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最終話

 「とてもお似合いですよ」  鏡の前に立つ自分の姿を直視できずに俯くと、「よく確認してください」と風鈴に怒られてしまった。おずおずと視線を上げる。  薄紅色の色打掛を袖に通した自分の姿はあまり違和感がない。白粉と紅で化粧を施したからだろう。  「さすが夜刀様がお選びになったことだけあって朝陽様にお似合いです」  「本当にそう思いますか?」  「もちろんでございます」  風鈴は力強く頷いてくれるが社交辞令に違いない。  「朝陽様は目も大きく、頬もふっくらとして可愛らしい顔立ちなので明るい色がお似合いです」  「それって子どもっぽいってこと?」  「……あら、髪が乱れてしまってます」  風鈴は答えず、かつらの髪を撫でてくれた。図星だったのだろう。  『準備はできたか』  廊下から夜刀の声が聞こえてきた。儀式が始まるまで新郎と新婦は顔を合わせない決まりなのだが、夜刀は待ちきれなかったらしい。風鈴がいたずらっぽく笑った。  「できましたよ」  『入るぞ』  風鈴が声をかけると間髪入れずに襖が開いた。蛇の紋が描かれた漆黒の羽織袴を着た夜刀は朝陽と目が合うと固まってしまった。  「ほら、夜刀様。なにか言うことは?」  風鈴に問いかけられはっとした夜刀はわざとらしく咳払いを一つこぼした。  「……とても、美しい」  「あ、ありがとうございます。夜刀様も素敵です」  「そうか」  目を合わせるのも恥ずかしく、二人同時に床に視線を落とすと風鈴はくすぐったそうに笑っている。  「子どものときに薄紅色の着物を着ていただろう」  「はい。とてもお気に入りでした」  「あの着物で山を走り回る姿はまるで春の精のように美しかった」  「そんな子どものときから僕を知っているですか?」  「もちろん。それに祠も直してくれただろう。気立てがよく、やさしいおまえに惚れるなというのが無理な話だ」  「それは褒めすぎでございます」  特別なことはなにもしていない。ただ自分の思うままに行動していただけだ。  それを極上な言葉で褒められてしまうと恥ずかしくて心臓が痛い。  「おぉ、馬子にも衣裳、豚に真珠とはよく言ったものだな!」  夜刀の後ろから顔を出した龍神は大口を開けてがははと笑った。  婚礼には十二支全員を呼ぶものらしいが、夜刀が頑なに拒んだ。だが龍神だけはなにがなんでも来てやると暴れ回り、困り果てた彼の兎たちに泣きつかれてしまったらしい。  きっと夜刀のことを心配してのことなのだろうが、当の本人は心底嫌そうな顔をしている。  「龍神様、先日は手助けをしていただきありがとうございました」  「対価はしっかり貰うからな!」  「なんだそれは?」  眉を寄せる夜刀に朝陽は苦笑いを浮かべた。  「ここに来れるよう龍神様の祠でお願いしたのです。その代わりに僕の命を、と」  瞬間、夜刀の気配が変わった。髪が切っ先のように尖り、龍神に向けられている。  「貴様、朝陽に手を出したら許さぬぞ」  「こわやこわや。そんなの冗談に決まっているではないか」  「冗談でも言っていいことと悪いことがある」  二人の睨み合いが続くとぱんぱんと軽い音が響いた。  「さぁ時間ですよ。始めましょう」  風鈴声をかけると夜刀の殺気はどうにか治まり、朝陽はほっと息を吐いた。  雅楽の音が鳴り響くなか、婚礼は静かに執り行われる。  参列客は寝殿にいる風鈴を始めとした兎たちと龍神だけ。大切な人たちに見守られて、桜の花びらは祝うように宙を舞った。  