5 / 5
第4話 鳳梨
南国の夜は、暗くなりきらない。
湿り気を含んだ空気がゆっくりと肌にまとわりつき、
屋台の灯りが橙色のぼけた丸を揺らし、
鉄板の上で油がはぜる音、
遠くで誰かが笑う声。
街の開けた空間には、
簡素な木のテーブルがいくつも並び、
それぞれのテーブルで、それぞれの夜が進んでいる。
仕事帰りらしい男たちがビールを傾け、
家族連れが屋台フードを囲み、
恋人同士が肩を寄せ合う。
誰も、誰かの物語の主役ではない。
ただ、自分の夜を生きている。
その中のひとつ。
プラスチックの椅子が少しだけ軋む。
テーブルには爽やかで甘い香りが漂う。
Inkがフォークをくるりと回す。
「Rio、俺の好物はこれだ」
「へぇ、さすが南国」
「知ってるか? 中国語で“鳳梨 ”」
Rioが一瞬だけ視線を上げる。
「……へえ」
「鳳凰 の“鳳 ”に、"梨 "」
Inkはわざとゆっくり発音する。
「フォン・リー」
Rioの指が止まる。
「……それが?」
Inkは、少しだけ笑う。
「お前の名前だろう?鳳西 の“鳳”と、梨央 の“梨”」
一拍。
「合わせたら、鳳梨 だ」
…フォークに刺さったそれが食べ頃だと言わんばかりに果汁をひとつ滴らせる。
Rioは少し瞳を丸くした。
「偶然でしょう?」
「かもな」
Inkは一切追給しない。
一切れ差し出すのみ。
「俺の好み」
Rioは躊躇いながらも口に入れる。
「…甘みがつよい…」
「酸味もある」
視線が、ほんの一瞬だけ絡む。
「悪くないだろ?」
Rioは何も応えない
ただ、もう一切れだけ口に運ぶ
Inkは唇の端を上げて笑った。
夜気がひとつ甘くなる
ともだちにシェアしよう!

