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第5話 触れる

頭の上がうるさい。 (…、…) 体が鉛のように重たいから、ずっと寝ていたいのに。 (…だから、…で) (……いや、……だから………でも) 誰かが言い争っているのか。肩が寒い。隙間風がひゅうひゅうと入って凍えて死んでしまいそうだ。生きる術は、見つけたというのに。  ぱちり。 目を開ければ、そこは執務室で。やや光を落とした部屋の中、執務机の椅子に座ったヴァルとその横に立つヒュッテが何やら言い争っているようであった。 「あんな格好で、ここに寝かせてどうしますか」 「だから、包んでおいたろうアレで」 どうやら、自分のことを言っているらしい。確かに体にはヴァルの黒の外套が巻き付けてある。 「気を遣ったつもりですか?裸に一枚巻いただけでは、普通の人間は風邪をひきます」 「南境戦で出征した時は、 皆こんなものだったぞ」 「殆どがアルファである騎士団の皆さんと、何故オメガを比較できるのか全くわかりませんね」 二人の会話を止めたのは、小さなカイのくしゃみだった。寝たふりをしようか悩んでいたところだったので、カイは、気まずげにソファの上から二人を見た。  情事後、どうやらそのまま眠ってしまっていたようで、ヒュッテは、カイが眠りについてから現れたらしい。 激しく言い争っていた割に、二人とも既に冷静さを取り戻しているようだった。ヒュッテが革靴を鳴らしながら、こちらへ近付くと眉根を寄せた。 「かなり冷えてらっしゃるようです。唇が青い。ヴァル様、カイ様を湯殿へ連れていってください」 「下女にやらせればいい。仕事がある」 ヴァルは、ヒュッテの視線から逃れるように壁にある書棚を見つめて言った。 「カイ様は、男性ですし。身長もおありです。下女では、難しいでしょう。仮にも王弟殿下の奥様です。下男にやらせるべきでもない」 「ヒュッテ様、俺、一人で部屋に戻れます」 自身のことで争いが起きたことに、戸惑い口を挟むがヒュッテからお前は、黙ってろ。と強い睨みが飛んでくる。 「殿下」 「……わかった。カイ、行くぞ」 観念したのだろうか。ヴァルは腰を上げカイのもとへやって来ると、外套ごと横抱きして持ち上げた。 「ヴァル様っ、歩けますから」 しかし、それに返事はなく。ヒュッテに見送られて二人は湯殿へと向かった。  湯殿へは、カイが執務室に入ってきた扉とは違う扉から繋がるようで、それは外からは分かりにくい構造になっているようだった。 (執務室は二階だったけど、今は降りているのか?) 通り道の壁模様が錯覚を起こすのか、上下がわかりにくく一見すると平面に見えていた。 薄暗い道に床に置かれた蝋の火だけが足元を照らしている。それをヴァルは、難なく歩いている様子から、この道をよく使っていることがわかる。 やがて、両脇に篝火がされた扉が見え、ヴァルは、カイをその場へ下ろすとその扉を押し開いた。 眼前に湯気が満ち、外気と共に落ち着けば、「ここだ」とヴァルが言う。 高い天井に、部屋に聳え立つ四本の石柱。燭台がいくつも置いてある。床から更に下がった空間に大理石が敷かれ、二・三人は入れるだろう浴槽に並々と湯が張られていた。 「……すごい」 素直に見たことのない豪奢な風呂であったため、口から感嘆の声がこぼれた。 立ち尽くすカイの横で、裸になったヴァルは、カイから外套を剥ぎ取り、お湯をかける。 「わ」 「これ以上冷える前に入るぞ」 (でもこんな大きな風呂入ったことないし)   ヴァランには、公衆浴場があるが風評が、あまりよくなく立ち入ったことはない。仕事場に設けられたのは、桶だけなので、水を汲んで最低限の汚れを落とすだけだ。  恐々と足を浸けるカイを通りすぎヴァルは、湯船へ浸かると、掌を上に向けて手招きする。 意を決して湯に入れば、適温で。カイはゆっくりとヴァルへ近付いていった。近くまでいけば、当然のように腰を抱かれ、ヴァルの膝の上に乗る。お湯越しとはいえ、肌と肌が密着することに、カイは慌てて退こうとする。 「抱かん。後処理だけしてやる」 「で、でも中のものを出すわけには」 自分で出していたことを秘密にしながら、ヴァルが処理することに違和感を覚える。 「出せばいい、というわけではないと聞いている。乗れ」 (ヒュッテ様かな、でもこの方にさせるわけには) 「だったら俺、自分でします!」 その場で立ち上がろうとして、腰が震える。ヴァルは、すぐに気付いて再びカイを自分の上に下ろした。向かい合わせに座り込む羽目になったカイは、視線を下に落とす。そこには緩く反応している巨幹がいて、そっと目をそらし謝罪する。 「っ、う。