1 / 22

第一話 うまい話には裏がある①

「これがロメルさんの部屋の鍵ねー。2階の204号室。なにか手伝いが必要だったら言ってねー」 「ありがとうございます! これからよろしくお願いします」  目の前の男性に礼を言って、おれは自分の部屋に向かった。階段を上り、204号室のドアに鍵を差し込む。中に入ると、暖かな色の壁紙が貼られた部屋が目に映った。  今日からここが、おれが住む家になる。  *  老夫婦が営む雑貨屋に住み込みで働かせてもらっていたおれは、ある日店の主人から店をたたむという話を聞かされた。年齢的に店を続けるのが難しくなってきており、別の町に住む息子夫婦に一緒に住もうと提案されたんだとか。今度町に大きな店ができるというのも理由の1つだろう。  店の主人からは雑貨屋を継ぐかと聞かれたが、おれにはそんな経営手腕も知識もない。別の住み込みで働ける店を探すからと笑って答えた。それが大体2週間くらい前のことだ。  店をたたむ話を聞いた次の日が定休日だったので、おれはさっそく住み込みで働ける場所がないか探しに行くことにした。仕事や家などを紹介してくれる総合紹介所の受付嬢に事情を話すと、住み込みの仕事募集がない代わりにと、とあるアパートメントの入居者募集の紙を渡された。賃貸物件に住んだことがなく相場のわからないおれでも、書かれれている家賃がめちゃくちゃ安いということはわかる。なんとなく気になったので連絡を取ってもらい、その日の夕方に件のアパートメントに向かうことになった。  大通りから1本入った静かな住宅街に建つ、3階建てのアパートメント。正面玄関のドアを開けエントランスに入ると、すぐ右の部屋には管理人室と書かれたプレートが下げてあった。ドアをノックすると中から長身で優しそうな雰囲気のすごく美しい男性が出てきて、柔らかく微笑む。中に案内されると、部屋の中央には向かい合わせに置かれた横長のソファと、その間にローテーブル。ドアから入って正面奥には机が1つあり、壁には本棚がいくつか置いてあった。  部屋に案内してくれた男性はこのアパートメントの管理人だと名乗る。1階は彼の自宅兼仕事部屋である管理人室と備品などが保管されている物置部屋があり、2階と3階が入居者の部屋になっているんだと説明された。  ふかふかのソファに座り出された紅茶を飲んでいると、管理人が口を開く。 「ロメルさん、だったよね。いつごろから入居したい? もう前の人は引っ越してるし、清掃とかはあるけど5日後以降ならいつでもいいよー」 「え? あ……えっと、とりあえず話を聞きに来ただけでして……」 「んー?」  まだここに来て10分も経っていないのに、まるでもう決定事項かのように管理人が話し出したから驚いてしまった。彼は不思議そうな顔で首を傾げて、でもすぐに微笑む。 「こっちとしてはロメルさんなら大歓迎だよ。若くて健康で独身の成人男性、それが入居の条件だからね。なにか問題とか心配事とかある?」 「あ、はぁ……。うーん、家賃ですかね。ほんとにこんなに安いのかっていうのと……一応貯金はありますけどもうすぐ無職になるので、そのへん大丈夫かなと」  おれの質問に管理人は、なるほどね、と呟く。 「うんうん、心配になるのはわかるよー。でも大丈夫。この建物は父親から貰ったもので、そしてオレもそこまで家賃をもらわなくても十分にここを維持できる金があるってだけ。……安心して、変なことはなにもないよ」 「な、なるほど……」  大きくて綺麗な濃いピンク色の瞳にじっと見つめられ胸が高鳴る。よくわからないが金持ちならそういうもんなんだろう、と深く考えずに納得することにした。 「仕事についても問題ないよー。なんだったら相談してくれればなんとでもできるから。だから、どう? ロメルさんがよかったら住んでみない?」 「そういうことなら……はい。お願いします。あ、でも! あんまり滞納とかはしないようにしますので!」 「ふふふ。でも、困ったら気軽に相談してくれていいから……ね?」  ――こうして、おれはこのアパートメントに住むことになったのだった。

ともだちにシェアしよう!