている? 恥ずかしくて顔を見れないから、どんな顔をしているのかわからない。その沈黙に背中を押されるように、俺は小さく息を吸った。 「あなたのことを考えると、苦しいくらいに心がざわざわして。怪我したときに駆け寄ってきてくれたあの顔も忘れられなくて……」  レオニスさんの目が驚いたようにわずかに揺れた。 「タクヤ……」 「俺、あなたのこと……」  言い切れなくて、唇を噛んだ。でも、そのときレオニスさんの手が俺の頬に触れた。 「タクヤ……。タクヤに言わせてしまったが、私も同じだ」  その一言に息が止まった。 「タクヤが倒れたとき、胸が張り裂けるほど怖かった。こんな感情を抱くとは思わなかった。けれど、もう自分に嘘はつけない」  優しい指先が頬をなぞる。その温もりが、ただ嬉しかった。 「私は君を……誰よりも大切に思っている」 「……!」  言葉の意味が胸の奥で弾けた。知らず知らずのうちに涙が滲む。痛みのせいじゃない。熱のせいでもない。レオニスさんの言葉が、ただ嬉しくて。 「タクヤ、泣くな。傷に障る」 「……泣いてなんて……」  ごしごしと目を擦ると、レオニスさんは少し困ったように笑った。 「……無理をするな。もう泣いてもいい」  どっちなんだよ、と思いながら俺は泣きながら小さく笑った。 「泣いてないです」 「思い切り涙が出ているぞ」  レオニスさんは俺の手にそっと触れ、手を握ってくれた。 「タクヤ。君は私にとって、かけがえのない存在だ」  その言葉が胸の奥のどこか深いところに落ちて、温かく広がった。 「俺も……です。好きです。あなたのことが」  ちらりとレオニスさんに目をやると、嬉しそうに俺を見ていた。 「やっと……言ってくれたな」  大きな手が俺の肩に触れ、ゆっくりと俺の体を引き寄せた。 「無理はさせない。だから……少しだけ」  額にそっと唇が触れた。ほんの一瞬。だけど、優しくて、でも確かな温度。触れた場所がじわりと熱くなる。 「タクヤ。私は君を愛している」  その言葉を聞いた瞬間、胸がいっぱいになってなにも言えなかった。ただ、涙が次から次へと溢れて、止まらなかった。それは悲しみでも不安でもなくて、ただ嬉しくて……。そして俺は小さく頷いた。 「……俺も……」 「言わなくてもいい。わかっている」  ほんとに? ほんとにわかってる? それが不安で俺は言った。 「俺も……同じ、です」 「……ああ」  そう頷くとレオニスさんは嬉しそうに笑ってくれた。その笑顔がただ嬉しかった。そしてレオニスさんは少しだけ息を吐いて、俺の髪を撫でた。 「もう離れないから。安心して眠るといい」  優しい声に促されて俺は目を閉じた。今寝たらいい夢が見られそうだ。 「おやすみなさい。レオニスさん」 「おやすみ、タクヤ」  その夜、俺は初めて親以外の誰かに愛されているという実感を胸に抱きながら寝た。

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