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番外編 チョコミント・ドーナツ

ーータイ・バンコク・Inkのオフィスーー Mint(ミント)はデスクに向かい、静かに電話口で話していた。 「はい、承知しました。では確認次第、すぐにご連絡いたします」 声は落ち着いていて、端正でいて柔らかすぎず、きちんと業務の緊張感を帯びている。 電話を切ると、隣でDonut(ドーナツ)が肩越しにじっとこちらを見ていた。 「忙しそうだな」 Mintは眉を少しひそめ、困ったように笑う。 「もう少し片付けが……」 Donutはさっと近づき、Mintの腰に腕を回す。 「もう仕事は終わっただろ?それとも俺と残業でもするか?」 Mintは慌てて腕を押し返し、わずかに声を低める。 「……会社でそれは……それよりDonut、あなた店舗の方に行ってたんじゃなかったんですか?そのまま直帰でよかったのでは」 「なんだ、戻ってきて欲しくなかったとでも言うような口ぶりだな」 「そんなことは…」 「俺の家はここだからな」 そう言うとDonutは微笑んだまま距離を詰め、Mintの肩に顎を軽く寄せる。 Mintは一度息を整え、指先でDonutの腕を押すが、力は強くない。 「……なに言ってるんですか」 Donutは軽く笑う。 Mintは目をそらし、書類に手を伸ばすふりをする。 しかしDonutはくすりと笑い、Mintの腰をさらに引き寄せる。 「もう少し、俺と残業してくれよ~」 Mintは思わず肩をすくめる。口では抗うが、心は少しだけざわつく。 「……集中できませんよ」 「だったら、集中できるように手伝ってやる」 Donutはそう言って、書類に手を添え、Mintの視線を逸らせようとする。 Mintの視線はまだ書類の上 DonutはMintの肩に軽く顔を寄せたまま、上目使いで懇願するように言った。 「Mint…」 Mintは一瞬息を呑み、書類から目を上げる。頬がわずかに熱くなる。 「…っ、仕方ありませんね…」 そう言うと、MintはDonutにそっと近づき、唇を重ねた。 Donutは微かに笑みを漏らし、Mintの反応を優しく受け止める。 MintとDonutの影は自然に近づき、床に映った二つの影はゆっくりと重なった。 オフィスの静けさの中で、ただその影だけが、互いに寄り添う二人の存在を映していた――。

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