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第5話 「味のする、味」

※タイでは年上の方に敬称として「P'」を名前の前につける文化があります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 帰りに、今日の夕食の買い出しをした。 今日は自分で作ろうと思う。 島に来てからは外食が続いていたけれど、 本当は、こうして台所に立つ方が性に合っている。 「なに作ろうかなー」 独り言が、湿った夕方の空気に溶ける。 市場はまだ明るかった。 魚の銀色、果物の甘い匂い、 足元に残る水の感触。 Yutoは立ち止まり、 鶏肉を扱う店を覗く。 骨付きのもの、 皮のついたもの。 少し迷ってから、 一番無駄のなさそうな部位を指さした。 にんにくと、生姜。 香りを確かめて、少しだけ。 米は、小袋で十分。 袋を受け取ると、 それ以上は何も買わなかった。 コテージに戻るころには、 空はすっかり暗くなっていた。 小さなキッチンの電気をつける。 白い光が、狭い空間を均等に照らす。 袋から鶏肉を出し、 軽く洗って、鍋に入れる。 水を張り、 塩を少し。 火をつける。 沸くまでの間に、 にんにくと生姜を刻む。 包丁の音は、静かだ。 リズムを刻むほどでもない。 鍋が、静かに音を立て始める。 白い泡が浮き、 Yutoはそれを丁寧にすくった。 蓋をして、火を弱める。 その間に、米を研ぐ。 指先が冷たくなる。 水を切り、 さっきの鍋から、澄んだ湯を少し取る。 刻んだ香味野菜を入れ、 炊飯器の蓋を閉めた。 あとは、待つだけ。 湯気が、ゆっくりと立ち上る。 キッチンに、やさしい匂いが満ちていく。 鶏肉を取り出し、 少し冷ましてから、薄く切る。 白い身は、崩れない。 皿にごはんをよそい、 その上に、切った肉を並べる。 最後に、 鍋に残った澄んだ汁を、少しだけ。 Yutoは立ったまま、出来上がった皿を見下ろす。 派手じゃない。 でも、落ち着く。 スプーンを手に取って、 ひと口。 ……悪くない。 そのとき、 外で、足音がした。 ドアの向こうに、 誰かが立っている気配がある。 Yutoは、まだ気づいていない。

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