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第一話 うまい話には裏がある②
アパートメントに引っ越してから数日が経った。雑貨屋の閉店作業も問題なく終わり、雇い主だった老夫婦も迎えに来た家族と一緒に新居に引っ越していった。
これからの生活や家賃のことを考えると早く次の仕事を見つけた方がいいだろう。住み込みという条件がなくなったので仕事の幅も広がるはずだ。しかし、学校を卒業してから何年もずっと働いていたので、少しくらいは休んでもいいんじゃないかという気持ちもあり、のんびりと過ごしていた。
管理人も焦らなくていいと言ってくれていたし、と心の中で言い訳しながら冷蔵庫を開ける。冷却魔法がこめられた魔法石を動力として、内部を冷やすこの箱を発明した人は本当に天才だ。発売当初よりは価格が下がったがまだまだ高級品なそれが、このアパートメントではなんと1部屋につき1台備え付けになっている。備え付けだから魔法石の効力が切れても管理人に言えば交換してもらえる。魔法石すら絶対家賃の金額じゃまかなえないのに、金持ちはすごい。
しかし、冷蔵庫は備え付けだが、食料は備え付けじゃない。引っ越してきたばかりだから中には水しかなかった。ごろごろしているだけでも腹は減るので、昼食を買いに行かなければいけない。
小銭入れを持って部屋を出たおれが1階に降りると、ガチャリと管理人の部屋のドアが開くのが見えた。中から住人らしき人が出てきて、あとから管理人も出てきた。
「支払いありがとうねー。来月もよろしくー」
「はい、こちらこそ来月もよろしくお願いします」
住人の男性は頭を下げるとおれが降りてきた階段の方に向かってくる。おれに気づくと挨拶をして、彼は階段を上っていった。
今日は家賃の支払日なのかと気づき、まだ部屋の前に立っていた管理人に声をかける。
「管理人さん、こんにちは。今日って家賃の支払日なんですか?」
「こんにちは。そうだよー。ちょうどよかった。今月分の家賃について話したいから夕方6時にここに来てよ」
「わかりました」
頷くと、管理人は、じゃあね、と笑って管理人室の中に戻って行く。まだ住み始めて数日だし、もともと安い家賃だから貯金にダメージはないはず。
そう思いながらも、買い物に行った店では安い食料を選び、昼食の量も気持ち少なめにしてしまうのだった。
*
夕方6時。指定された時間になったので管理人室に向かった。中に通され、ふかふかのソファに座らされる――かと思ったら、ソファの横に立たされる。なんだろうと思っていると、管理人がふわりと微笑んだ。
「じゃあロメルさん。まだ引っ越してきて数日だし、お金は払わなくていいから……ズボンと下着を脱いで」
「…………は?」
突然なにを言い出すんだろう。おれの反応に管理人は目を瞬かせ首を傾げた。この光景、引っ越す前も見た気がする。
「あーれ? かかりが薄い? まだ越してきたばかりだからかなー。ロメルさん、ロメルさん……オレの目を見て。じっと……」
先ほど言われたことの意味もよくわからないままだが、とりあえず言われたとおり管理人の目を見つめる。彼の瞳の色は濃いピンク色のはずだが、なぜか赤く光っているような……?
「ロメルさん。ズボンと下着を脱いで、オレにおちんぽを見せて」
「え? は? ……おちんぽ?」
端正な顔立ちをした管理人から出たとは思えない単語が聞こえて、思わず聞き返してしまう。おちんぽって呼んでるんだ、とか頭の片隅で考えた。管理人はきょとんとして、それから怪訝そうな顔でこちらを見つめる。そして、ポン、とおれの両肩に手を置いた。なんとなく圧を感じて、頬に冷や汗が伝う。
「ねえロメルさん。精神魔法耐性強いって言われたことない?」
その問いかけに、少し考えたあと――学生時代の記憶がよみがえる。
「……そういえば、学生のときに受けたテストで……精神魔法耐性の数値だけめちゃくちゃ高かったような……?」
「……うーん、そうかあ、なるほどねえ……」
なにか納得したように呟く管理人。おれは先ほどからのわけのわからない言葉の意味を尋ねようとしたが、先に彼の口が動いた。
「困ったなあ。この感じだと記憶改ざんの魔法も通じないだろうし……」
「は? き、記憶……?」
「ふふふ。今までなかったから油断してたなー。ごまかす言い訳も思いつかないし……どうしよっかなー。ね、ロメルさん?」
にっこりと笑う管理人に、背筋がひやりとする。強く肩を掴まれているわけじゃないのに、逃げられる気がしない。もしかして、と焦ったおれは慌てて口を開く。
「あ、あの! よくわからないですけど、なんでもするので、その……追い出すのだけは……まだ、次の仕事も見つかってなくて……」
なんとか言葉を探していると、ぽんと優しく肩を叩かれた。
「だいじょーぶ。いきなり追い出したりなんてするわけないよー」
「ほんとですか?」
「うん。ロメルさんが秘密を守って、ちゃんと家賃を払ってくれたらねー」
「守ります! 払います!」
勢いよく答えると、管理人は右手を肩から頬に移動させ、ゆっくりと撫でた。
「ありがと。じゃあ……払ってね。今月分の家賃ザーメン♡」
「はい、わかりまし……え?」
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