「さすがに疲れた……」  簡略化した婚礼とは言え、重量のある色打掛や白無垢を長時間着続けて朝陽の肩はこっていた。  寝間着に着替えると解放感で身体が軽く、このまま眠ってしまいたい。だがそういうわけにはいかない。ここからが本番だ。  朝陽は布団の上に座り、行燈の柔らかな光が灯る室内を見渡し、手鏡を手に取った。  「私の贈り物は気に入ってくれたか?」  首筋に冷たいものが触れ、朝陽は悲鳴をあげた。  「ひゃあっ!」  飛び上がると白蛇に扮した夜刀がにょろりと顔を出した。  「やはり夜刀様からだったんですね」  「いつでも人間界が見れると寂しくないと思ったんだ。でもそのせいで辛い目に遭わせたな」  「いいえ。感謝しています」  寂しいとき朝凪の姿を見て、元気が貰えた。そのお陰で頑張れた部分も多い。  頭を撫でてやるとぱぁと白蛇が光り、寝間姿着の夜刀に変わる。  「朝陽に言わなければならないことがある」  布団に座り、姿勢を正した夜刀からは真剣さが伝わってくる。朝陽は固唾を飲んだ。  「神界と人間界では時間の流れ方が違う。ここでの一月は向こうでは一年になる」  「……だから祐善が産まれていたのですね」  朝陽が過ごした二月は人間界では二年になる。祐善が産まれてもおかしくない。  では人間の朝陽は神界にいたらどうなるのだろう。  疑問に気づいた夜刀は小さく頷いた。  「いまの朝陽の身体は人間界と同じ速度だ。つもりもう二つ年をとり二十一歳になっている」  「全然気づきませんでした」  「短いからな。これが五年、十年となると顔の皺や身体の不調が如実にでる」  「じゃあ僕は夜刀様より早く死んでしまうのでしょうか」  せっかく想いを通じ合えたのに神様である夜刀とは寿命が違う。夜刀にとったら瞬きするより速く自分はいなくなる。  一人取り残してしまう夜刀を考えると胸が苦しい。  「方法は二つある」  一度言葉を区切った夜刀はゆっくりと息を吐いた。  「一つは神界のものを食べることだ。畑の野菜や兎が作ったものだな」  「だから僕の食事は供物だけだったんですね」  「そうだ。一度でも口にすれば二度と人間界には戻れない」  朝陽を人間界に戻す可能性を夜刀はずっと考えていてくれたらしい。やさしい嘘に彼を好きになれてよかったと心から思う。  「もう一つはなんですか?」  「私の……体液を摂取することだ」  「体液って」  「唾液や汗……精液だな」  あけすけな単語におさまった熱が再び上がった。夜刀の耳も薄っすら桜色に染まっている。  「まぐわうことは神力を溜めることの一つだが、人の子を永久の命にすることができる」  言葉を区切った夜刀はじっとこちらを見た。黄金色の瞳は期待と不安で揺れている。  朝陽はにっと笑顔をつくった。  「やります」  「妹や家族の死を見届けるということだぞ?」  朝凪たちの顔が浮かんだ。ここに来ると決めたときから別れる決意はできている。  それに今度はちゃんとさよならも言えた。後悔はない。  「夜刀様と離れる方が嫌です」  「朝陽」  夜刀の顔が近づいてきて、瞼を閉じた。柔らかい感触に口を開けて舌を招き入れ、夜刀の唾液を啜った。  接吻をしながら布団に押し倒され、夜刀の長い髪が頬に触れてくすぐったい。  寝間着の紐を解かれて、肌が露になる。暗がりでも蛇の夜刀にはよく見えているのだろう。  朝陽は腕を交差させて隠そうとしたが、難なく掴まれて布団に縫いつけられてしまった。  「全部見せろ」  「見なくてもできますよ」  「……見せてくれ」  鼓膜を震わせる甘い声にきゅうと喉が鳴った。