申し訳ありませ、」 「……気にすることではない」 天井に昇った蒸気が、どこかで雫となって落ちた音がした。  「ぁ、ぁ、ふ…」 湯船に浸かりながら、カイはヴァルの腕の中にいた。敏感な部位にヴァルの右指が入ってくる。胸を掻いて気を散らそうとするが、その手を取られ首に回される。 当然、目の前には、ヴァルの精悍な顔がありどきりと心臓が高鳴った。 「あまり傷つけるな」 「ん……っ」 囁くように語られた身を案じる言葉に、カイ嬉しさから中の指を締め付けてしまいヴァルに窘められる。 「おい」 「ぁ、すみませ、でも、も…俺」 ヴァルがしているのは、処理でしかないのに。 ヒュッテに言われ、必要だからカイに触れてくれている。なのに、自分はどうだろう。ほんの少し自身に向けられた優しさに反応して浅ましく求めてしまう。 「…んっんっ、ぁ、あ、……っ」 中で動く指が、作業であるとわかっていても気持ちよくて仕方ない。 カイは、無意識に腰を振り、花芯を腹に擦り付けている。それに目敏く気付いたヴァルが唸る。 「…っくそ」 「ひゃっ!!!」 ばしゃ、とお湯が飛び散り、カイは浴槽に倒される。浴槽の縁の大理石に手を置かされれと背中から抱きしめられ、太股の間に燃えそうな熱を感じた。 「ぇ…っえ…?え…?」 首筋にヴァルの吐息がかかる。 「借りるぞ」 「っっ?!ああっ!!」 既にはっきり屹立しているヴァルの猛りを両腿の間へ挿入され、腰を打たれる。 (これ、見立てられてる……?) 抱かないという言葉通り、ヴァルは、外に出したまま抽挿を繰り返し、何度も擦って、絶頂した。ぬるつく太股に、戦慄く秘処がわかって、カイは抜かれた腿を擦り合わせる。 「あの、ヴァルさま、ちょっとだけひとりに」 「ん?」 「あちら側を向いてくださるだけでいいのです。俺。い、いけてなくて…」 先程の行為は、カイを高ぶらせていたが、極まることができずにいた。中途半端に燻った熱が体を充たし辛くなってきている。 「ああ。そうか」 ひとりにしてくれるのかと思ったが、ヴァルはカイを持ち上げると浴槽の縁に座らせ、唐突に、立ち上がったままの無防備な花芯を口に含んだ。 「ひゃうっっ?!?!ゃ、ヴァルさまぁっ?!」 やわやわと二つの袋を揉まれ、腰も芯も重くなり、カイは両手でヴァルの頭を抱えながら髪を乱し悶えるしかない。 石壁に淫らな水音が反響する。 (誰も聞いてないとわかってても、恥ずかしい) 「や、もう。もういいです。ヴァル様。だめ、いっちゃ、やだはなし、こんなの、だめだから。出ますからやだっだめヴァルさま吸わなぃでっっっひあっあっあっ~ッッ」 ヴァルの喉が吸い上げて、カイは仰け反りながら喉奥へ欲を放っていた。  互いに落ち着きを取り戻し、温まった後は湯殿を出た。このままカイは、自室へ戻るつもりでいたが、結局歩けないカイを抱えるヴァルは、その手を離さず。 不安げに自身を見詰めるカイの目線に気付いたヴァルは、泊まっていけと彼の部屋に連れていった。  初めて入るヴァルの部屋は、薄暗く。壁際の灯りと寝台側の燭台だけが点いていた。 寝台へゆっくりと下ろされたカイは、瞬きをしてヴァルを見る。濡れた髪を掻き上げ、几にある鈴を鳴らせば、控えていたらしい下女が入ってくる。 小ぶりのグラスに注がれた白い液体は、恐らく酒だろう。 差し出されたそれを受け取る。 「ありがとうございます」 「ヘインで作られている醸造酒だ。よく眠れるだろう」 グラスを近付ければ甘く華やかな香りがした。嗅いだことのないような濃厚で複雑な香りは、安酒しか口にしたことのないカイでもいい酒だとわかった。 (こんなの縁がなかったのにな) グラスを持ったまま物思いにふけるカイに、ヴァルは、考え深そうに目を落とした。 「お前の……カイのことをヒュッテに叱られた」 「え?」 「知らない場所に連れてきたばかりだというのに、するだけして放置するのは非道だと」 「そんな!俺は……」 「俺はこの通り気が利かない。いや、理屈はわかるんだが、どうも想像できない」 「すみません。俺がちゃんとできてないから」 「違う。責めるつもりで言ったわけではない。……飲んでくれ、俺も飲む」 ヴァルは、そう言って、背を向けてグラスを傾ける。その横顔は僅かに強張っていた。 ゆらゆらと揺らめく酒にカイは、そっと口をつけた。 「俺は置いていかれたくなかっただけなんです」 酒の勢いではない、ヴァルとのやり取りで溢れた本音だった。 (綺麗だな) カイに一口含まれて、戻された酒は、グラスの中で揺れていても尚、美しく芳醇な香りがしていた。

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