夜刀はもしかしたら甘えん坊なのかもしれない。  力を抜いて右手を繋ぐと夜刀の手のひらがしっとりと汗で滲んでいる。興奮してくれていることに胸が淡く疼く。  夜刀の唇が頬、首筋、鎖骨と降りていき、乳首をちょんと触れられると肩が跳ねた。  「感じやすいな」  「んんっ……そういうこと言わないでください」  「可愛い」  ふうと息を吹きかけられ、濡れた乳首はぴんと尖った。自分のいやらしさに目尻に涙が溜まる。  赤子のように乳首を吸われ、声を上げそうになった。さっきまで意識したことのなかった箇所が夜刀の手によって存在を変えられてしまう。  声を出さないよう耐えていると夜刀は身体を起こした。  寝間着を手早く脱ぎ、夜刀の目がきらりと光る。うっとおしそうに髪をかき上げる雄の貫禄に心臓が早鐘を打ち鳴らし始めた。  (なんて美しいのだろう)  夜刀の姿に呆けていると再び覆いかぶさられ、彼の舌が臍から下へと移動する。  大口を脱がされるとぴょこんと朝陽の性器が飛び出てしまった。先端から先走りを溢れさせ、茂みまで濡らしている。  そこを食い入るように見られてしまい、朝陽は太腿を閉じた。  「はしたなくて申し訳ありません」  「だから隠すなと言っているだろう」  「でも僕だけ、こんな」  一人で感じているのは寂しいと訴えると太腿に硬いものを擦られた。自分のものより張りがある。  「私も同じだ」  「……触ってもよろしいですか?」  「一緒にやろう」  お互いの性器をくっつけられ、どくどくと脈打っているのがわかる。二本の根本を掴むと上から大きな手を添えられた。  上下に扱き、皮と皮が擦れあう。自慰とは違った快楽が生まれ、朝陽は我慢できるに嬌声をあげた。  「あっ、あ……んん」  「腰まで振りおって……気持ち悦いか?」  「はい、あっあ、んぁっ!」  精子がせり上がってくる。亀頭からどんどんと愛液を垂れ流し、滑りも手伝って動きが荒々しくなってしまう。  「あっ、あーー」  視界が白ずみ朝陽の腹に熱い飛沫がかかる。余韻に震えていると夜刀は唇を重ねてくれた。  「随分早いな。私も人のことを言えないが」  「すいません」  「まだ終わりじゃないぞ」  ひょいと夜刀の上に乗せられ、上下逆さまに入れ替えられた。夜刀の眼前に自分の肛門を曝け出す体勢にさせられ、目を回した。  「夜刀様!?」  「いい眺めだ。ここは桜色をしているな」  「あっ、あぁ……だめ、んん、あ」  夜刀の長い舌が襞をぐるりと一周する。唾液を中に塗り込ませるような舌の動きがいやらしい。  快楽に耐えていると朝陽の正面には夜刀のそそり立つ性器があった。一度達したはずなのに萎えていない。大木のように太く、亀頭から先走りが溢れている。 (勿体ない)  舌を伸ばしてちろりと舐めた。甘い。金平糖より甘いかもしれない。  夢中になって先端を舐めていると夜刀のくぐもった声がする。こんな拙い口淫に感じてくれているらしい。  嬉しくなって窪みや先端を舐めていると夜刀の舌の動きに遠慮がなくなった。  中に入られ肉壁を押される。ぐりぐりと壁を押し広げながら、奥へと入ってくる。  ある一点に触れられるとびりっとした快楽が走り、朝陽の背中がしなった。  「ここだな」  仕返しとばかりにそこを何度も押されると悲鳴のような声をあげた。  「ひっ、あぁ……あっ、そこ、や……!」  朝陽は性器を口から外し、左右に首を振った。でも夜刀は止めてくれない。執拗に攻め立てられ、性器が再びぐんと張りつめる。  「ほら、ちゃんと舐めて体液を飲め」  「わかって、ま……あっ、あぁ、んっ!」  指が入ってきて中をかき混ぜられる。痛みはなく、圧迫感で腹が重い。そう訴えたいのに自分の口からは甘えた声しか出せなかった。  「……もういいか」  ずるりと指が抜かれ、それにも感じてしまう。再び体勢を変えさせられ布団の上に横たえ、両足を広げる。夜刀がのしかかった。  「挿れるぞ」  「はい」  ゆっくりとじれったくなるように性器が中に挿入る。肉壁が歓喜してきゅうと締めつけてしまい、夜刀は小さく笑った。  「朝陽の中は特別温かい」  「……んっ、そういうこと、言わないでください」  「ふふっ。可愛いな」  可愛い、好きだと譫言のように呟きながら夜刀は腰を進めた。指とは違って圧迫感がある。苦しい。内臓が押し上げられるような感覚に涙が出ると長い指で拭ってくれた。  見上げると黄金色の瞳が雄弁に好きだと伝えてくれる。  嬉しくなって夜刀の背中に腕を回し、奥へと誘った。  いつも寒そうにしている夜刀の背中が汗をかいている。顔も上気し、額にも薄っすらと汗の雫が見えた。  興奮してくれている。嬉しい。  「中にいっぱいください」  「……おまえは!!」  遠慮がちだった腰ががんと最奥を突かれた。その拍子に達してしまい、目を剥いた。  腰を掴まれ、夜刀の律動が激しさを増す。振り落とされないように背中に爪を立てた。  「あっ、ああっ、んぁ!」  「ーーっ」  中が熱くなると自分の性器からも白濁が飛び出した。長い射精に一瞬意識が飛ぶ。  くたりと腕が落ちると夜刀は手を繋いでくれた。  「これで終わりじゃないからな」  「……少し休憩させてください」  「だめだ。おまえが焚きつけたんだろ。私の子種がなくなるまで注ぎ続けるぞ」  怖すぎる宣言になにも言い返せない。確かに欲しいとは言ったけれど、限度というものがある。  「それはーーっ」  口を開くと接吻をされて、唾液を注ぎ込まれた。そちらに気を取られていると再び律動が始まる。  上からも下からも夜刀の体液を一晩中注がれ続けた。  「見て、夜刀様。また村に新しい人が引っ越してくれたみたいです」  「そうだな」  手鏡に映る村の様子に朝陽の胸が温かくなった。  朝陽が夜刀に嫁入りをしたお陰で神力が戻り、澄んだ川が流れ人々の暮らしを支えている。  だがそれだけではなく、この村に来れば良縁に恵まれるという噂が広まったらしい。  その噂通り、結婚する人も増え、村はかなりの大所帯になっていた。  例にもれず祐善も立派な成人になり、もうすぐ稚児も生まれる。  朝陽は楽しみなことがどんどん増えていく日々を噛み締めていた。  「これからずっと続くんですね」  「もちろんだ」  目を細める夜刀の瞳に魅入られて、ぽっと頬の熱が灯る。夜な夜な身体を重ね、隙あらば接吻しているがいつまで経っても夜刀の美貌に慣れない。  騒ぎ始める心臓に手を置いていると夜刀のものが重ねられた。  「すごい速さだな」  「夜刀様のことを好きすぎるんです」  「……朝陽は素直で可愛いな」  顔が近づいてきてぎゅっと瞼を閉じた。触れるだけの接吻をしながら、やんわりと押し倒される。直したばかりの布団に受け止められ、朝陽は目を回した。  「や、夜刀様!」  「朝陽が可愛いのが悪い」  「さっき終わりだって仰ってました」  「気のせいだ」  「もう……んん」  夜刀の手が寝間着の間をすり抜け、朝陽の弱いところに触れてくる。もうそうなると蕩けるまで愛撫されるのがわかっていた。 朝陽はそっと手鏡を置き、愛する夫の背中に腕を回した。  

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